初めての友達?
殿下は、かなり追い詰められているみたいだ。
このままじゃ心が壊れちゃいそうだよ。
「息抜きは必要だよ?」
「息抜き?」
殿下が苦しそうに呟いた。
「誰かの為に頑張るのは素敵な事かもしれない。だからって自分の本当の心を隠さなければいけないのは辛いよね」
「それは……」
「殿下は……心から大好きな事ってある?」
「心から大好きな事?」
「ほら、さっきから像にほっぺたをスリスリしている男の子……わたしと双子なんだよ」
「……よほどヒヨコ様を愛しているのだな。ずっと頬擦りをしているぞ……冷たくないのか?」
「あはは。変態に見えるでしょ? でも鍛錬の時はすごく凛々しいんだよ」
「鍛錬?」
「皆を守る為に強くなりたいんだって。困っている誰かを見ると放っておけないの。それでいつもやり過ぎてママが謝りにいくの」
「王妃が謝るのか?」
「うん。手土産を持ってね」
「手土産まで? 王妃なのに?」
「うん。ほぼ毎日誰かに謝っているよ。でも皆笑って赦してくれるみたい。元気に育ってよかったって。皆わたし達を自分の子供みたいにかわいがってくれるの」
「そうなのか」
「ママはわたし達が死産になる覚悟をしていたの」
「死産? 母親は身体が弱いのか?」
「身体が弱い? うーん……昨日は頭がクラクラするって言っていたかな」
ベリアルを吸い過ぎて『くうぅ! 堪らないねっ! クラクラするよっ! 』て大興奮していたよ。
「そうなのか……それは心配だな」
「そうなんだよ……見ていて心配になるんだよね」
いつかヘリオスもこうなるんじゃないかって……
いや、すでに手遅れ?
「カサブランカも苦労しているのだな。……また……会えるか?」
「……え?」
「こんなに……色々話せたのは初めてだ」
「そうなの?」
「また……会いたい……カサブランカとなら王族としてではなく……一人の男の子として話せそうだ……」
……そんな風に言われたら断れないよ。
それに、ママが大切に想っている『人間のお兄さんの孫』なんだよね。
はぁ……
人間の国は怖いけど……
「また……会いに来るよ」
「本当に!?」
殿下の瞳がキラキラ輝いている。
「そんなに嬉しいの?」
「友は……いないから。皆、王孫としてわたしに接している。それは友ではないだろう? ……これからは皆がわたしを王太子として見るだろう。今まで以上に友はできなくなるはずだ」
「そう……」
「カサブランカは初めての友だ!」
友?
友達?
人間とわたしが?
嫌なんて言えない雰囲気だ……
仲良くなった殿下が死んじゃったら?
人間はすぐに死んじゃうんだ。
わたしには耐えられないよ。
「……」
「カサブランカは……わたしの友にはなりたくない……か?」
「え? あ……そうじゃ……なくて……」
「わたしの事が面倒か?」
「違うよ! そうじゃなくて……わたしも……殿下が初めての人間の友達だから……どうしたらいいか分からなくて……」
「カサブランカもか? うわあぁ! わたしがカサブランカの初めての友……」
殿下はかなり嬉しいみたいだ。
でも……
仲良くなりたくはないかな……
人間はすぐに死んじゃうから。
そうなったら……
わたしは……
絶対に耐えられない。
「はぁ……」
ベリス王のお店から第三地区に戻るとため息が出る。
「ん? カサブランカは、どうしたの?」
望遠鏡を覗いて遊んでいたヘリオスが話しかけてきた。
「うん。さっきの人間がね……」
「人間? さっきの? うーん?」
ヘリオスはベリアルの像に夢中で何も聞いていなかったんだね。
「カサブランカ……」
ママが真剣な表情をしながら歩いてきた。
もしかして人間のお兄さんの孫と友達になった事を知ったのかな?




