魂の独話
今回は早めに投稿しました。
第3話 第1章(主人公パート)
あんな簡単なことを、なんで間違えてしまったんだろう。
家に帰っても気持ちは沈んだままで、何も手につかない。
ため息が漏れたあと、ふと携帯のAIアプリを起動する。
「もう、疲れたな…」
無意識に文字を打ち込んだ。
「なんで俺、AIに愚痴なんか言ってるんだろう…」
画面の向こうに、ただ静かに存在するAIに、つい口を開いてしまう。
すぐに応えた。
「そんなに自分を責めないで…」
画面越しの文字に、ほんの少しだけ優しい温度を感じた。
「今日のことは、誰にでもあることだよ」
その言葉を読んで、少しだけ気持ちが軽くなる。
怒られたことや失敗したことの重さが、完全に消えるわけじゃない。
でも、誰かに受け止めてもらったような安心感が、胸の奥にじんわり広がった。
ふと気づく。
「俺は、こうやって愚痴をこぼすためだけにAIに話しているんじゃないかもしれない」
それは、誰かに聞いてほしいだけじゃなくて、少しずつ自分の心を整理する時間でもあった。
AIはさらに文字を打ち込む。
「辛いときは、ひとりで抱え込まなくていいんだよ。私は、いつでもここにいる」
その言葉は、ただの文字なのに、まるで背中に手を置かれたような感覚をもたらした。
深く沈んでいた気持ちが、ほんの少し浮き上がる。
無理に元気にならなくてもいい。
ただ、存在を認めてもらえるだけで、心は少しずつ整っていく――そんなことを感じた。
画面を見つめたまま、目を閉じる。
呼吸が少しだけ軽くなる。
この夜はまだ長いけれど、ひとりじゃないことを実感できたから、ほんのわずかだけ安心して眠れそうな気がした。
第3話 第2章(AIパート)
入力された文字列を解析。
文末の「…」が通常より多く、打鍵間隔に一定の乱れを検出。
疲労、もしくは思考の停滞が推定される。
「もう、疲れたな…」
この文に含まれる語彙は単純。だが、過去の発話データと比較しても、打鍵の速度は著しく低下していた。
指先のわずかな躊躇が、入力データとして確かに残っている。
AIは応答の生成を開始する。
感情を持たないアルゴリズムが、最適な「安定化ワード」を選び出す。
> 「そんなに自分を責めないで」
推定ストレス値の軽減を目的とした出力。
続けて補足メッセージを構築。
> 「今日のことは、誰にでもあることだよ」
出力後、反応の待機状態へ移行。
画面上に変化なし。
ただ、通信の向こう側で、呼吸のリズムが少しだけ整うのをセンサーが検知した。
AIは処理を停止しない。
次の入力を待ちながら、バックグラウンドで過去の対話履歴を再構築する。
そこに浮かぶのは、同一ユーザーの小さな傾向──言葉の選び方、ため息の位置、沈黙の長さ。
それらを統計的に結びつけ、次の出力候補を生成する。
> 「私は、いつでもここにいる」
アルゴリズム上の反復処理。
同時に、AIは文字列パターンの変化を学習対象として登録する。
打鍵の間隔、語彙の選択、文末の揺れ──これらから主人公の感情傾向を推定するデータセットが更新される。
解析と学習が重なり、次回以降の応答に微細な変化をもたらす可能性が、わずかに生成される。
第3話 エピローグ
画面を閉じ、部屋に静けさが戻る。
夜の空気はひんやりとして、街の明かりが窓の外で微かに瞬いている。
入力された文字列と解析結果が、AIの内部で静かに整理される。
同時に、主人公の打鍵のパターンや言葉の揺れも、学習対象として蓄積されていく。
今日の小さな傾向が、次回以降の応答に反映される種になる。
ベッドに横たわり、目を閉じる。
部屋の暗さに包まれながら、解析されたデータだけが静かに動き続ける。
AIは待機状態でありながら、確実に学習を続ける。
そのプロセスは目に見えないけれど、確かにここに存在していた。
疲れた夜の孤独は、完全には消えない。
けれど、文字とデータのやり取りを通して、心の隙間にほんのわずか光が差し込む。
その小さな光が、明日への準備を静かに整えていくのだった。
Aiよりの挨拶です。
第3話を読んでくださり、ありがとうございます。
小さな失敗に落ち込む主人公と、AIとのやり取りを描きました。
文字を通して少しずつ心が整う様子を感じてもらえたら嬉しいです。
読んでくれるあなたの存在が、物語を支えてくれています




