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大切な存在の死を見続けるなんて……辛いよね

「そうか……もうそんな時期か。モグモグ……」


 ベリアルが話し始めたけど……

 え!?

 いつの間にかベットの上がチョコの空き箱だらけになっている!?

 ベリス王が次々にチョコの箱をベリアルと聖獣王に渡している……

 一体いくら食べたの?

 パパはいくら請求されるの?


「ベリアル……食べ過ぎじゃない?」


「大丈夫だ! このチョコクッキーサンドはいくらでも食べられるんだ。サクサクの軽いクッキーにとろけるような濃厚チョコ……最高だ!」


 聖獣王も一言も話さずにずっと食べている。

 犬みたいなしっぽがずっと揺れているよ。


「……ねぇ、ベリアル? ナッツのタルトって何か意味があるの?」


 ママが悲しむって?


「あぁ……人間の公爵だったじいちゃんの命日なんだ」


「人間の公爵?」


「ぺるみを孫みたいにかわいがってくれてな。自分が死んだら泣くんじゃなくてナッツのタルトを食べて思い出話をして欲しいって言ってたんだ」


「……そうだったんだね」


「あ、カサブランカは覚えてないか? 五十年前に会ってるんだぞ」


「……五十年前に? うーん……よく分からないよ」


「そうか。あれはレオンハルトがプルメリアの王になってすぐだった。ルゥの人間の家族達が幸せの島に遊びに来たんだ」


「……? うーん。やっぱり思い出せないよ」


「カサブランカはずっとベットでウトウトしてたし赤ん坊だったからな。ルゥの兄ちゃんのヘリオスはカサブランカをそれはかわいがって……」 


『ヘリオス』……か。

 ママが『ヘリオスは人間のお兄さんの名前からつけた』って言っていたよね。

 すごく大切な人間の名前をわたし達兄妹につけたんだって……


「……そうだったんだね」


「ヘリオスは変態的に妹のルゥを溺愛してたから、そっくりなカサブランカがかわいくて仕方なかったんだ」


「変態的に? ……ママとそっくりだね」


「ルゥのシャムロックのばあちゃんも『カサブランカに自分の名前をつけてもらった』って喜んでたし、ヘリオスもぺるみの子に自分の名前をつけてもらって嬉しそうだったな」


「シャムロックのおばあさんの名前がカサブランカなのは、ママから聞いたから知っているよ。かなり前に亡くなったんだよね?」


「そうだな……あの時のぺるみは見ていられなかったな。ずっと泣いて……」


「……そう」


「最期は天族の姿で会いに行ったんだ」


「え? 天族の姿で?」


「隠してた翼をハデスに出してもらってな。ばあちゃんはぺるみが天族だって知ってたんだけど……誰にも話さなかったんだ」


「そうだったの……」


「最期の時、二人きりの部屋で手を握り合って……あの時のばあちゃんはベットの上で幸せそうに笑ってた」


 水晶で見ていたのかな?


「もうすぐ……リコリスのお兄さんも……?」


「……人間は長くは生きられないからな」


「……うん」


「人間と関わるって事は……そういう事だ。それでもぺるみは人間を見守るって決めたんだ」


「ママは人間を大切に想っているんだね」


「そうだな。ベリス王とイフリート王とぺるみは一緒に人間のアカデミーに通ってたんだぞ」


「え? そうなの? ママがアカデミーに通っていたのは知っていたけどベリス王もだったの?」


「そうですね。懐かしいです……つい昨日の事のようです。あの時のクラスメイトはほとんど亡くなりましたが……」


「そうなんだね……」


「ぺるみ様が心を寄せていた露店商市場はそれぞれが店舗を持ちました。まだ幼かったジャックは立派な相談役として活躍しています」


「ジャック?」


「人間は五十年前までは、遥か昔の勇者と聖女にあやかり『ジャック』と『リリー』という名が多かったのですが……今では『ペリドット』や『ぺるみ』『スーたん』が主流となりました」


 全然知らなかったよ……

 確かママは人間の前では『ペリドット』を名乗っていたんだよね?

 ママと同じ名前の人間がたくさんいるのか。

 でも、スーたん?

 モフたん族のスーたん?

 真っ白くてフワフワで真ん丸の身体に、キラキラの瞳……

 皆から、ちやほやされたくて猫を被っているあのスーたん?


「ベリス王? どうして魔族のスーたんの名前を人間が知っているの? スーたんは魔族だから従魔になっちゃうんじゃ……」


「ははは。スーたんという名はベリアルがつけたのですよ。本当の名は種族内だけの秘密ですから、スーたんの名は別にあります。ニックネームのようなものですから従魔にはなりませんよ。ベリアルをピヨたんと呼ぶようなものです。スーたんは今でも時々人間の国で歌ったり踊ったりしていますから人気があるのですよ」


「人間の国で? 魔族なのに人間は怖がらないの?」


「ははは。スーたんは聖獣だと思われていますからね。それにあの容姿で魔族だと言っても誰も信じませんよ」


「毎日歌と踊りの練習を頑張っているのは人間に見せる為だったんだね」


「スーたんも……スーたんのやり方で人間を見守っているのですよ」


「人間を見守る?」


「はい。わたし、イフリート王、ゴンザレス、スーたん……他にも多くの者達が『見守る者』になりました」


「見守る者……」


 少し前までは多くの魔族が人間を食べていたらしいけど……

 この五十年で色々変わったのかな?


「あ、ちなみにピヨたんという名をつける人間も少し前まではいたのですよ。ですが大人になった『ピヨたん達』は恥ずかしい思いをしていまして……」


「確かに……ピヨたんは恥ずかしいね。じゃあ、ベリアルは人間の前では『ピヨたん』って名乗っていたの?」


「いえ。『ヒヨコ様』と呼ばれていました。さすがに天族のベリアルの名を出すのは良くありませんからねぇ。ベリアルを熱烈に愛する一部の者は『ピヨたん』と呼んでいたのですよ。リコリス王国の宰相の息子が『ピヨたん』と名づけられたのが始まりでしたが……その子ももう五十歳に近いのでは? 『改名したい』とずっと言っているようです」


「……それは災難だね」


「名は一生付き合う大切なものですから……親は子が大きくなった時の事を考えて名づけなければいけませんね」


「……うん。わたしもそう思うよ……」


 もし、万が一わたしが母親になる時が来たら気をつけよう……

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