どんなに虚しくても悲しくても時は進んでいくんだね
「ジュース! モモのジュースがいいなぁ」
焼きまんじゅうにはお茶も合うけどモモ製造機のモモで作ったジュースもよく合うんだよ。
「あはは。ヘリオスも同じ事を言って……ほら、ちょうど畑から帰ってきたね」
ママが嬉しそうに笑っている。
「あ! カサブランカ帰ってきたんだね。モモのジュースが飲みたくなったからモモ製造機に行ってきたんだ。カサブランカも飲む?」
ヘリオスがバスケットいっぱいにモモを持ってきた。
「うわあぁ! うん! 飲みたい!」
さすがヘリオス。
優しいよ。
「ふふ。ヘリオスありがとう。じゃあジュースを作るからね」
ママがバスケットを持って広場のキッチンに歩いていったけど……
さっきのおじいちゃんの話はなんだったんだろう?
「カサブランカはリコリス王国の帰りにどこか寄ってきたのか?」
パパがわたしの口を拭きながら尋ねてきた。
「え? 水晶で見ていなかったの?」
「ああ。突然真っ暗になって何も見えなくなったのだ」
「そうなの? おじいちゃんと真っ赤な花が咲いている小さい島に行ったの」
「真っ赤な花? ああ。ニヘイの墓がある島か」
「パパはあの島を知っているの?」
「そうだな。ヴォジャノーイ族だった頃、この世界の全ての島を見てきたからな」
「そうだったんだね」
「カサブランカ、ヘリオス。ジュースができたよ」
ママが搾りたてのジュースを持ってきてくれた。
甘くていい匂い!
「「うわあぁ! おいしそう!」」
ヘリオスと声が重なったね。
さすが双子だよ。
「ふふ。二人は本当にかわいいね」
「そうだな。我らの子供達は最高に愛らしい」
ママとパパが嬉しそうに微笑んでいる。
リコリス王国の殿下も今頃こんな風に家族団欒しているのかな?
もう関わる事はないだろうけど……
幸せに暮らして欲しいな。
……この虚しい気持ちもそのうちなくなるよね。
数十年後___
たくさんの家族に囲まれて殿下は亡くなった。
穏やかな最期だった。
たった三回会っただけの人間の友達……
今でもフロランタンを見ると思い出す。
初めての人間の友達……
人間達は殿下の事を『名君』だったって讃えている……
よく頑張ったね。
すごく素敵な王様だったよ。
時々水晶で見る殿下は民を思いやる事ができる立派な王様だった。
涙は出ない。
あまり深く関わらなかったからかな?
殿下が守り愛してきたリコリス王国はこれからどうなっていくんだろう。
殿下は見る事ができない未来……
わたしが見続けていくからね。
そして……
約三百年後___
「カサブランカ! カサブランカ! いつまで寝ているの!? もうすぐお昼だよ!?」
冥界のわたしの部屋にママが怒りながら入ってきた。
「ううーん。あと少しだけ……」
「もう! 身体が成長してもずっとダラダラしているんだから! 一日五十歩から百歩に増やすよ!?」
「ええ!? 嫌だよ……面倒だし……」
「面倒って……今すぐ起きて第三地区に行きなさぁぁぁあい!」
「うわあぁ! ママが本気で怒った!」
カサブランカ、四百歳___
今日もママに怒られている……




