難しい事はよく分からないよ。だってまだ五十歳だもん。
「うわ……一日百歩も歩くなんて無理無理。はぁ……仕方ないから行ってくるよ」
ママを怒らせたら怖いからね。
「そうか、そうか。あ、ほれ。ちょうど護衛が来たぞ」
おばあちゃんが指差しながら教えてくれたけど……
「護衛? 護衛なんていらないのに」
「まぁ、そう言うな。ハデスちゃんはカサブランカの事が心配で仕方ねぇんだからなぁ」
「だって、ベリアルも聖獣王もわたしのベットでお菓子を食べたいだけなんだよ?」
「ははは! かわいいモフモフだと思って許してやってくれ。でも、ベリアルに焼きマシュマロだけは作らせるなよ?」
「うん……絶対にさせないよ。去年ベットを燃やされて大変だったんだから」
「あの時のハデスちゃんは怖かったなぁ。『大切なカサブランカを危険な目に遭わせるなんて赦さん』ってなぁ」
「ベリアルのつぶらな瞳がウルウルして震えていたよね」
「ぺるみが間に入らなかったら今頃ベリアルは魚の餌になってたなぁ」
「ベリアルは、あれから『二度と焼きマシュマロだけは作らない』って言っているよ。でも自分では作らないでママに作らせているんだけどね」
「ははは! ベリアルはヒヨコちゃんの身体に入ってから力の加減が難しいみてぇだからなぁ」
「ふぅん。そうなんだね」
「身体と力が合わねぇんだろうなぁ」
「身体と力が合わない……か」
わたしも身体と力が合わないから成長が止まっているのかな?
「まぁ、ベリアルはリリーと仲良くやってるからあのままでいいんだ。無理に天族の身体に戻る事はねぇんだ」
「そうだね。はぁ……今日も聖獣王とベリアルはわたしのベットでゴロゴロしながら一日を過ごすんだろうなぁ」
「んん? 嫌なんか?」
「嫌じゃないんだけど、ずっとサクサクボリボリ音がするから熟睡できないんだよ」
「ははは! そうか、そうか。寝る子は育つっていうからなぁ。でも、ばあちゃんやじいちゃんに会いに来てくれたら嬉しいなぁ」
「うん。ちゃんと毎日会いに来るよ。タルタロスのおじいちゃんにも毎日会いに行っているし」
「そうだなぁ。クロノスはカサブランカとヘリオスが大好きだから喜ぶだろ?」
「タルタロスのおじいちゃんはずっとベットから出てこないけど、わたしのベットをおじいちゃんのベットの隣に移動して一緒にウトウトすると嬉しそうにしているの」
「そうか、そうか。クロノスとカサブランカはベットにいるのが好きだからなぁ」
「うん。ベットでお菓子を食べるとテーブルで食べるよりもおいしいの」
「ははは! ぺるみは怒らねぇんか?」
「ママは怒らないよ。呆れ過ぎて何も言わなくなったみたい」
「根比べでカサブランカが勝ったんだなぁ」
「ベットでの暮らしは絶対に譲れないんだよ!」
「そうか、そうか。毎日楽しけりゃそれでいいんだ。泣きたくても泣けねぇのは……辛いからなぁ」
「おばあちゃん……?」
「世界は平和になった。最近は大きい戦もねぇしなぁ。でも、どんな平和に見える世界にも争い事はあるもんだ」
「争い事?」
「大きかったり小さかったりするけどなぁ。ばあちゃんは戦が嫌いだ。誰かが誰かを傷つける殺し合いだからなぁ。どんな大義名分を並べたところで、あんなもんはただの殺し合いだ。偉い奴は安全な場所にいて、痛くて辛い思いをするのはいつだって弱い奴なんだ」
「……おばあちゃん」
すごく辛そうだよ。
「ばあちゃんは二度と同じ過ちを繰り返さねぇ」
「……? おばあちゃん?」
同じ過ちって?
「カサブランカ……いいか? 独裁者になるな。耳に痛い事を言ってくれる奴がいなくなったら終わりだぞ?」
「……よく分からないよ」
「ははは! 今はそれでいいんだ。いつか……千年先、二千年先……カサブランカの心が成長した時の為に頭の片隅にしまっておいてくれ」
「……? うん。分かった……」
分かったとは言ったけど……
頭の片隅に?
うーん……?
やっぱりよく分からないよ。