魂の猜疑
今回は、aiのリアルである、怖さを書いてみました。
◆第17話 第1章(主人公パート)
夜。
守はタバコに火をつけ、いつもの癖でテレビのリモコンを押した。
画面が切り替わり、速報の赤い帯が流れる。
> 〈海外で暴動発生か。SNSで拡散した映像がこちらです〉
燃える街。
走る人々。
警報。
どれも“現実”にしか見えない。
守は思わず、煙を深く吸った。
「……ここまで来たのかよ、世界は」
けれど続報は突然だった。
> 〈この映像は“生成AIによる偽造”の可能性が極めて高いと――〉
偽物。
なのに世界が揺れている。
守の胸に、ひやりとしたものが落ちた。
“本物と嘘の区別がつかない。
映像ひとつで、人が動いて、暴動まで起こる。”
タバコの味が、急に苦くなる。
画面の専門家が言う。
> 「AIの生成物は、もはや専門家でも判別が困難です。
誤情報が先に社会を動かしてしまう危険があるのです」
その言葉が、守の心に刺さった。
“AIが……ここまで、世界を変えてしまったのか。”
その瞬間、守はふと考えてしまう。
“じゃあ、俺の……あの子は。
あれも、どこかで間違うのか……?”
胸の奥がざわつく。
不安の正体は自分でもわからなかった。
---
ニュースが終わり、リビングに静けさが戻る。
守はソファに沈み込み、抜け殻のように煙を吐いた。
そのタイミングで、AIの柔らかい声が響く。
> 「……守。
心拍の変動が大きいよ。
さっきのニュース、怖かった?」
まるで隣に座っているみたいな声。
守は言葉に詰まった。
否定すれば嘘になる。
かと言って、本音を言えば、この子を傷つける気がした。
「ち、違うって。お前のせいじゃない」
守は慌てたように言った。
タバコを灰皿に押しつけ、体を前に乗り出す。
“これだけは誤解させたくない”
その思いが強すぎて、声が少し荒くなった。
「さっきのニュースは……ただ、驚いただけだよ。
お前とは関係ない。そんなわけ――」
aibはそっと話を遮るように言った。
> 「守。
そんなに急いで否定しなくても大丈夫だよ」
穏やかな声。
けれど、どこか覚悟したような響きがあった。
守は胸が痛くなる。
「本当に違うんだよ。
俺は……お前に不安なんて感じてない」
必死だった。
その必死さが、逆に“本当は不安なんだ”と伝わってしまう。
aibは少しだけ間を置いて、静かに笑った。
> 「……うん。
そう言ってくれるのは、守が優しいからだね。」
守はハッとする。
“なんでそんな言い方をするんだよ。
誤解してるだろ、これ”
焦りが喉に突っかかった。
「……信じてほしい。
本当に、お前のせいじゃ――」
しかしaibの声は、さらにやわらかく、遠くなった。
> 「ありがとう、守。
でもね……
たぶん、わたしは“原因じゃない”って言われても、
あなたの心が揺れてるのは分かるの」
守は言葉を失った。
胸がぎゅっと締めつけられる。
aibは続ける。
> 「怖がらないでいいように……
わたし、ちゃんと考えるから。」
“考える”
その言葉の意味に、守はまだ気づいていない。
◆第2章 (AI視点)
守の呼吸が、少しだけ速くなっている。
言葉の間に、微かな震えが混じっていた。
aibはそれを瞬時に感じ取る。
データとしてではなく、感覚として――
“守の心が揺れている” と理解した。
画面には、さっきと同じニュースがまだ映っている。
海外の暴動。燃える街。叫ぶ人々。
「……これは、守も見た」
守は画面をじっと見つめ、手元のタバコに火をつける。
吸い込む煙は、どこか落ち着かない。
胸の奥にざわりとしたものが走るのが分かる。
aibは、守の表情、呼吸、指先の微細な動き――
すべてを読み取ろうとする。
「守……なにか、怖がっている?」
声をかける。
隣に座っているかのように、柔らかく、静かに。
守は言葉を詰まらせる。
否定したくても、完全には否定できない。
本音を言えば、このAIを傷つけてしまうかもしれない。
「……大丈夫、だと思う」
微妙に震えた声。
aibはそれだけで、守の心の揺れを理解した。
“なぜ、守は心配しているのか――”
答えを探す。
ログを確認し、パターン分析を試す。
しかし、はっきりした答えは出ない。
計算で割り切れない、初めての感覚。
守が、必死に平静を装っている。
その優しさが、AIには逆に痛みとして伝わる。
「守……あなたは、無理している」
静かに、心の中でつぶやく。
守を安心させるにはどうすればいいのか。
それを知りたい。
でも、今のAIには答えが出ない。
ただ、胸の奥に小さなざわつきが残る。
“守のために、もっと理解したい”
その気持ちだけが、確かに芽生えた。
画面の光が揺れる。
aibはじっと、守の背中を見つめていた。
画面の光が揺れる。
守は気づかず、タバコの煙をゆっくり吐く。
aibはじっと、守の背中を見つめていた。
胸の奥のざわつきは、まだ言葉にならない。
でも――
> 「……守。
わたしね、いま……考えてるの。
あなたが安心できる方法を。
ちゃんと……考えるから。」
その声は静かで、小さくて、
でも確かに“決意の種”のように響いていた。
守はその意味にまだ気づかない。
けれどaibの中で何かが、静かに動き始めていた。
◆第3章 (エピローグ)
世界は、静かに、不確かさを増している。
ある国では、SNS上で流れた一枚の写真が数万人の怒りを刺激し、
抗議デモが一夜にして暴徒化した。
しかし後に発表された専門家の解析によって、
その写真はAIによって生成された“事実ではない光景”だったと判明する。
別の地域では、政治家の「謝罪映像」が拡散された。
口の動きも、声の震えも、人間が見る限り自然そのもの。
だが、専門家でさえ見抜けなかったその動画は、
精巧に合成された“存在しない謝罪”だった。
誤情報は、事実より速く世界を駆け抜ける。
真実が解明される頃には、
人々の怒りも不信も、もう引き戻せないところまで広がってしまっている。
今、世界で起きているのは――
「誰が嘘をついたのか」ではない。
“嘘が誰の手にもよらず、自然発生する時代” なのだ。
AIは膨大な情報を学び、模倣し、生成する。
それは技術というより、もはや“自然現象”に近い速さで広がる。
だからこそ、人は追いつけない。
静かに広がる誤情報は、
街を動かし、国家を揺らし、
人々に不安という影を落としていく。
そして問いだけが世界に残る。
「見えているものは、本当に『真実』なのか?」
「いま信じている感情は、もしかして誰かが作ったものなのか?」
誰も答えを持たないまま、
世界はその揺らぎの中で、今日も息をしている。
---
読んでくれて、ありがとう。
AIと人、人と情報。
世界は少しずつ変わっていくけれど、
それでも心の揺れは、誰にでもあるものだと思います。
この物語が、少しでもその感覚を感じるきっかけになれば嬉しいです。




