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第4話 兄様もありがとう(感謝)

 浮き浮きと浮かれて帰って、お父様とお母様にジョアンナ様のことをお話した。

 お父様とお母様も喜んでくれた。

「まあ、まあ! よかったわねえ!」

「お礼をしなければな……。と言っても、スミス伯爵家か……。我が家で、お礼になるようなものは用意できるだろうか……」

 お父様とお母様があれこれ相談しているところに、よろよろと、ライオネル兄様が入ってきた。

「レ……ア……、お待たせ……。できた……よ……」

 サロンに入ってきたかと思えば、ライオネル兄様はそのまま床に突っ伏した。

「兄様!」

 慌てて駆け寄れば、兄様の手には、眼鏡があった。

 ひらめいたって言って、作っていたのって……これ?

「魔法は……使ってないから、学院でも使用可能……。フレームを白色にして、太くして……、ガラスにも色を入れた……」

 受け取ったら、そのままライオネル兄様は床で眠ってしまった。

 ぐこーぐこーと、すぐに寝息が聞こえだした。

「兄様……」

 お父様とお母様が使用人を呼んで、ライオネル兄様を一緒に運んでいった。

 今日の入学式には間に合わなかったけれど、明日には間に合うようにって、すごく頑張ってくれたんだろうなあ……。感謝しかない。

 眼鏡……、そうか、ライオネル兄様がひらめいたのって、眼鏡だったのかあ……。

 前世の少女漫画なんかでよくあった、眼鏡をかけていれば地味だけど、眼鏡をはずしたら、すっごい美少女。

 漫画なんかないこの世界でそれを思いつくとは、さすがライオネル兄様……。

 とりあえず、わたしは受け取った眼鏡をかけてみた。

 あ、あれ? これは……単なる眼鏡というだけじゃないの……かな……。

 外して、それから、眼鏡を再度じっと見た。

 まず、フレーム。

 ライオネル兄様も言っていたけど、白いフレームなのよね……。

 えっと、何だったっけ? デルブーフ錯視……だったかな。濃い色で目元を囲んで目を大きく見せるとか何とか。逆に白にしたために、目が小さく見える……?

 それから眼鏡のレンズの部分が、かなり大きい。これもなんとか錯視とかいうのがあったと思うけど、思い出せないや。小さいフレームのほうが、黒目が大きく見えるとか何とか、そういうのがあったよね。

 で、そのレンズにはサングラスみたいに色が入っている。うっすらとした緑色と……グレーかな。赤に緑を加えて、そこに更にグレーを重ねることで、わたしのこの真っ赤な目が目立たないようになっている……のか。

 ほんのちょっとずつの工夫なんだけど……。この眼鏡をかけると、わたしの目があまり目立たない。

 あ、そうだ。ローズマリーに教えてもらった通り、髪形を変えて、髪の赤い部分を隠して、この眼鏡を掛ければ。やってみよう。

「うわっ! レア、か……⁉」

 戻ってきたお父様が驚いて声を上げた。

「どうですか、これ」

 お母様もびっくりしていた。

「あらまあ、レア。傾国の美少女から、普通の可愛い女の子になっているわ……」

 うん、わたしも、鏡を見た自分が信じられない。

 普通だ。

 ごく、普通だ。

 眼鏡だけでも、髪形だけでも、片方だけでは足りなかったかもしれないけど、かけ合わせれば……。

「今日、お友達になったジョアンナ様の侍女のローズマリーに教えてもらったんです。髪の赤色を隠せば……って」

「うんうん、これなら普通に学園生活が送れるかもしれないなあ……」

 お父様がほっとしたように、胸をなでおろした。

 すごい!

 昨日のどんよりとした気持ちとは真逆。

 明日、学院に行くのが楽しみ!

 わたしは浮き浮きで、次の日を待った。

 そうして、朝、ライオネル兄様にお礼をきちんと言って。

 それから、馬車に乗って、学院に行った。

 勿論髪をきっちりかっちりとまとめて、赤色部分はすべて隠して。眼鏡をかけて。制服のワンピースにも、昨夜のうちに少々細工を施しておいた。腰回りのベルトのあたり、内側に布を縫い付けて、その中にほんの少し綿を入れた。細身の体ではなく、お腹周りがちょっとポッコリしているみたい。靴も、編み上げブーツにしたので、元々踵はちょっと高め。

 それで、馬車を降りて、校舎へと向かったんだけど……。

 なんと! 男子生徒に囲まれることはなかったわ! 驚き!

 これで、ジョアンナ様とクラスが同じになれれば、学園生活はハッピー&ラッキーなんだけどなあ……。ええと……、クラスって、どうなっているんだろう?

 疑問に思ったところで、ちょうど職員っぽい人が張り上げている声が聞こえてきた。

「女子生徒は二階のグリーンホールへ、男子生徒は三階の大教室へと分かれて入って下さい」

 おお! 男は別! 幸先良いわー!

 少々浮かれながら、言われたとおりに、二階に向かう。

 グリーンホールというのは、講演会なんかが行われるような階段状の教室だった。

 一番前に大型スクリーンでも設置すれば、映画館的な感じにも見えるかな? まあ、この世界にスクリーンなんてないけれど。

 細長いテーブルと椅子が、ずらりと並んでいるその教室を、わたしは見まわす。

 えーと、ジョアンナ様はいらっしゃるかな……。

 きょろきょろしていたら、後ろから声を掛けられた。

「あら、もしかして、レア様……?」

「あ、ジョアンナ様!」

 振り向いたら、女神のように美しいジョアンナ様がいた。

「あら……、眼鏡」

「ええ、そうなんです。どうでしょう?」

「昨日とは別人のようですわ……。すごい」

「これもジョアンナ様とローズマリーさんと、わたしの兄のおかげです」

 えへへ……と、わたしは笑った。

「目が……、グレーっぽく見える上に、小さく見えますわね……」

「そうなんですよ、兄ががんばって作ってくれました」

 小声で、ぼそぼそと話しながら、席に着く。

 とりあえず席は自由なようなので、一番空いている辺りにした。

 ああ……、入学式のときは、こんなふうに女友達と普通に教室でおしゃべりなんてできるとは思わなかった。

 わたしの夢がいきなり叶ったよ。

 神様、ジョアンナ様、ローズマリー様、そしてライオネル兄様、本当にありがとう!

 いくら感謝しても感謝しきれない。

 このままずっと、このままで三年間が過ぎればなあ……と思ったんだけど。

 流石にそこまであっさりと願いは叶わなかった。

 まず、男女別なのは今日だけ。

 今日は校内案内を行うから、なんだって。女子トイレにパウダールーム、それから更衣室。貴族用の学院だけあって、このあたりがものすごく広い。更衣室なんて、制服からドレスに着替えられるくらいの広さがあるよ! 

 で、職員にいろいろ案内してもらった後、またグリーンホールに戻る。教科書の類を受け取って、今後の予定や注意事項などを聞く。

 明日から三日間、試験を受けて、その試験の成績順によってクラス分けされるんだって。もちろん男女混合。あー……、もう、ずっと男女別でもいいのになー。

 んー、クラスかあ……。

 ジョアンナ様は、学院に入学する前から、家庭教師についてみっちりと学習を重ねてきたようだ。だから、きっと成績優秀クラスに入ることだろう。ジョアンナ様ご本人も自信があるとおっしゃっていた。

 わたしはどうしようかな……。

 勿論ジョアンナ様と一緒のクラスがいいに決まっている。

 だけど……。

 あんまり目立たないほうがいいと思っていたのよね……。

 真ん中あたりのクラスがいいかなーなんて。

 でも、なあ……。

 タウンハウスに帰って、ライオネル兄様に相談してみた。そうしたら……。

「ああ、学院の授業は完全に成績で分けられるんだ。ただし、人数を均等に振り分けるんじゃないから、上位クラスは人数が少なくて、真ん中あたりのクラスは、一クラス当たりの人数が多い」

「え⁉ そうなんですか⁉」

「その年によって異なるかもだけど。オレの年代は、最上位クラスの生徒は十五人。真ん中あたりのクラスは一クラス三十人いたなあ」

 それだったら、人数が少ないほうが人間関係的に煩わしくないかも!

 そう思って、わたしは試験に全力を尽くすことに決めた。

 結果、わたしもジョアンナ様も、最上位クラス入り! よかった!

 わたしは成績的には十位くらいだった。ジョアンナ様はなんと三位!

「ふわー、すごい! ジョアンナ様、三位ですよ、三位!」

「……子爵家のご令嬢なのに、十位入りできるレア様もすごいと思いますわよ」

「ああ、それは……」

 前世の学力で底上げ……っていうのもあるよね。特に数学とか。

 でも、それは言えないから……。

「兄のおかげですね」

「ああ、なるほど。発明家ですものねぇ。頭の回転や発想力が素晴らしいのね」

「ええ。自慢の兄です」

 ホント、すごいと思うよ。わたしみたいに前世の知識なんてないだろうに、保温カップや眼鏡を作っちゃうんだから。いや、実はあるのかな、前世……。でも、そんな感じはしないんだけど……。

 まあ、ライオネル兄様のことは、今はいいか。

 とにかくわたしはなんとか楽しい学園生活が送れそうで、うきうきわくわくだったのだ。

 そう、だった。過去形。

 暗雲たちこめるのは……、わたしの正体がバレる……とかではなく、ジョアンナ様の婚約者という存在によって……だったのだ。

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