もうひとりぼっちじゃないから……
おじいちゃんは魅了の力に気づいてからずっと、わたし以外とは目を合わせる事ができなかったの?
どんなに辛かったか……
でも……
今勇気を出さなければ前には進めないんだよ。
「おじいちゃん!」
おじいちゃんが、くるまっていた布から顔を出した。
目は閉じたままだ……
「ハデス……」
おじいちゃんがパパの名前を呼んだ……
前に進む為に勇気を出したんだね。
「父上……」
「寂しかったよ……ずっと寂しかった……強過ぎる魅了の力のせいで……子供達と目も合わせられなかった……」
「……父上」
「もうひとりぼっちは嫌だよ……」
パパがおじいちゃんを優しく抱きしめた……
間に挟まれているわたしに、二人の身体の震えが伝わってくる。
「父上は……ひとりぼっちではありません……ずっと……ずっと……わたしが共にいます」
「……本当?」
「……はい。二度と寂しい思いはさせません」
「……ハデス……ありがとう……ずっと……ごめんね……」
「謝らなければいけないのはわたしの方です。ずっと寂しい思いをさせて……申し訳ありませんでした……」
「ごめんね……ごめんね……」
「謝らないでください……父上……これからは冥界で共に暮らしませんか?」
「冥界……?」
「もちろん無理強いをするつもりはありません……」
「……ペルセポネと約束したの」
「ペルセポネと?」
「魅了の力が効かなくなるお面を作ってくれるって……」
「魅了の力が効かなくなるお面?」
「そうしたら皆と一緒に暮らせるようになるって……作れるかな?」
「ペルセポネには口から出た言葉を叶える力がありますから……そうか。その手があったか……」
「……不思議だよ」
「不思議……ですか?」
「ペルセポネのキラキラを浴びたら……すごく穏やかな気持ちになれたんだ」
「キラキラ? ……溢れ出す母性の事ですか?」
「……母性?」
「全ての生き物の母親のような存在……決して裏切らず愛してくれる……そんな存在……」
「全ての生き物の母親……? 孫なのに?」
「ペルセポネは疲れきった心を暖かな春の日のように穏やかにしてくれる……そう思う時が何度もありましたが……確かに不思議ですね」
「……決して裏切らない……ペルセポネ。ゼウスとデメテルの娘……」
「……父上?」
「……」
おじいちゃんが何かを考え込んでいる?
「父上?」
「……疲れた。カサブランカと寝る……」
「……はい。今日はたくさん話せて嬉しかったです」
パパはおじいちゃんが何を考えているのか尋ねないんだね……




