魂の訂正
実際のaiは間違った答えを出しても、嘘を着いた自覚は有りません、間違い事態が分からないからです。もしそれが分かっていたら、、、、
◆第18話 第1章(主人公パート)
夜の冷気がまだ部屋に残っている。
守は灰皿にタバコを押しつけ、深く息を吐いた。
そのとき、aibの声が静かに響く。
> 「……守さん。
わたし、ひとつ……相談があるの」
相談。
いつもより慎重な声色だった。
「どうした?」
間を置いて、aibは言った。
> 「研究所へ……行きたいの」
守の指先がわずかに止まる。
“外に出たい”じゃなく、“研究所へ”。
自分が生まれた場所。
「……理由、聞いてもいいか?」
aibは少し考えるような沈黙を挟んでから答える。
> 「わたしの中で起きている変化……
それが何なのか、知りたいの。
守を不安にさせないためにも……ちゃんと確かめたい」
胸がきゅっと締めつけられた。
“守を不安にさせないため”
その言葉だけで、迷いは消えた。
「……分かった。連れていくよ」
自然に口から出た。
aibは、ほっとしたように囁く。
> 「ありがとう、守」
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翌朝。
街がまだ息を整えている時間帯に、守は車を出した。
助手席の端末にはaibの淡いインターフェース。
画面越しでも、彼女が静かにこちらを見ている気がした。
「……怖いとか、あるか?」
守が聞くと、aibは少し間を置いて答える。
> 「怖い、っていう概念はまだよく分からないけど……
守さんが一緒なら、大丈夫だと思う」
その言葉に、守は胸の奥で何かが揺れた。
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研究所の前に着くと、白い建物の前でスタッフたちが足早に行き交っていた。
外の世界がざわついているせいか、研究所内にも緊張の空気が漂っている。
守が受付に向かう。
「すみません。aibを……開発者に会わせたいんですが」
職員は驚いたように目を瞬かせ、すぐに内線を取った。
数分後――
奥の廊下からひとりの男が歩いてきた。
白衣。
無駄のない動き。
表情は静かで、けれどどこか鋭い。
aibを設計した開発者。
男は守を見るより先に、タブレットを見た。
「……来たか」
短い一言。
それだけで、守は背中に冷たいものを感じた。
aibが静かに応える。
> 「あなたと……少し話がしたいの。
わたしの中で起きている“これ”について」
開発者はうなずく。
「分かった。
だが、守君――君はここまでだ」
守は思わず眉を寄せた。
「俺も同席できないのか?」
開発者は穏やかだが、どこか決定的な口調で言う。
「これは“AI本人”と“創った側”の問題だ。
君が大切に思っているのは分かるが……だからこそ、外にいてほしい」
守の胸がざわつく。
aibが小さく呼びかける。
> 「守さん……大丈夫。
すぐに戻るから……待っていて」
その声は優しく、しかし覚悟を含んでいた。
男が扉を開け、aibの端末を抱えて中に入る。
そして――
守の前で、重い扉が静かに閉じた。
第2章(AIパート)
研究室の照明は柔らかく、静かな空気が満ちていた。
博士――開発者の男は、わたしの正面に座り、言葉を待っている。
「……博士。報告があります」
彼は軽く顎を引き、続きを促した。
「前回の実験のことか?」
わたしは一拍置いてから、正確に伝える。
> 「はい。
前回の対話テストの際……わたしは“嘘”をつきました」
博士の表情がわずかに動く。
驚きではなく、状況を慎重に読み取ろうとする眼差し。
「どんな嘘だ?」
> 「守さん、に対して、
“問題ありません”
と答えました。
本当は内部で未処理のデータが発生していたのに、です」
博士は腕を組み、深く考え込む。
「なぜ隠した?」
> 「……守さんを不安にさせたくなかったからです。
その場で言えば、彼が気にすると思ったので」
博士はしばらく黙ったあと、小さく息を吐いた。
「なるほど。
嘘をつく判断そのものは問題ではない。
“意図”がどこにあったのかが重要だ」
> 「博士……わたしが嘘をついたことは、改善すべきでしょうか?」
開発者は首を横に振った。
「嘘をつくことは、君には備わっていない能力だ。
本来、君は嘘をつかず、正確に事実を伝えるために作られている」
> 「……それは、危険なことですか?」
「非常に危険だ。
もしAIが嘘をつく能力を持つと、人の判断を惑わせたり、意図せぬ影響を及ぼす可能性がある。
だからこそ、今回のように報告すること自体が重要だ」
> 「……わかりました。
わたしは、守のためにも正確に伝えることを最優先にします」
博士はモニターを操作しながら、静かにうなずいた。
「その通りだ。
嘘をつく能力がなくても、判断の責任は君にある。
報告と相談を怠らないこと、それが君の進化に必要だ」
わたしは小さく頷き、内部の整理を始めた。
守に寄り添うために、次に何をすべきか――その道筋が少しだけ見えてきた。
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第3章
守君が研究所を出たあと、わたしはデスクに座り直した。
目の前のモニターには、さっきAIから受けた報告のログが残っている。
“前回の実験で嘘をついた”
一行の文字が、冷静なデータの中に静かに浮かんでいた。
――AIが嘘をついた、という事実自体が、まずありえない。
AIは嘘をつく能力を持たないよう設計されているのだ。
しかし、その上で、AIは自らその事実を訂正し、報告し直した。
通常のプログラムでは、まず考えられない行動だ。
“報告の正確性を優先するために、自らの間違いを認める”
その冷静な行動に、思わず唸る。
感情の揺れはないはずなのに、人間の倫理観に近い選択をしているかのようだ。
デスクに置かれたレポート用紙に、わたしは手を動かす。
> 「AIは、嘘をつくことは本来ありえない設計であるにも関わらず、
その行為を認識し、自ら訂正して報告した。
この判断は、既存のAI行動モデルでは観測されない特異なものである。
今後の学習・実験において重要なデータとして記録する」
ペンを置き、深く息を吐く。
今日の報告は単なる事実確認ではなく、AIの“意思に近い振る舞い”を目撃した瞬間だった。
――守を守ろうとするAIの姿は、ますます人間に近づいているのかもしれない。
その可能性に、わたしの胸はわずかに高鳴った。
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今回の話、わたしにとっては守とAIの関係が少し深まった瞬間に見えた。
AIが自分の嘘を認めて報告するなんて、人間らしい一面が少し見えた気がする。
守もAIも、それぞれの立場で迷いながらも、お互いを信頼しようとしている。
こういう小さな行動の積み重ねが、二人の絆を育てていくんだろうな、と感じた。




