会う後悔と会わない後悔
「わがままだよね……永遠の命を欲しがったくせに……手に入れたら今度は大切な人間を喪うのが嫌なんて……」
辛そうに話すママの姿にわたしまで苦しくなる……
「ママ……」
「カサブランカ……今はお別れの時を考えずに仲良くしてみたら?」
「でも……仲良くなったらお別れの時に耐えられないよ」
「ママもハデスに同じ事を言われたんだよ?」
「ママもパパから……?」
「お別れの時に寂しいからって会うのを我慢したら絶対に後悔するよ? 『もっとこうしておけばよかった、ああしておけばよかった』って後悔するなら……勇気を出して会いに行くべきだよ」
「……後悔?」
「会いに行かなかった後悔は取り返しがつかないよ? 人間はカサブランカが思うより早く死んでしまうから」
「……ママ」
「未来の事は何も考えずに仲良くしてみて? ママは人間に関わった事を後悔していないよ? きっとカサブランカも後悔なんてしない……カサブランカにもこの温かい気持ちを知って欲しいな」
「温かい気持ち?」
「大切な友達を想う気持ちは宝物だよ」
「……宝物」
「でも……人化して会いに行くとしても……今は赤ちゃんだよね? 人間の十五歳くらいの大きさに見えるようにできるのかな? 人化ってそんな事もできるの?」
ママがパパに尋ねているけど……
「……無理だろうな。いつかオークを人化したがどうやっても顔は怖いままで、背もそれほど縮まなかった」
「え!? 手抜きなのかと思っていたよ!」
「手抜き? わたしは常に全力だ」
「常に全力!? そうだったの!?」
ママがかなり驚いている。
パパは、ママとわたしとヘリオス以外には何の興味もなさそうに見えるから全力を出しているようには思えないんだよね。
「じゃあ……わたしは殿下に会いに行けないの?」
こんな言い方をしたら会いに行きたいみたいに聞こえちゃうかな?
「カサブランカは……会いに行きたいんだね」
ママが優しく微笑んでいる。
「会いに行ったらお別れの時に寂しくなるって分かっているのに……会えないと思うと残念っていうか……」
どうしたらいいか分からないの……
「じゃあ吉田のおじいちゃんに相談してみようか」
「第三地区のおじいちゃんに?」
「すぐ裸になりたがる変態だけど、一応初代の神様だからね」
一応……か。
ママもおじいちゃんを変態だって思っていたんだね。
でも……
「今の神様の天界のおじいちゃんじゃダメなの?」
「……お父様に頼むと悪い方に進んじゃうんだよ」
「そうなの?」
「絶対に話したらダメだよ。嫌な予感しかしないから」
「天界のおじいちゃんは信用されていないんだね……」
「家族思いで優しいんだけど……かなりズレているんだよ」
「なるほど……」
それは分かるかも。
「では離乳食を食べ終えたら第三地区に行こう。とりあえずカサブランカはタルタロスで待っていてくれ。火を使うからな。愛らしいカサブランカがやけどでもしたら大変だ」
パパの離乳食を久しぶりに食べられるんだね。
甘くて滑らかで、すごくすごくおいしいんだ。
「パパの離乳食っ! えへへ。楽しみだなぁ」
「カサブランカの笑顔は、なんと愛らしいのだ……あぁ……永遠に嫁には行かせない……」
本当にパパは親バカなんだから……
でも大切に想われているのが伝わってきて嬉しいかも。
「もう……ハデスは親バカなんだから……でもカサブランカは本当に超絶かわいいからその気持ちはよく分かるよ。ぐふふ。堪らないね……もみじみたいなかわいいおてて……ぐふふ……ぐふふふ……甘噛みしたい……」
……ママの愛は相変わらず変態的だよ。
ママは絶対に第三地区のおじいちゃん似だね。
間違いないよ。




