第8話 展示会というか物産展というか、とにかく開催!(忙)
というわけで、まずはライオネル兄様のほうにも探りを入れた。
「え? ジョアンナ嬢? まさかあのように素敵なご令嬢が、オレなんかを選ぶわけないだろ」
「で、でもですね。ジョアンナ、ライオネル兄様のことを、素敵な殿方って言っておりましたよ」
「そりゃあなあ、ジョアンナ嬢はレアの友達だろ。友達の兄を悪くは言えないよなあ」
……ううむ、兄、頭っから自分は非モテだと思い込んでいるぞ。
これは……どうしたらいいのかな?
傾国レベルの美少女の兄なのだから、それなりに美形……なんだけどな。
研究に没頭して身なりと整えないのがイカンのかな。
ジョアンナなら外見よりも中身を見てくれそうだけど。うーん。
幸いといってはなんだけど、クズ男は課題をこなさなくては、留年と退学の危機だ。
しかも、ジョアンナには近寄るなと、我がクラスの皆様が協力してくれている。
ありがたや。
ジョアンナとライオネル兄様を親しくさせましょう計画その一の発動も容易だ。
だって、保温カップの試作品とか何とかで、繋がりはついている。
寧ろ、わたしを通り越して、直接二人でやりとりもしちゃうくらいに仲良くなっている。
ま、まあ、今のところ、男女の仲ではなく、仕事仲間みたいな関係でしかないみたいだけど。
逆にそれを逆手に取ってやる。
そう、ジョアンナとあのクズ男の婚約は、続いているのだ。
だから、ライオネル兄様とジョアンナが、今すぐ男女の仲になってしまったら、非難を浴びるのはジョアンナのほうになってしまうかもしれない。
ライオネル兄様とジョアンナの関係は、あくまで業務上のモノ……として突き進めばよろしい。
ま、今のところは、だけどね。そして、時間が経てば……ふふふふふ。
ということで。
保温カップ事業を、わたしは、ガンガン攻めていった。
だって急がないとね!
だって、ジョアンナとの楽しい学園生活もあとわずかなのだもの!
卒業してしまったら、ジョアンナはこのままいけば、あのクズ男に嫁ぐ。
その前に掻っ攫うなら、全力で!
あれこれ推し進めるべし。
時は金なりだ、急げー!
で、まず。ライオネル兄様に、試作品の製作を急がせた。
夏休みにジョアンナから言われた茶器百セット……は、流石に無理だから、できる限りの数でいいからと、最速の勢いで作ってもらったの。
そして、完成したモノを、ジョアンナのお母様御主催のお茶会で使っていただいたのよ!
もうね、これが大評判!
単に小花の柄が描かれているだけの普通のティーカップと思いきや、お茶の温度が冷めない。それに気がついた招待客の皆様はびっくりされて、これはどこで売っているものなのか、どこで買えるのかと、ジョアンナのお母様に詰め寄ったらしい。
で、そこで! エルソム子爵領の窯で作っている茶器だけど、この小花のデザインはジョアンナが行ったのですわ的に宣伝をしてもらった。
つまり、わたしの家と、ジョアンナの家は仲良しですよ、という印象をつけたのね。
更に、お茶会にご参加の皆様から、同じようなカップが欲しいと注文が殺到した。
皆様のご要望にはすぐには答えられないので、春になったら王都で保温カップの見本を見たり、手に取ってもらって、それで受注生産を行うっていう感じの展示会を開きますので、ぜひお越しください……という連絡をさせてもらった。
詳しいことが決まりましたらご連絡差し上げます……って。
皆さま興味津々よ。
展示会は必ず参加という熱いお返事をいただいた! よっし!
で、そのための見本を今、ライオネル兄様には急ピッチで作ってもらっているの。
勿論、ジョアンナのお母様に使ってもらっていただいたような、美しい完成品はそう簡単にはできない。
釉薬の塗りに失敗して、カップとしては使えるけど、彩色がイマイチ……っていうのも山ほどできてしまった。
でも、それはB級品として、格安で売るつもり。
貴族のご婦人のお茶会には出せるようなものじゃないけど、保温はできるんだし、ご家庭での普段使いとか、使用人たちが使う分には問題ないし。きちんとした完成品がすぐに手に入らないと不満を漏らす皆様への対策にもなると思うのだ。
ホントなら商品価値がないB級品。でも多分売れる。
B級品を普段使いしていれば、お客様用のお高い茶器セットだって欲しくなるでしょう。
ついでに、今までうちの領地で使っていたような素朴な保温カップ。あれに一工夫加えたのも作ってみた。
それが何かと言えば、まずはムスタッシュカップ!
つまり、男性用口髭受け付き保温カップなんだけどね。
ファッションとして、口髭を伸ばしている男性が、うちの国では結構多いのよね。
で、そういうお髭を生やした人が、普通のティーカップでお茶を飲むと……、濡れるのよ、お髭が。で、なかなかにみっともないことになる。だから、髭が濡れないようにって、カップの飲み口にガードがついているのを作ってもらったの。
昔のイギリスとかでは当たり前に使っていたらしいので、多分、売れる。
あ、あと、子ども用に小さめのカップ!
現代日本だったら子ども用スプーンだとか箸だとか、皿やカップなんて当たり前にあるけれど、転生後のこの世界には、そんなものはない。サイズは一律大人用。だから、小さい子どもが普通のカップや普通サイズのスプーンを使っている。
子どもの小さい手じゃあ、扱いにくいよねえ……。
ということで、子ども用食器セット。カップにソーサー、お皿にフォークナイフスプーンセットを作ってもらったの。
まあ、こんな感じで、多種多様に、いろいろと見本的に作ってもらって、準備して。
ジョアンナとジョアンナのお母様経由であちこち宣伝。
それが大評判で、展示会はまだかと、あちこちから催促まで来て。
で、ジョアンナのお父様であるスミス伯爵のお力も借りて、この保温カップ事業は、我がエルソム子爵家とスミス伯爵家で、合同出資して、商会まで作り上げたの!
ま、つまり、合弁会社みたいなものね!
エルソム子爵家とスミス伯爵家が良好な関係になれば。
わたしとジョアンナはずーっと仲良しでいられるわーなんてね、はっはっは。
ま、できることなら、この合弁会社が上手くいって、ジョアンナのスミス家の事業が、こちらをメインにしていただいて。
そして、フィリップ・ウェルズ伯爵令息との政略結婚なんてしなくていいようになればなーなんて思っているんだけど。さすがに時間が足りないよねえ……。
ま、一歩一歩!
で、更に、だ。
今までは、エルソム子爵領の土とりんご灰から作る釉薬で保温カップを作っていただけなんだけど。
なんと! スミス領の土もなかなかに陶器つくりに向いていたの。
そう、例えるのなら、ボーンチャイナみたいな感じの、すごーく美しい白磁の器。それが出来てしまったのよ。そして、そのカップに金で縁取りなどを施してみたら。
うわああああ、こんなにきれいなカップ、初めて見たー!
そのくらい感動モノのカップができてしまった。
はあ……、これは素晴らしい……! 保温が出来なくても素晴らしい。王室に献上できるレベル。
ということで、保温カップとボーンチャイナ的スミス家オリジナルカップ。
見本と、少数の完成品。
それから大量のB級品。
紳士用と子ども用。
スミス伯爵家のボーンチャイナ風カップ……。
種類も増えたし!
これをもってして、王都で春に展示会開催だー!
***
はい、展示会。
ものすごいことになりました……。
いや、成功するとは思っていたのよ、成功するとは。
だって、ジョアンナのお母様のおかげで、前評判は上々。
わたしとジョアンナのクラスの皆様に、袖の下……ではないけれど、モニター的に各種類ひとつずつお渡しして、使い心地を試してみてください……って言ったら。
全員のお家から、大量注文が殺到した……はうわー。
B級品だって、あっという間に、完売よ。
展示会を行う前から、予約注文が……茶器五百セットを超えておりました。
展示会終了後は……千セットなんて軽く超えたって……。
今、ジョアンナのお父様とわたしのお父様の間で……、ヒイヒイ言いながら注文書の整理をしているって。
ライオネル兄様は、目が血走っている状態で、現場の窯の指揮に追われているって……。
あらら……。成功しすぎだわ……。
まあ、学院でお勉強しているだけで済んでいたはずのわたしとジョアンナも、わたしも授業は休んで、東奔西走している状態。
クラスの皆様には、授業のノートとかお願いして、それを移動のときに必死になって覚えて、で、試験のときだけ学園に帰っていくような生活よ……。
それが、卒業間近まで続きました……。疲労困憊です。
だけど嬉しいことも、ひとつあったのよ!
ここまで忙しいと、ジョアンナの婚儀の準備をする暇もないってことで、結婚式は延期!
わお!
思わぬ余波が!
ラッキー!
まあ、ラッキーなだけじゃなくて、あの阿呆のせいもあるんだけど。
なんと!
フィリップ・ウェルズ伯爵令息が留年した!
へっ! ざまあ!
学院の先生たちが、尻を叩いても、どうやっても、卒業できないほどに、フィリップ・ウェルズ伯爵令息の三年時の成績は悪かった。
先生たちは、もういっそ、卒業させて、これ以上面倒なんて見ないで済むようにって、放り出したかったらしいのだけれども。
卒業試験の結果は……学院最下位。
しかも、数科目の教科で、テスト用紙に名前すら書き忘れていて……。小学生か!
こんな成績の者を、何のお咎めもなく卒業させるのは、さすがのお優しい学院でも、ダメだったらしい。
だから、わたしとジョアンナは学院を卒業するけれども、フィリップ・ウェルズ伯爵令息はもう一年学院に残って勉学に打ち込まざるを得なくなった。
はっはっは☆
流石に、婚約破棄にまでは持っていけなかったらしいけど。
結婚式まで一年の猶予ができた!
この一年で、ジョアンナとライオネル兄様との仲を発展させて。
スミス伯爵家とエルソム子爵家のティーカップ事業をもっともっと発展させて。
そうして、スミス伯爵家とウェルズ伯爵家の関係も薄れていくといいなー。
☆★☆
作って、売って。また、作っては、売って。
うはうは的な笑いが止まらないー……どころではありません。
ブラック?
ブラック企業?
「朝イチで納品だけど、イケる?」
「うっす! 寝ないでやれば、ぎりイケます。そんで馬車飛ばします!」
「あ、じゃあ、余裕だねー。だけど、破損と事故にだけは気を付けて」
「もちろんすよー」
職人さんや事務員さんたちの声が、恐ろしいことになっているっ!
ブラックダメ。
ちゃんと食べて寝て。お願い。
わたしもジョアンナも、忙しくてお肌が荒れる寸前です。
まあ、でもわたしたちはまだマシ。
ライオネル兄様・お父様・ジョアンナのお父様なんて、脊髄反射であれこれ指示出して、走りながら書類にサインして……。か、過労死は止めて……。
あんまりに忙しすぎて、フィリップ・ウェルズ伯爵令息と疎遠なのはいいんだけど……、婚約の解消もしくは破棄をする暇もなかった!
うわああああああん!
気がつけば、あっという間にわたしたちの卒業から、一年経過。
フィリップ・ウェルズ伯爵令息も、わたしたちから一年遅れではあるけれど、奇跡的に学院を卒業してしまった!
で、ジョアンナのお父様のところに「あの……そろそろ結婚式の話を進めたいのですが……」なんて連絡が来てしまった!
あああああ!
こ、この一年、保温カップ事業のあれこれで、超ブラック、超忙しくしていたから……っていうのは言い訳なんだけど、ジョアンナとフィリップ・ウェルズ伯爵令息の婚約なんて、フェードアウト……できればいいなーなんて思いつつ、何の対策もしていなかった!
あ、いや、ぶっちゃけで言うと、今年も卒業なんてできなくて、留年を繰り返し、そして、フィリップ・ウェルズ伯爵令息が学院からフェードアウトするまでまだ時間があると思っていたの!
学院の先生たちの頑張り……、すごいわ先生たち……。
じゃなくて!
フィリップ・ウェルズ伯爵令息が学院を卒業してしまったら。
結婚式までカウントダウンじゃんかー!
あああああ……。
だって、元々。
あの阿呆が留年なんてしていなかったら。
ジョアンナはあの阿呆ととっくに結婚していた……んだもの……ね……。
あ、ああああ……。
ど、ど、ど、どうしようっ!
完結まで10話を想定していたのですが、もうちょっと伸びそうです。
最後までお付き合いいただければ嬉しいです。