初めての人間の国
「うわあぁ! 素敵なシャツがあるわ。魚族長によく似合いそう」
「わたしは普段はシャツを着ないから……あ、この髪飾りはアマリリスに似合いそうです」
アマリリスと魚族長は二人の世界に入り込んでいるね。
ずっと手を繋いでいて、すごく仲良しだ。
「外の世界は怖かったけど、魚族長がいてくれるからすごく楽しい……」
「わたしも……あぁ、いや……」
この二人……
誰がどう見ても両思いだよね?
これがおじいちゃんが言う『煮え切らない』なのかな?
「魚族長はベリス王のお店にはよく来るの?」
「一年に一度……かな?」
「一年に一度?」
「アマリリスの誕生日の贈り物を買いにね」
「……! 魚族長……」
見ている方が恥ずかしくなるほど仲良しだね……
「いやぁ……暑い暑い。真夏かな? あはは。って……ヘリオスがいねぇ!」
おじいちゃん……
心が聞こえるからヘリオスがトイレに行った事を分かっているよね?
「おや? ヘリオス様なら先程トイレに……」
「もしかしたら外に行ったか? 大変だ! カサブランカ!」
おじいちゃんがベリス王の話を途中で遮った?
この流れはまさか……
「ちょっと……おじいちゃん……まさかわたしを外に連れ出す為にこんな事を……」
「魚族長! アマリリスを頼んだぞ!」
「おじいちゃん! だからヘリオスはトイレに……」
「カサブランカ……魚族長とアマリリスに気を遣ってやらねぇと」
気を遣う?
「あ……それは確かに。わたし達がいたら邪魔になっちゃうかも……」
「ベリス王、ヘリオスにそのイカツイ刺繍の望遠鏡をくれ。それと、この金塊でアマリリスと魚族長に飲み物とお菓子でも出してやってくれ。一時間くらい出かけてくるからなぁ」
「はい。では望遠鏡に紐をつけましょう。ヘリオス様は活発ですからどこかで落とさないように……」
「さすがベリス王だなぁ。お? ちょうどトイレから帰ってきたか。よし! 出発だ!」
ちょっと待って……
出発って……
ベリス王のお店の外は人間が暮らすリコリス王国だよ?
……怖いよ。
もし人間が襲いかかってきたら……
そういえば人間ってどんな感じなんだろう。
おじいちゃんがわたしとヘリオスと手を繋ぐと、ベリス王がお店の扉を開けた……
……うぅ。
眩しい……
お店の中は少し薄暗かったから……
「……! うわあぁ!」
これが人間の国……
整備されている石畳の道……
少し離れた所には時計台が見える。
……これが人間?
綺麗な服を着た人間が十人くらい歩いている。
見た目はわたしと変わらないかも。
ずっと怖いと思っていたけど……
わたしは何を怖がっていたんだろう。
見るからに弱そうだ。
神力も魔力も感じない。
こんなに弱くてどうやって生きているの?




