人間の国は怖い所じゃなかったよ
ん?
殿下の胸のドキドキが伝わってくる。
かなり速いけど大丈夫かな?
やっぱり粘土の身体だから違和感があったのかも。
確実にバレる前に一刻も早く寝かさないと!
「カサブランカ……」
「ひゃいっ!?」
変な声が出ちゃった……
「はは……変な声だな」
「うぅ……自分でも思ったよ……」
「……心が落ち着く」
「……え?」
かなりドキドキしているのが聞こえてくるけど……
「誰かが隣にいてくれると……こんなに心が温かくなるのか……」
「……殿下」
泣いているのかな?
身体が小さく震えている。
「子守唄を……歌ってくれるのか?」
「……うん。今度は変な声を出さないからね」
「はは……変な声もかわいかった」
「……え?」
「このままずっとカサブランカと共にいられたら……と……考えてしまった」
「……殿下?」
「わたしは……愚かだ……」
「……え?」
「叶わぬ気持ちが溢れ出してしまいそうだ」
「殿下?」
「わたし達は友……わたしの生まれて初めての友がカサブランカでよかった」
「……わたしも殿下と友達になれてよかったよ?」
「そうか……カサブランカが鈍感で助かった」
「わたしが鈍感?」
「わたしが王太子でなければ……我慢せずに気持ちを伝えられたのか……だが……わたしは……それをしてはいけないのだ。命がけでリコリス王国を守ってきたおじい様の為にも……」
「……? 殿下?」
「……眠くなってきた」
「まだ子守唄を歌っていないよ?」
「……カサブランカの声が心地いい」
「殿下……」
あれ?
本当に寝ちゃったみたいだ。
殿下が眠るとガゼボが急に静かになった。
優しい風が殿下とわたしの髪を揺らしている。
サクラの花が風に散って綺麗……
これが人間の国……
怖い所だって想像していたけど全然違った。
穏やかで温かい……
ママが人間の国を好きな気持ちがよく分かる。
あ……
わたしも眠くなってきちゃった……
作り物の身体でも眠くなるんだね。
あぁ……
風が気持ちいい……
「ふふ。気持ち良さそうに眠っているわ」
「そうだな。ヨシダ殿……ありがとうございます」
「まさかこんな日が来るなんてなぁ」
あれ?
第三地区のおじいちゃんが誰かと話している?
夢かな?
うーん……
眠くて目が開けられないよ……
「聖女様のご息女と父上の孫が友になるとは……」
父上の孫?
じゃあ今話しているのは今のリコリス王?
優しそうな男性の声だ……




