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第1話 転生しても、美少女でした(泣)


 女友達が欲しい。

 親友とか、バディとか、そういう密接な関係にある女の子。

 でも、べつに百合的な関係とかではなくて、お互いに自立した関係且つ仲良し。

 アニメの魔法少女たちみたいに、力を合わせて苦難を乗り越える。

 そんな女友達が欲しい……って……。

「ぜいたくな願いなのかなあ……」

 鏡に映った自分の顔を見ながら、わたしは盛大に溜息を吐く。

「ううう……。せっかく生まれ変わったっていうのに、また、庇護欲を誘うかわいい系の顔になってしまった……」

 まるで少女漫画のヒロインみたいな美少女。

 頭頂部から耳のあたりまでがホワイトブロンドで、それから毛先に向かうにつれてだんだんストロベリーブロンドに変わっていくというグラテーションの髪。どこのアニメキャラですかとツッコミを入れたくなるようなこの髪は、ゆるやかにウェーブまでかかっていて、ふわっふわ。

 そして、それが似合っちゃう美少女顔。

 そう、顔。

 瞳なんて、悲しくもないのに常時潤んでいるような感じだし。

 口紅も塗っていないのに、小さめの唇は、サクランボみたいに艶々している。

 背は低いし、腰は折れそうになるほど細いし、なのに、胸はそれなりにある。

 例えるのなら、淋しくて震えるウサギさんとか、花園で戯れる妖精さんとか。

 大多数……とまでは言わないけれど、か弱い女の子を守ってあげたいっていうヒーロー思考の男性の好みのど真ん中。

 好みじゃなくてもかわいい程度は思うだろう。

 かわいいは正義っていう言葉さえ、前世の日本にはあったくらいだから、かわいい顔になったことを嘆くのは、ぜいたくだ。

 理解はしている。

 かわいい顔が嫌だなんて愚痴ろうものならば「なにそれ、自慢?」と、顔を顰められるだろうことも分かっている。

 だけど、わたしは、守ってあげたいと思うようなかわいい顔になるのは二度目、なのだ。

 前世、日本という国で生まれて育って、そして、死んだ。

 そのときのわたしも庇護欲を誘うかわいい系の女の子だった。

 同級生の男子からはお姫様扱いをされて、学校の教師からは贔屓されて。

 そして、当然、女子の皆様からは仲間外れ。

 ううう……。

 ごくたまに親切な女子が居て、わたしに話しかけようとしてくれたりもしたんだけど……、その度に、男子から妨害を受けていた。大変申し訳ない……。

 ちなみに前世のわたしは常に下を向いて、俯いて、半泣きだった。

 それで、大人しいと勘違いされた。

 男子があれこれとわたしに構う。故に、女子たちから仲間外れにされる。ああ、悪循環。

 構わないでほしいと、必死に言っても、聞いてはもらえない。

 最悪なのが、生理のとき。

 はっきり言えば、トイレに行くときまでついてきたり、そのトイレの出入り口で群れになってわたしを待っていたり……なんて、してほしくないのだ。

 具合が悪くて机に突っ伏していれば、わらわらと、何人もの男子がわたしを保健室に連れて行こうとする。

 ひとりで行けます。

 勇気を出して、そう言っても、無駄。

 男子は嫌だから、保健委員の女の子についてきてほしい。お腹が痛い理由が生理痛なんて、男子に知られたくない。

 涙ながらに、そう訴えたこともあった。

 だけど、男子はにやにやするだけ。

 もう、嫌だ……って、家に引きこもっていても、お見舞いだとか、プリントのお届け物だとかで、男子がわらわらとやって来る。

 高校に通うために電車通学をすれば、痴漢に遭って。

 勝手にカレシ面する何人もの男たちが、勝手にわたしを取り合って、誰が一番好きなのかなんて詰め寄ってきて。全員好きなんかじゃない、みんな怖いし、どっか行って……なんて叫んでも無駄。

 怖くなって逃げれば、別のストーカーに追い詰められて……、そうして前世は、若い身空でジ・エンド。

 ああああああああ……。

 もう嫌だ。

 庇護欲を誘われる美少女になるなんて、もう嫌だ!

 ごく普通の女の子になって、ごく普通に女友達を作って、きゃっきゃと学園生活を楽しみたい……。

 ……なのに、また、震えるウサギ系美少女になってしまった。

 ああああああああ……。

 まあ、でも、転生した今は、前世の日本人のときよりはマシと言えば、マシ。

 なぜなら今回、わたしは中世ヨーロッパ的な身分制度がある世界の子爵令嬢として生まれ育ったのだ。

 転生後のこの国には、小学校や中学校などはないので、男子の群れに遭遇することは、これまではほとんどなかった。

 家庭教師はもちろん女性。

 貴族学院はあるけど、通学義務は十五歳から十八歳の三年間だけ。

 上位貴族とか、裕福な伯爵家の令嬢だったら、お母様に連れられてお茶会へ……なんていうこともあるだろう。

 けれど、比較的交通の要所から外れている、へき地に近い子爵家の人間を、わざわざお茶会に誘ってくれるお貴族様はあんまりいない。

 親戚とか、どうしてもお付き合いしないといけないような相手の領地へお父様やお母様が赴く時も、年に数回はあるけれど、わたしはライオネルお兄様と領地でお留守番だ。

 だから、幸い、家族と数人の使用人たちに囲まれて、のほほんと暮らすことができていた。

 そう、十四歳のデビュタントのときまでは。

 わたしは鏡を見つめながら、恐ろしかったデビュタントを思い出した。

 中世ヨーロッパ的身分制度のあるこの世界。特にうちの国では十四歳になったら王都にある王城に行って、王族のどなたかにご挨拶をするのが慣習となっている。

 国王陛下に当たる場合もあるし、王妃様や王弟殿下とか、その時々でどなたに当たるのかはわからないけれど。王族主催のデビュタントという、成人お披露目パーティみたいなのがあって、貴族の令息や令嬢は、必ずそれに参加しないといけないのだ。

 ご挨拶の後は、大広間でのダンスパーティ。

 なんでこんなことをするのかっていえば、成人式みたいなもの。

 我が家の息子や娘はもう婚約者を探す年になりましたよ、よろしくねーという、集団見合いと言ってもいいかもしれない。

 だから、どこの家のご令息もご令嬢も、気合いを入れてデビュタントに参加するのが一般的。

 ここで見初められて、婚約が成立するなんてこともよくあることだから。

 わたしもね、しかたがなしに参加したわよ。

 お父様にエスコートしていただいて、王妃様にご挨拶して、そして……ダンスには参加しないで逃げたけど。

 そう、わたしという美少女は、この世界においても目立ってしまった。

 令嬢はみんな同じような白いドレスを着用しているというのに。

 わたしが会場に一歩足を踏み入れた途端、周囲の令息たちはいっせいにざわついた。

「あ、あのご令嬢はいったい……」

「初めて見るぞ。どこのご令嬢だ……」

「何と可憐な……」

 もう、ご挨拶を済ませた後は、お父様の手を引いて、脱兎のごとく馬車に逃げ、そして、そのまま領地まで馬車を走らせたわ。

 それでも、わたしが比較的僻地が領地のエルソム子爵家の娘だということを嗅ぎ当てた何人かのお家から、婚約の申し込みなんかが来たのよね。

 ああああああああ……。

 当然お断りしましたけど!

「子を成すのに差しさわりがあるほど病弱」とお父様に嘘をついてもらい、お断りをしてもらった。

 わざわざうちの領地にまで足を運んできたご令息もいたけれど「熱があるので会えません」と、何日粘られても、絶対に会わなかった。

「いっそ、テキトウな婚約者を見繕って、それを理由に断れば」

 と、ライオネル兄様は言ったけど。

「甘いです、ライオネル兄様。そのテキトウな婚約者が仮に伯爵家の人だとしましょう。なんだかんだとあった挙句、次に侯爵家のご令息が出てきたりするのです。権力を以て、伯爵家のご令息と破談。慰謝料だのなんだのあって、侯爵家が補填してくれたとしても、今度は王族やら公爵家やらが出てきて、わたしを獲得するための騒動が起きるんですよ! 国内で騒動が済めばいいですけど、他国の王子とかが出てきたらどうするんですか⁉ 国際問題にも発展し、戦争にまでなるかもしれませんよ‼ 逃げるが勝ちです‼」

 自分が如何にモテるのかを力説しているようだが、それが現実に起きるほどに、わたしは美少女だ。

「あー……、そう、だな……」

「そうよ……ね……」

 お父様もお母様もライオネル兄様も、ふかーくため息をついた。

 そんなデビュタントから、すでに半年以上の月日が経過した。

 そして今、わたしたち家族は、改めて、デビュタントのときの苦労を思い出しながら、深ーく深く、ため息を量産している。

 我が家のサロンの空気が重い。

 めっちゃ重い。

 もしも、吐き出したため息を、金貨に替えることができる魔法でもあるとしたら、きっと、このサロンの天井まで、金貨でいっぱいに埋め尽くされることだろう。

 そのくらい、みんなで、ため息を吐きまくっているのだ。

「……溜息を吐いても、レアが来月から貴族学院に通わないといけないっていう現状が変わるわけじゃないんだけどねえ」

 と言いながら、ライオネル兄様がまたもや「ふう……」と息を吐く。

 お父様も背中を丸めっぱなしだ。

「レアがかわいいのはいいんだけど……、これほどまでに傾国の美少女でなくてもいいんだけどなー……」

 まったくもってその通りだ。

 わたしはごく普通に生きたかった。

 前世では、そんなささやかな願いも叶えられず、ストーカーによる悲惨な最期を迎えてしまったのだから、今度の人生は、ごく普通に生きたいんですよ!

「だけどなあ……。たった一回のデビュタント参加で、レアは『伝説の美少女』的な扱いをされてしまったし……。貴族学院に入学したら、どうなることやら……」

 前世が再現されるのは、嫌だ。

「デビュタントのときみたいに、一回だけで逃げ帰れるってわけじゃないですものね……」

 三年間。

 長い。

 長すぎる……。

 そして、その入学式はあと一か月後に迫っている。

 そろそろ領地から王都にあるタウンハウスに移動して、そして入学準備をしないといけない。

 だが、行きたくない。

 またもや男子生徒に囲まれて、女子生徒から仲間外れにされる日々が繰り返されるのか……。

 ああ、行きたくない。

「お父様。病弱を理由に領地から出ないで、そのまま、この家に引きこもるってことは……」

「無理、だな。病弱によって入学不可の場合は、指定された医師による健康診断を受けねばならないからな……」

「あー……」

 わたしが病弱というのは真っ赤な嘘。

 わたしは風邪もひいたことがない健康優良児ですとも……。

 顔を隠して……ってのも考えたけどね。どの世界にもきっと、隠されているモノは暴きたいとかいう性格の悪いヤツがいる。顔を晒されて、最初から顔を出していたほうがマシっていうくらいには、騒がれる。そんなことも、前世では経験済みだ。

 あー……。なんとか逃れる手段はないものか……。

「諦めろ、レア。三年間だけ辛抱して、そして、何とか生き延びて、我が家に帰ってきなさい……」

 何とか生き延びてって、戦場に行くんですか、わたしは。

 まあ、でも、似たようなものか……。

「せめて、学院内で魔法が使えれば、認識障害の魔法とかで、わたしのこの顔を、皆さんに見られないようにするのに……」

 この世界には一応魔法というものがある。

 だけど、既に学院を卒業しているライオネル兄様曰く、学院には王太子殿下や王女様たちも通うので、魔法妨害的な何かが張り巡らされているのだそうだ。

 昔に魅了魔法とかに引っかかって、恋に狂った令息が出た時代もあったとかで、どんな有能な魔法使いでも、魔法が使えないようになっているんだって。

 ライオネル兄様は、一応それなりに魔法が使える。魔法道具を趣味で作ることもする。

 たとえば、半日程度、温度をキープできるマグカップとか、小型扇風機みたいなモノとか。生活上あったらいいな的な道具をちょこちょこ開発して、それを作って売ったりして、我が家は儲けている。

 だけど、その兄が作る程度の弱い魔法道具は、学院では魔法妨害的な何かに阻まれて、作動しないそうだ。

 魔法も、魔道具も無理なら……、どうしよう。

 せめて、わたしを庇ってくれる女友達が、一人でいいからできないだろうか……。そう、せめて、トイレや保健室に駆け込むとき、群がる男子を制してわたしについてきてくれる女友達……。

 ああ、切実に、そんな女友達が欲しい。

 神よ……、我に、女友達を……!

 わたしが両手を組んで、神に祈っていたら、突然兄が大きな声を上げた。

「あっ! ひらめいた!」

「ライオネル兄様、どうしました?」

「うん、ひらめいたことがあったんだ。レアの入学式に間に合えばいいけど……。とりあえず、兄様、がんばってみるよ」

 ライオネル兄様は、そのまま立ち上がって「材料、材料……」と、ぶつぶつ言いながら、サロンを出ていった。

「とりあえず、兄様、何かひらめいたのですね。お願いします! 頼みます!」

 わたしは開け放たれたままのドアに向かって叫んだ。

 ライオネル兄様が何をひらめいたのかはわからないけれど、溺れる者は藁をもつかむ。頼みますよ、兄様ああああああああ!

 すると今度はお母様が言った。

「無駄かもしれないけれど、地味に見えるお化粧法とか、髪形とか。お母様も研究しておくわ……」

「ありがとう、お母様!」

 少なくとも家族には恵まれた。

 わたしに協力してくれる兄と母。

 そして、父も、わたしという美少女を、高位貴族に売りつけることなく、守ってくれている。

 ああ、ありがたい。

 どうか、神様。

 今度こそは、男子生徒に囲まれないで、ごく普通に、女友達と語り合える学園生活を送らせてください……。

 この優しい家族にも、迷惑が掛からないように、普通に、真っ当に、小市民的に生きたいのです……。

 そんなふうに願っているうちに、学院に入学する日がやってきてしまった……。










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