7-6. はじめてのおつかい(潜入調査)
諜報機関としての、はじめてのおつかいは、とある国の王宮への潜入調査です。
戦災孤児の姉妹を装って、タオルくんと二人で来ました。他のメンバーはお留守番です。
大抵の大人は小さい子供には甘いので、6歳幼女である私達にとっては実にちょろいですよ。簡単にメイド見習いとして潜入出来ました。
ここがどこなのかもよく分かってませんけどね。公共の交通機関を乗り継いで、ひと月かけてやって来ました。
目的は王族のスキャンダルを掴むこと。証拠もあればなおよし。別に国際裁判を起こすわけではないので、証拠なんて不要なんですよ。戦争という暴力に訴えるだけなので。やり口はヤクザと一緒ですね。ヤクザなんて、マンガで読んだ事しか知りませんけど。
スキャンダルよりも重要なのは、この国の国力を推し量る事ですかね。クズみたいな土地を切り取っても投下コストに見合ったリターンがありませんから。戦争はお金がかかるのです。こっちの任務は、大人の諜報部隊の人達が市民に紛れ込んでやってます。
魔法幼女の私と、サイボーグ戦士幼女のタオルくん。魔法と科学の両輪で、万全の布陣です。
「ねえ。もう任務達成してないかな?」
「ほじゃーね。この王宮のメイドが全員幼女な件」
この国の王は、まさかのロリーのコンなのでは?ロボコンなら良かったのに。
カワサキ帝国なら前世を7代まで遡って即射殺の重罪です。まあ、ただの子供スキーの可能性もあります。小さい子供に慈悲深いだけなら、お姉様こそそうですし。アレは、育てたら血を吸うつもりだったようですけど。
「この国の王は、まさかのヴァンパイヤなのでは?」
「あり得る」
味見として血を吸われてしまうと、私はともかくサイボーグ戦士のタオルくんはバレるかも?
「いや、ロボじゃないから。概ね生体パーツだから、首を齧られた程度じゃバレない。ちゃんとケロシンじゃなくて血が流れてるよ。心臓はビス止めだけど」
「いずれにしても、あんなおっさんに齧られるのは嫌じゃわ」
私とタオルくんは、ろくにメイドの仕事をせずに、好き勝手に王宮内をうろついています。6歳幼女のやる事なんで、みんな生暖かい目で見守るだけです。まじチョロい。潜入調査が6歳幼女に最適の任務だったとは。中身は、いろいろ変なモノが詰まってますけどね、私達。
ヴァンパイヤといえばお姉様です。見分け方とか、弱点を教えてもらいましょう。
「もしもしー?かーちゃん?今、ちょっとええ?」
お姉様はオールドタイプでチャットには反応が遅いので電話します。
「え?何?なんかあったの?今スグ行こうか?」
「いや、そうじゃない。作戦の邪魔になるから来ないで。ヴァンパイヤの殺し方教えて?」
「は?私はもう廃業したから殺せないわよ」
「いや、そうじゃない。今回のターゲットがヴァンパイヤかも知れんのじゃー」
お姉様によると、こややし製薬の「血ぃ吸うたろかぁ」を好奇心からうっかり飲じゃったそうで。なんと、生涯不変のヴァンパイヤになる魔薬じゃったそうな。魔王ならどうにしかしてくれるかと思って、じいちゃんの養子になったり、自分を分割して魔王を産み出したりしたのじゃとか。
なので、本物のヴァンパイヤの事はよく知らんと。
「あ!そうだ!フェニックスとドラゴンの他人丼を食べさせれば、ヴァンパイヤはニンゲンになるんよね?」
「そうだけど。もう材料がないでしょ。それに、血液が猛毒なのは変わらないから、完全にニンゲンにはならないわよ」
おう、このババア、まだそんな危険生物じゃったんか。
「見分け方はー、そうねー。おしりのあなに杭を打っても死ななければ、ヴァンパイヤか魔女なんじゃないの?」
「その二つを一括りにするのはどうかとー」
「私に分かるのはそれくらい。つらくなったらスグに帰って来なさいよ。無理してまで働けとは言ってない」
「ういっす!ほいじゃねー、またねー」
さて、どうしたもん?
「王のおしりのあなに杭を打ち込みましょう。どうせ戦争すんでしょ?殺しちゃったら逃げよ」
「んー、この国の価値次第では戦争やらんのではー?」
やってしもうた。回りくどいのが嫌いなタオルくんが、国王のおしりのあなに右腕のサブマシンガンを突っ込んで連射してしもうた。
「しまったー。ばっちいわー。この右腕はもう廃棄ね」
「部屋がヒドイことになっちょるげ」
これは緊急ナースコールですよ。ぽちっとな。
「お嬢様何事ですか?」
「わらわも来たのよー」
「ワタクシも来ましたわー!何でもお命じなさってー!おーほっほっほ」
うちのメイド3人がマッハで飛んで来ました。全員来たら、うちの家事誰がやんのよ?ニートンもミーナちゃんも家事能力ゼロよ?洗ってないパンツの山が築かれてしまう。うちは王宮内にあるのだから、異臭騒ぎとか起こしたら国家反逆罪だよ。
そういえばナースコールでなんでメイドが来るんだ。通話機能もつけておくか。通話機能の無いナースコールなんて設計不良じゃったわ。そもそもナースが必要な事態なんてないわ。私の超絶技巧治癒魔法にナースは不要なので。
「あ、じゃあわらわは帰るのである」
キナコだけ、AIを伝送して瞬時に帰りました。空のボディを残して。
「死体が増えたようにしか見えない」
「ちょうどいいのでコレを王の影武者にするナリー」
メイド2人に片付けと偽装工作を任せます。その間に、ちょっと二人で町へ繰り出してみましょう。お掃除魔法に関してはジョンは完璧なのです。カーペットの繊維に染み込んだ血液までキレイに除去してくれます。任せておけば大丈夫。
「やってらんねー。また年貢が増えたぜ」
「だなー。自分らが食う分も残らねー。もう死んだわー」
「ああ、カワサキ帝国が侵略してくんねーかなー」
「それなー。亡命する度胸とか俺等ねーし」
いい大人が平日の昼間っから路上で飲んだくれてますよ。農民みたいなので、もう今日の仕事は終わってるのかな?
「おう、おめえらも大変みたいだな。俺等漁師はまだ船の上でこっそり食えるけどよ」
「なんで、漁師がここに?港町からはだいぶあるぞここ」
「王宮掃除のバイトだよ。そうでもしないと食っていけねー」
「ちょっと、おっちゃん達、今年の収穫量と水揚げ量を教えてちょうだい」
「あ?子供が何を?」
「子供でもいいよー、俺の話を聞いてくれー」
おっちゃん達は、ほぼシラフでした。酔っ払うほど飲んだくれる金もないかー。
タオルくんが色々聞き出して確認した情報によると。この国の食料自給率はなんと推定240%
フェルミ推定で算出したとか言ってます。ナニソレ?
「十分に植民地化する価値のある土地って事よ。蒸留酒や増醸酒の製造も盛んだし、技術も高いみたいよ。こいつらの飲んでる安酒ですら、結構な代物よ」
タオルくんは日本に居た時は造り酒屋の娘でしたね。路上の飲んだくれの安酒から、国家の経済規模が推定出来るなんて。
生産量からすると裕福な国のはずなのに、生産者はこんなにやつれている。この国は腐敗しきった封建社会の模様。これなら帝国の植民地になった方が民も喜ぶでしょ。
「ほいじゃー、もうやっちゃう?」
「そうね、ひと暴れしようかしらね」
「おっちゃん達ー。すぐに逃げた方がええよ」
「え?なんだ何が始まるんだ?」
「お、おい、もしかしてこの子、あれじゃないか?」
「まさか、妖怪ミツバチアハトか!?確かに、黄色と黒のシマシマの腹巻きしてんぞ」
「だとすると、もうひとりは、暁の魔女なんじゃあ?」
「よし!港町までお前らも来い!この辺りは焦土と化すぞ!」
「お、おう!俺は畑のみんなに声かけてくるぜ!」
なんですかね?妖怪ミツバチアハトって。変な伝わり方してない?あと暁の魔女は国外の方が知れ渡ってるんだね?お姉様は過去に一体何をしたの?
あと、この酔っぱらい達の物わかりの良さは、帝国の諜報部員が混ざってるわね?この中の最低でもひとりは多分そう。
「まずは王宮を破壊したい」
「のじゃー!」
私達は、皇帝に「やったるわー」とチャットで一報入れてから、王宮のメイド達をミクルちゃんの手引で避難させてから、やったりました。
「ひゃーはっはっは!あ、弾がスグ無いなるわ」
「幼女の体じゃけね。そんなにでかい弾倉が入るわけない」
「あんたの圧縮魔法を組み合わせたら無限に撃てるんじゃない?」
「いいけど、益々ニンゲンに戻れなくなるよ?」
「ふっ、私は既にヒトであることなど捨てたのだ」
「かっこいい」
チュウニなので、己の肉体に未練も何も無いですねー。黒帽子の魔女に連れ去られてネジにされちゃうよ?いや、惑星ナニガシを単独で破壊しそう。物理で。
「ミクルンミラクル!おしりミサイル!」
「うはっ。どこから撃ってんの?なんでそんなデカい砲弾が出てくるの?」
「圧縮魔法です」
「ねえ?こうなりたいの?」
「お、おう。さすがに怯むわね」
鉄腕アトムもお尻に機関銃を装備してましたけどね。ミラクルミクルンルンは、おしりにキャノン砲装備です。構造と絵面については勝手に想像して下さい。
「えーっと、なんじゃ、なんかカッコいい技名言いたいー。女神ぱんち!!」
「げええ!食らったものは即死するという伝説の女神級スーパーブロー!」
どぐわしゃあああ!!
ぐう、我のネーミングセンスの無さよ。結局、魔力で吹っ飛ばした。じゃって、私の肉体は貧弱で貧相な幼女なので、殴ってもこっちが骨折しかねない。
他にも魔王スピニング・トーホールドだの適当に言いながら、魔法で隕石を落としたりした。
王宮を中心とした首都全体が焦土と化しました。
「やり過ぎたかな?」
「いや十分であろう。よくやった。観光するなり好きにするが良い」
「のじゃー!」
軍隊も引き連れずに皇帝が一人でやって来ました。こうなるの分かってたんだね。あと、こいつもやっぱ、ヒトではなさそう。戦地に一人で乗り込んで来る国家元首とか、戦国武将でも有り得ないわー。見た目は幼女なんだけどなー。
「あ、おこづかい頂戴。この国の通貨で」
「ほい、100万円」
「やったー!あざますっ!」
大阪のノリで100円玉を渡されたのではなく、ほんとに100万円のお駄賃でした。
「これとは別に、お賃金貰えるんよね?」
「ほうじゃよ。もう遊んで暮らしてもいいのでは?」
はじめてのおつかいは大成功。




