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皆が前に進む時

「あぁ……カサブランカに近づく悪い虫を……殺……いや……目玉を……」


 パパが怖い事をブツブツ言い始めた……

 今はこれ以上話しかけるのは、やめておこう。


「ママ……あの……」


『人間だった時のお兄さんが亡くなったけど気持ちは落ち着いたか』なんて訊けないよね。


「……カサブランカ。ママはもう大丈夫。もちろんお兄様の事は永遠に忘れない……これからも思い出して泣く事があるだろうけど……カサブランカとヘリオスが前に進んだように、ママも前を向こうと思う……」


「ママ……」


「カサブランカ……ヘリオス……」

 

「ママ? 何?」


 ヘリオスが嬉しそうにママに抱きついた。

 成長したけど、ヘリオスもママより小さいんだね。


「二人に贈り物があるの」


「「贈り物?」」


 わたしとヘリオスの声が重なった。


「ママが人間だった時の『母親』の形見のイヤリングを二人にひとつずつ贈りたいの」


 え?

 毎日ママがつけているイヤリングを?

 でも宝物だって言っていたよね?


「ママ……そのイヤリングはママの宝物だからもらえないよ」


 ヘリオスも同じ考えなんだね。


「命がけでママとお兄様を産んでくれた母親が……わたし達兄妹に遺してくれたの。ひとつはわたしに。ひとつはお兄様に。そしてわたし達は産まれてすぐに離れ離れになった。でも、ママとお兄様はこのイヤリングがあったから巡り逢えたの。カサブランカ……」


 ママがわたしの左耳にイヤリングをつけてくれた。


「そして……ヘリオス……」


 ヘリオスの左耳にもイヤリングをつけた……


「もしも……二人が離れ離れになったとしても……このイヤリングが守ってくれるはずだよ」


 いつもママの左耳にあるイヤリングがないと変な感じだ。

 でも……

 そのイヤリングがわたしの左耳にあるんだね。


「ママのイヤリング……オレ絶対大切にする!」


 ……え?

『ママのイヤリング』?


「ママのイヤリングはわたしがもらったの!」


 ママのイヤリングはわたしの耳についている物なんだから!


「違うよ! オレの耳についてるやつだよ!」


「「ママ! どっちがママのイヤリング!?」」


 絶対わたしのやつだよ!


「あぁ……もしかしたらこうなるかと思ってイヤリングを浄化して見分けをつかなくして正解だったよ……」


 ママが呆れながら話しているけど……


「「ええ!? じゃあどっちがどっちか分からないの!?」」


 またヘリオスと声が重なったね。


「ぷはっ! 二人は仲良しさんだなぁ。見分けがつかねぇならしかたねぇさ。大事にするんだぞ? そのイヤリングはシャムロックのばあちゃんが嫁にいく娘の為に作った気持ちの籠った大切な物だからなぁ」


 第三地区のおじいちゃんが笑いながら教えてくれた……

 うぅ……

 そんな事を言われたら、これ以上何も言えないよ。


「……分かった。大事にするよ。でも……ママの耳が寂しくなっちゃったね。いつも青いイヤリングがキラキラして綺麗だったのに」


 ヘリオスも同じ事を考えていたんだね。


「でしたらわたしにお任せください! ぺるみ様に似合いそうなイヤリングが店舗に! ささ、今すぐ我が店舗へ! ハデス様!」


 ベリス王が瞳を輝かせながらパパに話しかけたけど……

 イヤリングを使うのはママだよね?

 支払うのがパパだからか……

 今度はどんな高い物を買わされるんだろう。

 パパはママの為なら何でも買っちゃうんだから。


「ペルセポネのイヤリング? ああ……自分の物は子供達に譲ったのか。……そうだな。耳元が寂しいか……では美しいイヤリングを買いに行くか。それから成長したカサブランカとヘリオスに服も選ばなければ。百着ずつ用意すれば足りるか?」


 パパはわたしとヘリオスにも激甘だったね……

 え……?

 ベリス王があり得ないくらいニヤニヤしている!?

 あ、元に戻った。

 

「ぷはっ!」

 

 第三地区のおじいちゃんが吹き出したね。

 

「もう。ハデス? 服は百着もいらないでしょ?」


 ママがパパに呆れている……

 よかった。

 お兄さんが亡くなって、もっと落ち込んでいるかと思ったけど……

 いや、違うね。

 すごく悲しくて辛くて寂しいけど前に進もうと頑張っているんだ。

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