わたしには耐えられないよ
第三地区のルゥとじいじとうさちゃんが眠る家___
五十年前までわたしはうさちゃんだった。
真っ白いフワフワの毛並み、真っ赤な瞳……
額には赤い魔法石がついている小さなうさぎ。
大きなベットにルゥとじいじと『オレ』が眠るように横たわっている。
この五十年、一度もこの家には入らなかった。
でも、ママは毎日来ていたんだよね。
勝手に身体を使った事をルゥの身体に毎日毎日謝っていたみたいだ。
ヴォジャノーイ族のおじちゃん逹とヴォジャノーイ王がいつの間にか来ている。
パパが呼んだのかな?
おじちゃん達がじいじの身体を二人がかりで大切そうに運んでいる。
ルゥの身体はパパが抱えているね。
うさちゃんはママが抱っこしている。
不思議だな。
自分がママに抱っこされている姿を見る事になるなんて……
わたしはもううさちゃんじゃないんだね。
桜の木の下に掘った穴に横たわる『オレ』は……
小さいな……
こんなに小さかったのか……
ゆっくりと砂をかけられていく。
そして……
だんだん見えなくなって……
あぁ……
完全に砂に埋まった。
目の前で自分が埋葬されるなんて変な気分だ。
ママが泣いている。
わたしは気持ちに区切りがついたけど……
ママは永遠にそうはならないんだろうな。
ずっとずっと『申し訳ない』って心の中で思い続けていくはずだ。
あれ?
ヴォジャノーイ族のおじちゃんとヴォジャノーイ王も泣いている?
「前王様……聖女様……」
ヴォジャノーイ族のおじちゃんの消えそうな小さい声に、胸がギュッと握られるみたいに苦しくなる。
ヴォジャノーイ族だったパパと聖女だったママは愛されていたんだね。
……わたしは?
いつかわたしが死んだら……
こんな風に誰かが泣いてくれるのかな?
幸せの島の永遠に咲き続ける桜の木が風に揺れている。
花びらが雪みたいに舞って綺麗だ。
永遠……か。
永遠に生き続けるわたし。
永遠に生き続ける家族。
この島周辺にいる皆は永遠の時を生き続ける。
……殿下は違うんだな。
『友達』って言って瞳を輝かせていた殿下は……
高い地位にいて何不自由なく暮らしているように見えるけど、誰よりも孤独で寂しいのかもしれない。
……人間に関わってしまった。
殿下はあと六十年もすれば死んじゃうんだ。
あぁ……
どうして『また会う』なんて言っちゃったんだろう。
人間は死ぬって分かっているのに……
その時が来たら傷つくのは分かっているのに……
わたしには耐えられない。
仲良くなった殿下が死んじゃったら……
わたしには耐えられないよ。




