7-8. うちにかえるまでがおつかいです
「しもうた。迷うたばい」
「そうね。ここどこかしら?」
はじめてのおつかいは成功ではなかった。
帰りの交通費をケチって、自力で帰ろうとして迷いました。そりゃそうだ。何処に居たかも分かってなかったのだから。2人とも壊滅的な方向オンチだし。
今回のミッション、最大の難関は帰還でした。
「そろそろナースコールしたら?」
「いや、それが電池が切れちょる」
「え?それは無限バッテリーじゃないの?」
対地攻撃人工衛星のスマホ型コントローラーとか、ねこバスとか、充電も無しで無限に動作した。無限に保つバッテリーなのか、発電装置を内蔵していたのかは、理解していないのだけど。
「これは、独自規格のバッテリー」
「また、なんでそんな面倒なヤツを」
「ソニータイマー信者なので」
うーん。他に何も持って来てない。どうしたもんかー。潜入捜査だったので、「コレはオモチャです」と誤魔化せないものは持って来てないのだ。ナースコールボタンも、どんぐりに偽装してあります。
「まあ、不老不死じゃからして?いつかは生きて辿り着けるよ?」
「いやよ。サイボーグだってお腹空くのよ?」
不老不死でもお腹は空く。お腹が空いても死なない。まじ地獄。
「ぽくぽくぽくぽく」
「ふぁっきゅうさん?口でソレ言えば閃くの?」
「ティーン!」
閃いた!迷っていると思うから迷うのです。迷ってません!そうです、このまま真っ直ぐ飛んでいけばカワサキ帝国に着きます!
「トンチにもなってないし」
「そじゃねー」
久々にね、自力で飛行しているのです。壊れた漁船を漁師のおっちゃんに貰いました。そいつに乗船して魔法で飛んでいます。
「ふっ。道を見失った時、どうするべきか。ニャアちゃんは知らなかったー。私も、知らん」
宇宙海賊タオルくんは船にさえ乗っていれば無敵、などと豪語していましたが。やはり、こんなもんですよ。腕組みして船首に立ってますけど。そこはQTフィールドが薄いから危ないよ?衝撃波の範囲にアホ毛が出ちょります。
「あ!あれやろうかー。サイボーグ戦士ちゃん」
「なにを?」
サイボーグ戦士と言えばアレですよ!大気圏に突入して終わりデスよ!前やった時はひとりじゃった。タオルくん、キミは何処に落ちたいばい?
「ほいじゃー行くよー」
「何処行くのか、いいなさいよ」
「星の海さ」
「とぅんく!」
最近、「とぅんく!」が私達のブーム。動悸息切れ目眩脳波停止の経験が豊富なので、生命の危機を感じた時に言います。
「あらー、これはマジでとぅんくねー」
「じゃろー?」
ここは36,000キロの上空。空っていうか宇宙空間ですね。QTフィールドが無ければ即死です。そういえば、タオルくんは、こんなオープンカーな乗り物ではここに来た事ないね。私も7年ぶりだっけ?あの頃はまだ宇宙戦艦も持ってなかったなー。ニートンと畳に乗って来たような。無茶しよんなー過去の私。壊れた漁船でもさほど変わらんけどね。
神とかいう生き物の実在を信じたくなるような光景です。惑星が、あめ玉のように美味しそうに輝いています。いかん、腹減ってるなー。あ、ヤバいぞ。宇宙空間にはマナもカナも無い。減ってるのは魔力袋だ。
「あ、宇宙空母が無かったっけ?」
「ソレだ!」
静止衛星軌道まで来ればアルプス山脈くらい見えるかと思ったけど。地図の読めない幼女2人では、どうにもならんかった。でも!静止衛星軌道には、宇宙空母が係留してあったはず。それはスグに発見出来たので乗船します。
「お、すごい。艦内には空気がある。重力はないけど」
「重力はあるわよ。無限に落下し続けているだけ」
「あっ、そう。私、リケジョじゃないので分かりますん」
「システムエンジニアってバカでもなれるの?」
「うぐっ。否定は出来ない」
なにしろ1日中トイレに籠もってソシャゲやってるのとか居ますしおすし。
「で?何すんの?ナースコールの充電?」
「いや、充電器が無いだろうね。独自規格じゃけ」
「あれがあるんじゃない?人型汎用決戦兵器の四号機」
「ソレだ!」
タオルくんは物覚えがいいなあ。
「あんたが悪過ぎるのよ」
「あ、はい」
格納庫に人型汎用決戦兵器の四号機はありました。長く放置されていましたが、ちゃんと動きます。これはフルリモート前提ですが、中に搭乗する事も出来るのだ。複座ではないけど、幼女2人なら詰め込めばイケる。
「ほいじゃー、ニャア元大佐出る!」
ぼじゅわあああ、っと。大気圏に突入します。耐熱カプセルに入っているので燃え尽きたりはしません。落下地点は、ヨコハマの湾岸辺りにセットしました。
「あ、忘れてた!」
「何を?」
「タオルくん、キミは何処に落ちたい?」
「ヨコハマの湾岸あたりにセットしたんでしょ?これは自由落下しか出来ないんだから、今さら選べないでしょ」
「そんな、論理的に返されても」
ヨコハマなら破壊しても惜しくないし。地下鉄も近いので、楽にお家に帰れます。
「ねえ?そういえば、これの初号機から参号機って廃棄処分したのよね?粉々に粉砕して」
「あー、それはー。それは…」
「なぁに?」
「アールくんの作ったものはウイルスに汚染されているかも知らんのでぇ…」
「へえ?」
人型汎用汚染ロボは、ずどーん!と、ヨコハマの湾岸地帯に落下しました。今の衝撃だけで、カジノの負け客を収監している強制労働施設が半分消し飛びました。
ほいでー。
「おーおー!派手に暴れてるわねー」
「まあ、腐りきったミカンのヨコハマじゃし。破壊しても構わんとは思うけど」
四号機は汚染してました。操作不能です。ヨコハマの湾岸地域で大暴れしてます。人型汎用決戦兵器と言えば汚染して暴走するのは宿命だよねー。実験的にAI回路なんか載せるんじゃなかった。
「魔法で脱出しよ?」
「それがー、どういうワケかコクピット内にマナカナが無いみたいでね?」
「あんたは魔力袋を拡大したんじゃないの?」
「宇宙空間にはマナカナが無かったので、使い果たしました」
「マナカナの循環操作は?」
「無いものは循環もできません」
「そうかー。これはピンチね?」
「生きて地上に辿り着けただけマシじゃろね」
コクピットが謎の膜に包まれている感じで、マナもカナも循環してくれません。マナもカナも無い魔法幼女は、ただの幼女です。
もう工場もカジノも全滅しました。更に中華街に向かって、ずっしんずっしん歩いて行きます。ふむー?案外乗り心地がいいですねー。ロイヤルサルーン仕様かしら?試乗レビューしてる場合じゃないけど。
「そろそろミーナちゃんかタオルくんが迎撃に来るじゃろ」
「気付かれずに撃破されたら、どうなるの?」
「また、星の海かも…概念的な方の」
「いっそ即死して異世界に転生した方がマシかしらね?」
あ、来ましたよ。あの真っ赤な品の無い機体はニートンのロボです。魔界ロボと家電ロボを組み合わせたフルリモート型ですね。
「お前も蝋人形にしてやろうかー!」
「なんか言ってるけど、アイツ性格変わってない?」
「うーん。姉と一体化したので、多少は変わってしまうのでは?」
ずきゅーん!と、ライフルを撃って来ました。
「蝋人形にするんじゃないのか!いや、すんな。ニャアちゃんですよー。今スグ攻撃をやめてー」
「こういうやつをどうすればいいー!」
「これはー、こっちの声が聞こておらぬね?」
私の操作が間違っているのか、こっちの音声は伝わってませんね。ミュートボタン押してる?何処?
こうなったら気合と根性ー!このロボの操作を奪い返す!
ふんにゃゃああああ!
タオルくんからマナカナを吸い取ってー!四号機のAI回路を破壊じゃあ!
ぷっしゅう
前も同じ事やったじゃん。タオルくんには魔力袋ないんよ。しかも、今はサイボーグ戦士じゃけ、1ビットも吸えんかった。
「何?どこを破壊すればいいの?」
「えーっと、首の付け根のあたり」
「私の真上ね?」
「ほうじゃけど。もう残弾数ゼロなんじゃあ?」
右腕のアームズは、おっさんのけつに突っ込んで汚染したので捨てたしね。
「ふはははっ!我には最終奥義があるのじゃ!」
お?久々にチュウニ回路全開のタオルくんですよ!
「輝け!我が暗黒の右腕よ!!シャイニング・ダークネス・ライトアームズ!!」
「カッコイイ!」
暗黒が輝くなんてスゴイ!さすがチュウニさんやでー。
どんがらがっしゃーん!
「タオルくん!」
「ふっ、後は任せたけえ、シンちゃん」
四号機のAI回路は破壊出来たけど、タオルくんが破壊したガラクタに生き埋めになってしまいました。懐かしいシンちゃんの名を呼んだのを最後にぐったりしてしまいました。
「うぉおおお!!ケツ出せおらーー!」
四号機のコントールを取り戻した私は、ニートンロボをボッコボコにしてやりました。
「ねえ?目的間違ってない?」
ありゃ?確かに?ニートンロボと戦う必要など無かったわー。つい勢いでやってしもうた。まさか、私も汚染したのでは!?そんなバハマ。
「いや、あんたは元からそんなよ」
「まあね」
イイ感じで相打ちになりました。ニートンロボも四号機も完全に沈黙、ってやつです。
コクピット正面の隔壁がゆるゆるになったので、げしげしっと蹴り破って外に出ます。私達を包んでいた謎の膜から解放されて、この世に新しく生まれでた気分!
新鮮なマナとカナを吸い込んで復活した私は、タオルくんをガラクタの中から救出して治癒魔法で全快にすると、ふたりで四号機のお腹の中から空を眺めました。
「空が真っ赤でキレイじゃねー、タオルくん」
「そうね。まさにバーンって感じねー。無礼バーン」
なにしろ、辺り一体火の海じゃからね。
私達は、夕陽と大火災がごちゃ混ぜになった、キレイな赤い空を、しばらくじっと見つめたのでした。とぅんく!
「お前ら、しばらく務所に入っておれ」
「あ、はい」
さすがにアウトでした。皇帝の判決は懲役7日でした。
なんだ短いなーって思うじゃないですかー?でも、食べ物は当然、水もなしなのです。寝ようとすると、あらゆる刺激で起こされます。おトイレすら、自由には行けません。
四号機のコックピットを包んでいた不思議な膜は、ミクルちゃんによって早速リバースエンジニアリングされ、監獄の壁に組み込まれたので、魔法が一切使えません。脱獄も反撃も不可。
不老不死なので死にはしませんでしたけど、私達は自我を保つのがギリギリでした。これは収監ではなく拷問です。もちろん文句を言える立場ではありませんね。
タオルくんは「脳もサイボークにしておけばスリープモードに出来たのに」などと、危険極まりない事を言ってました。
「少しは反省したカナ?」
「あ、はい」
タオルくんと一緒に出所したところへ、サクラ姉ちゃんが迎えに来てくれました。
ニートンとミーナちゃんは脱獄を手伝うおそれがあるので監禁されているそうです。
「邪悪な町にもね、使い道があるんだよ。壊せばいいってもんじゃないカナ」
なんの変哲も無い水が、とてもオイシイです。はあ、生きている事に感謝。大丈夫、私達はまだ生きています!
「世の中には、まだまだ未知の敵がおるんじゃね」
「最大の敵は、マヌケな身内カナ?」
ソウデスネ。




