人間と天族の違い?
「父親が国を穏やかに変えた……?」
殿下が呟いた。
「ママはいつも言っているよ? パパはすごいんだって。パパが王として頑張ったから素敵な国になったんだって」
「母親は王を尊敬しているのだな」
「うん! それに、パパはママを溺愛していてね。ママの為なら何でもやっちゃうの」
「何でも?」
「うん! それでいつもやり過ぎてママに叱られちゃうの」
「王なのに?」
「それで皆で笑うの。パパはママが大好きなんだねって」
「……皆で王を笑う? 不敬ではないのか?」
「不敬? パパをバカにして笑っているんじゃないんだよ? 幸せだから笑うの」
「幸せだから笑う?」
「パパとママは一時期離れ離れになっていたの」
「そうなのか?」
「でも長い時を経て巡り逢った。引き寄せられるように……」
「引き寄せられる?」
「『運命の赤い糸』ってママは言っているよ? 運命の相手の小指と自分の小指は見えない赤い糸で結ばれているんだって」
「見えない糸?」
「どんなに離れていても、たとえお互いを忘れていても必ずまた巡り逢えるんだって」
「母親は王を愛しているのだな」
「うん! もちろんパパもママが大好きなんだよ」
「……親が王なら……カサブランカも苦労しているのだろうな」
「うん……毎日ベットちゃんでゴロゴロしていたいのにママは一日五十歩も歩けって言うんだよ?」
「……は?」
「それだけじゃなくて朝だって十時まで寝ていたいのに何度も起こしにくるし」
「……カサブランカは……王族なのだろう? 民の手本とならなければいけない存在……そんな自堕落な暮らしをしているのか?」
「うぅ……自堕落? でも……皆が言うの。いつかやりたい事が見つかったらベットちゃんから出てゴロゴロしなくなるって」
「ゴロゴロって……冗談ではなく本当にその暮らしをしているのか……」
「わたし……やりたい事がないんだ」
「やりたい事がない? 王族だから国や民を守るのが役割ではないのか?」
「うーん……それは役割で、やりたい事じゃないでしょ? あ、もちろん国は大切に想っているよ。パパとママが頑張って守り続けてきたんだから」
「……役割で……やりたい事ではない?」
「殿下のやりたい事って何?」
「それは国を守り民を愛……」
「それとは別の事でだよ?」
「……え?」
「一人の男の子として心からやりたい事だよ?」
「それは……わたしは王族に生まれたから一人の男の子として生きてはいけないのでは……やはり、わたしは国を守らなければ……」
すごく苦しそうに話している……
『そうしなければいけない』『上手くできなかったらどうしよう』っていう感情に押し潰されそうになっているのかな?
「殿下は辛いの? 本当は王太子になりたくないの?」
「そんな……事は……わたししかいないのだ……父上は王になり、わたしは王太子になる。他に代わりはいない。おじい様は側室を持たなかったのだ……他に王族はいない……」
「殿下はリコリスが嫌いなの?」
「……!? そんなはずないだろう! わたしは誰よりもリコリスを愛している。おじい様が守り続けたリコリスをわたしも守る! ……だが……できるか不安なのだ」
「それをパパとママに話した事はある?」
「……ない。呆れられてしまうのではないかと……不安で……」
「誰か悩みを相談できる人間はいないの?」
「……いない。誰も……いないのだ」
高い地位にいても孤独なんだね。
本音を話せないって苦しいんだろうな。
人間は高い地位にいると自由に生きられないの?
そういえば、殿下のおじいさんのリコリス王も国で一番偉いのに海賊の家族と隠れて会わなければいけなかったんだよね。
国と民を守る為に自分を犠牲にしなければいけないのが王なの?
パパとママは毎日を楽しんでいるけど……
人間と天族はこんなに違うんだね。




