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第11話 ハッピーエンド(笑)

 そのまま、結婚式会場の外に出る。

 すると、ジャストタイミングで馬車に乗ったライオネル兄様がやってきた。

 馬車後部の補助席には、もちろん護衛のディックさん。ジョアンナの侍女のローズマリーさんもいる。

「レア! ジョアンナ嬢!」

 ライオネル兄様が馬車から飛び出してきて、ジョアンナの手を取った。ローズマリーさんはジョアンナがウェディングドレスの裾を踏まないようにと、ドレスの裾を両手で抱え、ジョアンナと一緒に素早く馬車に乗り込んだ。

 同時に、ディックさんも補助席から飛び降りて、わたしを馬車に乗せてくれた。

「ありがと、ディックさん!」

「いえ、急ぎますね!」

「はい、よろしく!」

 わたしたちが四人とも馬車に乗り込んだのを確認して、ディックさんが馬車の扉を閉める。そして、ディックさんが補助席に立つと同時に馬車は疾走した。

「やったね、ジョアンナ!」

「ええ、レア!」

 手に手を取って、笑いあった。

 穏やかに微笑んでいるローズマリー。それから、心配げな顔のライオネル兄様。


「成功……したか?」

「ええ、もちろん!」


 ジョアンナは満面の笑みだ。


「さすがライオネル兄様です。計画は完璧に行えたわ!」


 わたしもにこにこ。


「……レアの、言葉使いは、ちょっとアレだったけど」

「あははは。可憐な美少女が口汚く罵れば、あの阿呆の初恋モードも冷めるでしょ!」

「そう、かもしれないわねえ……」


 ふふふ。

 なにはともあれ、みんなで北に逃避行!

 なーんてね、うちの領地に行くだけです。


 ジョアンナのお父様とお母様が、婚約破棄だの、行えなかった結婚式の後始末だのをしてくれて。

 そののち、我が家にご連絡くださるまで。

 わたしとジョアンナはウフフアハハで楽しく過ごせばいいし。

 ジョアンナとライオネル兄様だって、愛を深めればいいんだよ。


 うふふふふふ。

 念願の女友達がお義姉様になる日も近い!

 サイコーの気分よ!


      ☆★☆


 さて、結婚式&逃避行の後、どうなったかというと……。


 ふっふっふ。

 ジョアンナとあの阿呆との婚約は、破棄になりましたー!

 当然よね!

 結婚式で、新婦であるジョアンナではなく、他の女を僕の運命の恋人とか言って、永遠の愛を誓おうとしたんだもの。

 しかも、その女からもフラれたし。

 フィリップ・ウェルズ伯爵令息のご両親は、フィリップ・ウェルズ伯爵令息のあんまりの阿呆さに、寝込んだらしいわ。


 そのおかげで、婚約破棄とか婚姻無効とかそういう感じの手続きはなかなか進まなかったらしいけど。

 でも、ジョアンナのお父様は、式の直後にウェルズ伯爵家とは今後縁を切る、事業の提携など今後は行わない、スミス伯爵領から産出した鉱物の加工は別の家と結ぶとか何とか、大々的に宣言したらしい。

 ウェルズ伯爵家と縁を切ったって、我が家との保温カップ事業が右肩上がりなので、一時的に鉱物加工事業がマイナスになったとしても、スミス伯爵家の経済にそれほど大きなダメージはない……からこそ、縁切りに踏み切れたのかもね。


 とにかく、ジョアンナとライオネル兄様の婚約もなんとかなりそう。


 いきなりすぐには無理かもだけど、時期を見て……って感じでふっふっふ。


 つまりは、わたしの願いは叶うのよ!


 女友達が欲しい。

 親友とか、バディとか、そういう密接な関係にある女の子。

 お互いに自立した関係且つ仲良し。

 力を合わせて苦難を乗り越える。


 そう、叶ったの!


 親友とか、バディとかよりも、もっと親密というか、なんというか。


 だって、お義姉様だもんねー!

 法律的に、義理とはいえ、姉妹!


 ふはーはっはっは! 一生一緒よ!


 切っても切れない姉妹関係。今後、ずっと、結婚して、出産して、子どもが育って……、えーと子どもができない可能性もあるけど、それでもずっと。

 年を取っておばあちゃんになるまで、ずっとジョアンナと一緒に過ごせるんだわー!


 うきうきわくわくで、そんなことを言ったら。


「……一刻も早く、レアにも婚約者を見つけて、とっとと結婚させないと、ジョアンナ嬢をとられっぱなしになる……」


 なーんて、ライオネル兄様が青い顔になった。


 うーん、わたしの結婚ねえ。

 そのうちご縁があれば?

 少なくとも、わたしのこの美少女顔に惑わさるような男はいらんわ!

 わたしの外見ではなく、中身を見て……って、おばーちゃんになるまで女友達と仲良く過ごしたいなんてことを考えている女を娶りたい男なんているわけないでしょ。

 女友達よりも婚約者とか夫である自分を優先しろって言いだすに決まっている。

 そーんな男は願い下げー。


 だって、ようやくゲットできたジョアンナよ!

 前世からの願いよ、仲良しの女友達は!

 それを蔑ろにするような男はいらないですよー。


「ジョアンナという女友達兼お義姉様との交流を優先しても文句を言わない。そして、わたしの美少女顔に惑わされず、お父様やお母様やライオネル兄様みたいに、ごく普通にわたしに接してくれる殿方が居れば考えますけどね!」

「……世界中のどこを探せばそんな男がいると言うんだ」


 ふふん! と、言い切ったわたしに、がっくりと肩を落とすライオネル兄様。


 ま、いないよ、きっと。

 諦めて!


「……せめて、ジョアンナ嬢との新婚の時期は、空気を読んで、席を外してくれ」


 あ、あら、お兄様ってば! うふふ~。ジョアンナと、新婚ラブラブを邪魔する意地悪妹にはならなくってよ!

 と、言おうと思たら。


「あ!」


 ジョアンナがいきなり声を上げた。

 そして、くるりと後ろを振り向いて。

 空気と化しているけれど、常にジョアンナの背後に立っている護衛のディックさんをじーっと見た。


「ライオネル様、レア、いますわ! レアの美少女顔に惑わされず、きちんとわたくしの護衛という職務を全うしているこのディックはいかがでしょうか!」

「は?」

「へ?」

「な、何をいきなり言い出すんですか、ジョアンナお嬢様っ!」

 護衛という職務上、いつもは何も話さないディックさんが、流石に真っ赤になりながら、大声を出した。


「あら、だって。わたくしの側に常にいるのだから、レアの性格もとっくによくわかっているでしょうし」

「前にも申し上げましたが、ジョアンナお嬢様の護衛という仕事中ですから、他に目線が行っていないだけです! それに、女性にはモテることのない男が、レアお嬢様のような可憐なご令嬢に言い寄ったら犯罪です!」

「レアが嫌がれば犯罪だけど、レアが嫌がらなかったら犯罪ではないわ」

「年の差というものもあります!」

「貴族の婚姻に年の差なんて当たり前です」

「ですが……」

「ですが、何? ディック、あなた、レアが嫌い? 好みではない? そうなら仕方がないけれど……」

「私の、ではなく、レアお嬢様のお好みが重要でしょう! こんなムサくてごっついおっさんを好むわけはありません!」


 ぜいぜいはあはあと、肩で息をしているディックさん。

 えーとー?


「じゃあ、レアに聞くわ。レア、恋愛対象として見たときに、ディックはあり? なし?」

「ん? 恋愛とか何とかはよくわかんないけど。ディックさんはかっこいいと思うよ?」

「かっこい……っ⁉ レアお嬢様、目がおかしいのでは⁉」


 あれ? ディックさん、そこまで言う?


「だってねえ、ディックさん、貴族的な線の細い美形ではないけれど、凛々しいし。精悍だし。前にも言ったけど、わたし、家族以外の男性とまともに話すことはあんまりないから、フツーに接してくれるディックさんは超ありがたいんですよ。仲良くしてくれるとうれしーなーって」


 今後、恋愛的な感情として、ディックさんを好きになれるかどうかはわからないけど。

 だけど、有象無象の勘違い野郎どもばかりしか知らないわたしにとって、真っ当に接してくれる男性というだけで好感度は高い……って、あれ? 

 よく考えてみれば、家族以外でまっとうにわたしに接してくれた男子って……、ディックさんだけ?


「ちょっと待って。ウチの使用人は男は年寄りばかり……。わたしの美少女顔に惑わされるような使用人はソッコー解雇だったし。きちんと婚約者なり奥さんなりを心から愛しているからわたしに惑わされない男はいたけど……。学院の同級生の男子たちもそうだよね……。しかも学院ではわたし、変装していた……。ってことは……」


 ぶつぶつ唱えながら、考える。


 わたし、ディックさんを逃したら、もう、真っ当な男性とお付き合いする可能性、限りなくゼロに近いんじゃあ……。


 カレシが欲しいとか結婚したいとか。

 前世から、そういうことはあんまり考えたことはなかった。

 ストーカー的な勘違い野郎どもから逃れることと、女友達が欲しいってことしか考えていなくて。

 恋愛。

 結婚。

 出産。

 育児。

 女性として考えておかなければならない四項目。

 前世も今の人生も、それを考えることなんて、できなかったからなー。

 女友達が欲しいという願いは叶ったし。

 しかも一生、仲良しで過ごせそうだし。

 と、すると……。

 じっとディックさんを見る。


「ディックさん」

「は、ははははははい!」

「いきなり恋愛云々、婚約云々、結婚云々は、わたし的にもちょっと厳しいんですが……」

「そ、そそそそそそうですよね!」

「ですが、わたしのこれまでの人生と、今後の人生を合わせて考えてみたところ、ディックさん以上の優良物件に出会える可能性は限りなくないなーって考えまして」

「へ?」

「まずは、親しいお友達から始めてみませんか! 具体的に言うと、ライオネルお兄様とジョアンナのデートのときに、わたしとディックさんでこっそり付いて行って、お二人のラブラブを眺めて、今後の参考にすると……」

 うむ! わたしにとって、いくつもの意味で美味しい展開!

「レーアーっ!」

 おどろおどろしい暗雲を背負ったライオネル兄様に、頭をぐりぐりと締め付けられた。

「痛い! 痛いです兄様!」

「覗きは止めろ!」

「じゃ、真っ当にダブルデート……」

「オレはジョアンナ嬢と二人でデートするから、お前はお前でディック殿と親睦を深めろ!」


 怒鳴る兄様に、笑うジョアンナ。


 ふふふ。ま、いっか。

 震えるウサギ系美少女になってしまったけど、今度の人生は、願いが叶って、ラッキー&ハッピー。


 きっとこれからは、みんな一緒に楽しい日々だ。


「ふへへへへへへ~」


 とりあえず、ディックさんとジョアンナに、わたしができる思いっきり明るい笑顔とピースサインを向けてみた。





 終わり




完結までお付き合いいただきましてありがとうございました。

いつも誤字報告ありがとうございます! 感謝しかないです!


次作は『月虹 ~聖女は勇者を望まない~』の長編版を予定しています。

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