適温の部屋でゴロゴロしていたいだけなのに……
『誰もが恐れる冥王ハデスの妻ですが今日もモフモフ愛が止まりません~異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします~その後の物語』
から五十年後、成長したカサブランカが主役の物語です。
「カサブランカ! カサブランカ!」
はぁ……
またママが起こしに来たの?
怒りながら廊下を歩いてくる音が聞こえる。
もう三回目?
四回目だったかな?
うーん……
まだ眠いよ。
「カサブランカ! もう! ヘリオスは二時間も前におじいちゃんとおばあちゃんに会いに第三地区に行ったんだよ?」
うぅ……
ヘリオスはもう第三地区に行ったの?
早起きだなぁ。
「うーん……あと三時間したらお昼ご飯でしょ? その頃行くよ……」
「おばあちゃん達もおじいちゃん達もカサブランカとヘリオスが遊びに来るのを楽しみにしているんだから!」
「あと三時間したら行くよ……うーん……眠い……」
「カサブランカ……毎日ベットでゴロゴロして、ママは心配なの。お日様の下で元気に遊んで欲しいんだよ」
お日様の下で元気に?
無理無理。
暑過ぎて溶けちゃうよ……
今、第三地区は真夏なんだよ。
幸せの島は常夏だし。
でも『カサブランカがお昼寝する島』は常に適温なんだよね。
仕方ない。
お昼寝する島に行く為に起きるか……
「……ママ。……分かったよ」
「分かってくれたの?」
「三時間したら第三地区の広場にベットごと移動して皆に挨拶したら、お昼寝する島に行って寝るよ。お昼ご飯はベットの上で食べるから」
「……お昼寝する島で……寝る……?」
「うん。あの島は一年中適温だから気持ちよく寝られるの」
「……カサブランカ……もう赦さないよ……」
「……? ママ……?」
どうして怒っているの?
ちゃんと第三地区で挨拶はするのに。
「今日から毎日『人間と魔族の世界』の種族王の所に最低一か所は遊びに行く事!」
「……え? 種族王の所に? 嫌だよ。面倒だし……」
皆、優しいけどそんな事をしたらお昼寝する時間が減っちゃうし。
「面倒じゃないの! 毎日毎日ベットにいて、床を歩くのはお風呂とトイレと貝殻拾いの時だけでしょう? 昨日なんてベットに寝たまま貝殻拾いをしていたし!」
「だって、ゴロゴロしていたいんだもん」
「『ゴロゴロしていたいんだもん』じゃないの! 健康的に過ごしなさいっ!」
健康的になんて無理。
わたしは適温の場所で汗をかかずにゴロゴロしていたいの。
「まぁまぁ、ペルセポネ。よいではないか。カサブランカにはカサブランカのやり方があるのだ」
やっとパパが来てくれたね。
パパはわたしとヘリオスに甘いからいつも助けてくれるんだ。
「もう! ハデスが甘やかすからカサブランカがずっとベットに居続けるんだよ! 健康の為にも毎日歩かないと! 昨日なんて十歩くらいしか歩いていないはずだよ?」
「……なんと。十歩も歩けたのか。すごいな。カサブランカは優秀だ! こんなに小さいのにもう十歩も歩けるとは……」
「ハデス……カサブランカは卵から孵って五十年経ったんだよ!? もう赤ちゃんじゃないの! 確かに超絶かわいいけど……超絶かわいいけどっ!」
「まぁまぁ、よいではないか。成長に個人差は付き物だ。それにしてもカサブランカは今日も美しい。腰まで伸びた白に近い銀の髪に、海のような青い瞳……心配だ。悪い虫がつかないか心配だ。今日も『人間と魔族の世界』に行かせたら護衛をつけなければ……」
個人差か。
確かにわたしと兄のヘリオスは人間の七、八歳くらいの大きさで四十年間成長が止まっているんだよね。
時々そういう天族もいるらしいけど……
「わたしがルゥだった時は生きるか死ぬかのギリギリの鍛錬をしたくせに……カサブランカとヘリオスには翼が重過ぎるとか言って闇に近い力で隠してあげているよね?」
「あれは、あれ。これは、これだ。健康的なヘリオスとは違いカサブランカには体力がないのだ。重い翼で肩が凝ったら大変だろう? それにヘリオスは活発だからどこかに翼を引っかけそうで心配なのだ。ペルセポネの翼も隠しているだろう?」
「確かにわたしの翼も隠してもらっているけど……『よそはよそ、家は家』みたいな言い方をしないでよ! とにかくカサブランカには毎日五十歩、歩かせるから!」
「な……五十歩も!? カサブランカが死んでしまう!」
「ハデス! これ以上カサブランカを甘やかさないで!」
「ははは! ぺるぺるも激甘さんじゃねぇか。五十歩でいいんか?」
あれ?
いつの間にか、おじいちゃんがいる?
また冥界に遊びに来たんだね。
暇なのかな?
「吉田のおじいちゃん! いいところに来たね。無理矢理でもいいからカサブランカを第三地区に連れていって!」
ママ……
嫌だよ。
仕方ないね。
ふふふ。
わたしが寝ているベットは創造の力で創り出した最高傑作なんだよ。
わたしの思い通りの形になるし、思い通りに動くの。
よし。
ベットちゃん。
床にしっかりくっついて絶対に動かないようにして!
おじいちゃん、ママにもうベットは動かないって言ってね。
わたしの心の声が聞こえているよね?
「ははは。仕方ねぇなぁ。カサブランカには敵わねぇや。ぺるぺる、そりゃあ無理だ。ほれ、見てみろ。カサブランカのベットが床にしっかりくっついて動かねぇんだ」
ふふふ。
おじいちゃんもわたしの味方なんだよ。
おじいちゃん大好きっ!
ん?
おじいちゃんがニヤニヤしたね。
すごく嬉しそうだ。
「……カサブランカ! まったく! 創造の力でベットを創れるようになってからこんな事ばかりして! 天才なの? わたしの子供は天才なの!? くうぅ! 超絶かわいいっ!」
ママ……
怒っているんだよね?
さっきからずっと心の声が口から出ているよ。
「相変わらず、ぺるぺるは子供達に激甘さんだなぁ」
「うぅ……だって、超絶かわいいんだもん。でも、親として厳しくしないといけない時もあるの!」
「それが五十歩、歩かせる事か? ぷはっ! 激甘だなぁ。ヘリオスなんて昨日は海の上を走ってたぞ?」
「……うん。わたしも見た。あれには驚いたよ。海に沈まないように右足と左足を交互に素早く持ち上げれば誰にでもできるって言っていたよ」
「ぷはっ! 普通はできねぇよなぁ」
「カサブランカはカサブランカで心配だけど、ヘリオスはヘリオスで心配だよ。いつか大怪我をするんじゃないかって……」
「親の心配は尽きねぇよなぁ」
「親になって初めて分かったよ。子育ては心配の連続なんだね」
「ははは! じゃあカサブランカ。これ以上ぺるぺるを心配させねぇように『人間と魔族の世界』に行くか?」
「……うん。眠いけど頑張って行くよ……」
このままじゃ、ママがうるさくて眠れないし。
「カサブランカ……偉いっ! 超絶かわいいっ! 気をつけて行ってきてね? スーハー……お昼頃にはママの仕事が終わるから、それまでに誰でもいいから種族王に会ってくるんだよ? スーハー……」
ママがわたしの髪に顔をうずめてスーハースーハーしながら話しているけど……
「うぅ……面倒だなぁ。ずっと寝ていたいのに……」
「ズルはダメだよ? 後で種族王に確認に行くからね?」
「え? 確認するの?」
行った振りをして寝ていようと思ったのに……
「返事は!?」
「はぁい……」
仕方ない。
行ってくるか。
一日に五十歩も歩くなんて嫌だなぁ……
ずっと寝ていたいのに。
明日は筋肉痛間違いなしだよ。
でも、ママを安心させる為にも行かないとね。
はぁ……
面倒だなぁ。
どの種族王の所に行こうかな?
次回投稿は前作までの誤字脱字の直しが落ち着いてからになりそうです。