一緒に前に進もうよ
ヘスティアと第三地区に行くと皆が広場に集まってご飯を食べている。
もう夕食の時間か……
第三地区は皆寝るのが早いから夕食も早いんだよね。
ケルベロスが用意してくれたオイルをヘスティアに全身に塗ってもらったけど、まだ皮膚が引っ張られる感じがする。
痛み止めも全然効いていないんじゃないかな?
身体中痛いよ。
ゆっくり砂浜を歩いて広場に向かうと、わたしに気づいた魚族長が驚いた表情で見つめている。
「……え? カサブランカ様……? え? どうして……」
魚族長の声に広場にいる皆が一斉にわたしを見つめてくる。
どうしよう。
なんて言ったらいいのかな?
「え? カサブランカ……カサブランカ!?」
驚き過ぎたパパが椅子から落ちた……
「カサブランカ? ……成長……したの?」
ママがわたしに向かってゆっくり歩いてきた。
「ママ……うん。こんな時に成長してごめんなさい」
人間だった時のお兄さんが亡くなった日に成長するなんて……
「カサブランカ……謝らないで……そう……成長したんだね。身体が痛いでしょう? ママも急に成長した時には身体中が痛かったんだよ。椅子に座ろう? 立っているだけでも辛いよね」
「……うん」
こうして広場の椅子に座るとヘリオスが心配そうに話しかけてくる。
「カサブランカ大丈夫? 身体が痛いの?」
「大丈夫だよ。さっき身体中にオイルを塗って痛み止めを飲んできたから」
痛み止めが効かないくらい痛いなんて言えないよね。
「そっか……何か飲む? プリン食べる? クッキーがいい?」
「ヘリオス……心配してくれてありがとう。でも……大事な話があるから隣に座って?」
「大事な話?」
ヘリオスが隣に座るとゆっくり話し始める。
「ヘリオス……わたしの成長がずっと止まっていたのは、うさちゃんの心をしまい込んでいたからみたいなの」
「……? うさちゃん?」
「わたしがカサブランカになる前の名前……わたしはパパとママの娘になろうって頑張り過ぎていたみたい。どんなわたしでもパパとママは受け入れてくれるのに……」
「カサブランカ……」
「ヘリオスもオケアノスの心をしまい込んでいるんでしょう?」
「……! カサブランカ……それは……」
「もうやめよう?」
「でも……オレは……ヘリオスだから。もうオケアノスじゃないから……オケアノスの心があったらダメなんだ」
やっぱりヘリオスもわたしと同じ事を考えていたんだね。
「ヘリオス……不思議なの」
「……え?」
「久々にうさちゃんの心が出てきたのに……わたしのままなんだ」
「カサブランカのまま?」
「うん。もっとうさちゃんだった時みたいになるかと思ったんだけど……そうでもなかったの」
「……そう……なの?」
ずっと立ち止まっていたわたしの背中をヘスティアが押してくれたように……
今度はわたしがヘリオスの背中を押してあげるんだ。
一緒に前に進む時が来たんだよ!




