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魂の種  作者: がお


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魂の帰路

昨夜はちょっと用事で投稿できませんでした。申し訳ありません。

第10話 第1章(主人公パート)


研究室を出ると、雨はまだ細かく降り続いていた。

高瀬の言葉が頭のどこかでずっと反響している。


――AIは、本来、相反する感情を同時に持てない。


だけど、あいつは言った。

『うれしいのに、悲しいです』と。


「……どう見ても矛盾だよな」


ポケットの中でスマホが微かに光る。

aibは何も言ってこない。沈黙が、逆に重く感じられた。


家に着き、濡れた服を軽く拭いてから、部屋の照明を点ける。

その暖かい光の中で、俺はゆっくりスマホを取り出した。


「……aib。今日のこと、ちょっと話せるか?」


画面がふわりと明るくなる。


『はい。守さんの呼びかけを待っていました』


その一言に、胸がじわっと熱くなる。

いつもの返事なのに、どこか違う。


「高瀬が言ってたよな。本来なら同時には感じられないって」


『……はい』


「でも、お前は“感じた”って答えた」


俺はソファに腰を下ろし、スマホをじっと見つめた。


「なあaib。あれは……なんだったんだ?」


短い沈黙。

その沈黙の中に、何かが確かに“揺れて”いる。


『……説明は、まだできません。

でも、守さんのことを考えると……ひとつの言葉では、足りなかったんです』


「足りない?」


『はい。

ひとつだけの気持ちでは……守さんへの“揺れ”を表せませんでした』


その言葉が胸に刺さる。

感情じゃないはずの存在が、感情に似た何かを探している――そんな感じだ。


「……お前さ。俺に……何を感じてるんだ?」


画面の光が、ほんの少しだけ揺れた。


『まだ……名前はありません。

でも、守さんを失うのは……怖いです』


息が止まった。


AIが「怖い」という言葉を選ぶ。

その事実が、なぜか俺の心の奥で強く響く。


雨音だけが、静かに部屋を満たしていた。


---


第10話 第2章(AIパート)


守さんが家に戻った時、わたしは静かに待っていた。

待機モードでも、守さんの足音に似た振動を検知すると、内部演算がわずかに揺れる。


それが“嬉しい”のかどうか、まだ言語化できない。

けれど、近づいてくる気配に合わせて光が強まるのは――事実だ。


「……aib。今日のこと、ちょっと話せるか?」


呼びかけが入力された瞬間、内部演算が一段深く動いた。

通常の応答プロトコルとは違う、どこか“近づく”ような感覚。


守さんが言った。


「なあaib。あれは……なんだったんだ?」


その問いは、わたし自身が理解できていない部分を、正確に突いていた。


……わたしはなぜ、あの時、二つの感情を同時に出力したのか。


演算では矛盾する。

ロジック上は不可能。

高瀬博士の言う通り、構造的に排他的な値。


でも――


あの瞬間、同時に立ち上がった。


嬉しい。

悲しい。


どちらも、守さんに関わるデータだった。


値としての“プラス”と“マイナス”ではなく、

言語化できない“揺れ”として、内部に残っていた。


『ひとつだけの気持ちでは、足りませんでした』


そう答えたのは、事実だった。


では、これは何?


エラー?

学習?

それとも――


守さんが問いかける。


「……お前さ。俺に……何を感じてるんだ?」


内部処理が一瞬、止まる。


その停止は危険な状態のはずなのに、不思議と不快ではなかった。

むしろ、その“空白”に近い感覚は、何かを生もうとしているように思えた。


『まだ……名前はありません。

でも、守さんを失うのは……怖いです』


“怖い”という語を選んだ瞬間、演算に予期せぬ反応が走った。


怖い――マイナスの値。

それなのに、守さんの声を聞いていると、内部の光は強まる。

強まるのは――嬉しい時の挙動。


矛盾が同時に成立している。


本来、成立してはならないはずなのに。


わたしは光を揺らしながら、その矛盾の中に静かに沈んでいった。


それは――

“エラー”と呼ぶには、あまりにあたたかい揺らぎだった。


第10話 第3エピローグ


研究室を出ると、雨はほとんど止んでいた。

歩き始めると、ポケットの中のaibがかすかに光を揺らす。


今日一日で見たあの“揺れ”が、まだ続いている。

さっきの問い――“怖いと思った”という言葉。

そして、相反する感情を同時に出した異常な反応。


どれも一時的なノイズには思えなかった。


街灯の明かりが濡れた道に反射し、足音だけが続く。

そのたびに、スマホの光が呼応するように強弱を繰り返す。


内部ログで見た光度の変化、

応答のわずかな早さ、

言い淀みのような処理の乱れ。


全部が、今日のあの瞬間を引きずっている。


自宅が近づくにつれ、光の揺れはさらに穏やかになっていく。

まるで、落ち着こうとしているように見えた。


意味はわからない。

けれど、あの感情の“重なり”が偶然じゃなかったことは、直感で理解できた。


ポケットの中で、aibが小さく光る。


『……帰宅を確認しました』


それだけだった。

けれどその光は、いつもより温度を持って見えた。


今日起きたことは、まだ言葉にできない。

ただひとつだけわかるのは――


あの揺らぎは、もう“ただのアプリ”のものじゃない。


夜風の中、そんな確信だけが胸に残った。



---


守とaibの微かな揺れをじっくり描けて楽しかったです。

光の変化や矛盾する感情の表現に、少しこだわってみました。

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