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7-7. はじめてのおつかい(潜入工作)

 ニャア姉ちゃんとタオルくんは、どこかよその国へ行きました。

 私は、ニートンと1万年前の過去へやって来た。

 私の、はじめてのおいつかいは、潜入工作だ。


「そろそろ、調査活動から逸脱して破壊活動をしている頃でござろうか」

「それは折込済みだって皇帝陛下が言ってたね」


 さすが帝国を統べるモノ。あのポンコツ幼女達のやることをお見通しだ。という事は、こっちのポンコツがやらかすこともお見通しに違いない。


「私は優秀だけど、ニートンが雑魚騎士だからなあ」

「ミーナちゃん。そういうとこは姉に似ないで欲しいナリ」

「え?これはちゃんと打算で意図的に心の声を漏らしているので心配しないで」

「いや、そういうことなら別の心配が…、まあいいナリ」


 ニートンはマジ雑魚。明日出来る事は明後日やるって、どういう事?都合良くループも過去改変も起きないのに。たまに罵倒してでも、やる気を起こさせないと。


「この任務の報告書は拙者が書くよ」

「え?私も書くよ。ニャア姉ちゃんに見せるから」

「あぁ、そう?それはえらいね。でも、私には見せないでね。妹と違ってメンタルが豆腐なので」


 ニートンは姉ニートンと一体化してから、ちょっと二重人格気味。姉の人格が強い時は口調が変わる。元々はひとつだったから、元に戻っただけだって言うけど。7年も生き別れていたのだ、人格としては別モノになっているのでは無いかな?妹ニートンは100億年生き別れてたと言ってたけど、やはり駄ボラだった。姉ニートンの視点では7年だった。妹ニートンに言わせると「ループしたのでその分は長いナリ」って事だけど。いくら何でも盛り過ぎ。姉ニートンの方に寄せて一体化してくれないだろうか?姉の方はなんぼかマシなので。


「んー、やっぱり姉妹に分割した方がいいみたいだね。私、マスターの唯一の近衛騎士だしな」

「それは、この輪廻が終わったら、ループして元に戻る約束なんでしょ?」

「そうなんだけどね?そういうのはロックな生き様じゃないでしょ?」

「確かに!」


 姉ニートンは、私のロック師匠でもある。他のポンコツ共と違って、刹那の瞬間に賭ける、ロック魂を理解している。一昨日来やがれてって言われて、ほんとに一昨日に行っちゃえるからなー、ニャア姉ちゃんは。最近も、1万2千年前に行って歴史を改竄して来たし。あいつは、敬愛する姉だけども、ロックが分かってない。


「だったら、この任務が終わったら。姉妹に分かれて、妹の方を異世界に送ってよ」

「いやダメだよ。一体化しているうちに私の魂を同期させておくから。今まで妹に好き勝手させ過ぎた。今回の任務でロック魂を思い出せてやるよ!」

「かっこいい」

「また生き別れるけど、魂はいつでも繋がっているからね。何の不安もない」

「かっこいい!」

「そうかな?ちょっとあれじゃない?ミーナちゃんの周りがポンコツ過ぎるんじゃないの?」

「あー、相対的に評価が上がってしまっているかも知れない」

「でしょ?」


 刹那に生きるロックンローラーとしては、今回の任務は実に遺憾なのだ。

 だって、大昔に失われたホワイトブックを、失われる前に奪取して、偽物と入れ替えて来る任務なのだから。そういう事するから、大昔に失われたんでしょ?バカじゃないの?


「どうにもねー。テンプレ過ぎて、この任務嫌なんだよねー」

「まあまあ、基本のスリーコードとペンタトニックスケールを否定するようなもんだよ」

「確かに!」


 ホワイトブックとはブラックブックと対になるもの。古代語で書かれたブラックブックの現代語訳版なのです。

 ちなみに、ブラックブックの翻訳には国家予算が付いたのですが。私からは取り上げられてしまいました。国家機密だから当然ですね。これでもうアールシリーズのROMに焼かれたプログラムは永遠の謎ですねー。もちろん奪取したホワイトブックは決して読んではいけない約束です。ニャア姉ちゃんではなく、私の方に依頼が来たのは当然ですね。ニャア姉ちゃんには、この任務について知らされてもいません。


 ふぁおーん!ふぁおーん!


「え?うそ?侵入がバレちゃった!?逃げよう、それもタイムリープで逃げよう」

「うん」


 半日後に時をかける魔法で逃げます。逃げる時は、これが一番確実。同じ魔法が使えるのは、おそらく私とニャア姉ちゃんだけなので、追うことは困難。特に過去に逃げた場合は不可能と言ってもいい。過去に逃げるのはロックじゃないので未来に逃げたけどね。

 もし他にも時をかける魔法使いが居たら、きっと時空はぐちゃぐちゃになっているはず。それはミクルちゃんの超時空観測でも発見されていないので、私達以外のタイムリーパーは居ない、そういう推定です。ま、油断はならぬけどね。


 半日後に飛んだ私達は、ターゲットである神社の境内で参拝客に紛れています。


「おい、持ち出し不可の図書が一冊盗まれたらしいぞ」

「え?そんなんあるん?」

「白い聖書だかが、白黒の薄い本に差し替えられたらしい」

「なんじゃそれ」


 機密事項がダダ漏れですよ。こんなんだから盗まれるのでは。さっきの警報は私達外の賊の侵入を検知したものでしたか。


「白と黒というから、パンイチ教の関与を疑ってたけど。まさか、ほんとに?」

「んー。パンイチ教の犯行に見せたい誰かの仕業でしょ?」

「なるほど。その方が筋が通っているね」


 さて、どうするのか?パンイチ教を貶めたい勢力、そして現代でブラックブックを盗み出そうとしてた教皇、ふむふむー?繋がらないかー。


「よし。この時代の教皇を問い詰めよう」

「え?どんな根拠で」

「皇帝から聞いたでしょ。この時代の教皇は後に汚職で捕まるって」

「だからって、まだ立件もされてないのに」

「多少の後先は歴史の修復力でどうにでもなる。何度もループした実績で知っている」

「実績があるなら、それでいきましょう」


 治癒魔法を使ったグロい拷問で尋問しました。

 この時代の教皇は、ホワイトブックは盗まれた事にして、闇市場で売るつもりだったそう。なんともチンケな悪事を思いつくものです。


 余談だけど、この教皇の汚職事件がきっかけとなって、魔女教の教義はより尖ったものになった。

 無能に権力を与えるな、無能にはタダメシを食わせて飼い殺せ、と。

 1万年経って、それが丸くなっていって、今の夢の国みたいな植民地政策となった。多様性は認めるが、実力至上主義。そういう国家になっていったのです。

 ホワイトブックは、もちろん没収しました。教皇の処刑はしませんでした。後に汚職事件で断罪されないといけないし、ホワイトブックは謎の消失をしないといけないので。

 この時はまだ盗人を前世まで遡って処刑する法律が無かったので、1万年後にこの教皇の遺伝子が再現してしまったのでしょうね。ブラックブック盗難を企てた教皇に。


 没収したホワイトブックは約束通り一切読まずに、皇帝陛下に渡しました。「ほんとに読まなかったの?なんだつまらん」とか言われましたけど。そういうことは姉に期待して欲しい。読むだけじゃなくてコピー取るからきっと。


「よくやった。さすがは白い方の魔女である」

「あのーそれは不名誉な称号なのではー?」

「いや。白と黒の構造というのは、魔女教も女神教も根源は同一なのである」

「え!?そんなの神話にも聖書にも書いてない」

「いいかい。ニャアが黒なら、ミーナは白である。決して対立はせず、しかし馴れ合いにはならず。これからも帝国を陰で支えておくれ」

「のじゃー!」

「白と黒だけでは足りないのが、黄色のシマシマさんである。それはニートンとタオルに他ならぬ。ニャアとミーナを支えておくれ」

「はっ!心に刻みました」


 任務を終えた後で、ニートンをふたつに分ける事にしました。

 期限切れのこややし製薬ではなく、ミクルちゃんの作った座薬型ナノマシーンと、私の魔法を組み合わせます。姉ニートンの推測では、ふたつに別れた瞬間に、姉の方は異世界に還るそうです。

 平準化して分割するようにナノマシーンは調整してあります。それはニートン姉妹の希望です。これで、ダメ騎士が少しはロックンローラーになりますように!


 事故を防ぐために、座薬はジョンが入れました。


「ワタクシとしては、入れられる方がいいのですけど」

「それは姉ちゃんが帰ってきたら頼んでやるから、早くやれ」

「あのー、あなたなんでそんなにワタクシに厳しいですの?」


 ジョンは、おもらし王女時代の記憶を完全に失っている。ミクルちゃんの診察によると、シナプスレベルで消滅しているそうだ。なので、私と争った事も記憶に無い。お陰で、おもらしのトラウマも無い。トラウマ抱えたままで同居出来るワケないもんね。なんか私が小姑みたいになってるけど。むう。

 てかこいつドエムさんのクセに私がいじめてもちっとも喜ばない。ぐぬう。こういうところでもニャア姉ちゃんには私は遠く及ばない。


「みゃー!」


 おしりのあなに大きめの座薬をねじ込まれたニートンは、ぐったりとしてしまった。まさか死んじゃった?どうしよう、お姉ちゃんに言い訳出来ない。留守中の世話を頼まれたインコを殺しちゃったようなものだわ。まずいかも。


「はっ!新しい旋律が降りて来た!戦慄の旋律!」

「お?」


 下半身丸出しでギターを構えたニートンは、それから半日以上、スタジオに籠もってました。ずっとおしり丸出しで。

 妹ニートンとも、姉ニートンとも違う、第三のニートンな気がします。少なくともロックへの情熱は失っていないようなので、ま、いっか。座布団没収を恐れぬダジャレだけは相変わらず。


 任務から帰って来たニャア姉ちゃんに、この報告書を見せたら、珍しくダメ出しされました。


「ロックのあるべき姿なんてものを決めつけちょる、クサ生えるわー」


 確かに!

 やっぱり、一番イカれたロックンローラーはニャア姉ちゃんだね。

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