6-17. スキルトランスファー
「えーっと、イメージとしてはマナがプラスで、マイナスはカナ。マナとカナは反発し合うので、カナを2つに分ける事で反発作用を低減化した。ここまではいいカナ?」
「めぐみんとゆんゆんは仲良しってこと?」
「何を言っているのカナ?」
「ほいじゃあ、カヲルとシンジじゃとー」
「シンジとカヲルじゃないカナ!」
「前後はどうでもいい」
「重要でしょ!」
「そこ本題じゃないじゃろ?魔王にいちゃんはマナカナを吸引する機能があった?」
「マナカナが大気を循環するのを阻害する機能ならあったカナ」
「魔王はマナカナのキラー因子なんじゃろか」
「そうカナ?」
なるほど。さっぱり分からん。反発するのはマイナス同士、プラス同士なのでは?それは磁石だっけ?姉ちゃんも文系っぽいなあ。というか腐っている。
魔界で魔王兄を破壊した時に結界が復活したのは、ちゃんと因果関係があるっぽい事は分かった。魔王ロイドにはマナカナ吸引回路があったわけではないけど、魔法を阻害する存在ではあった。魔界に入る時に魔王兄が同伴していれば入れたのは、認証の問題ではなく結界を止めていたから?
なるほど!さっぱり分からん!
「ほいでー、今のジョン姉ちゃんは、どういう存在なの?」
「んー?ニュートラルなカナになった?わざわざ分けたのが元のひとつに戻ったのに、姉さんと反発し合わないからね。ニセ魔王が雑味を持って行ったのカナ?ところで、何で私がジョンなのカナ?」
「ポチでもいいけど」
「え?私は犬扱いなの!?」
「猫はアマテラスがおるじゃろ?」
「どういう事カナー?」
「カナカナうっせえなあ」
私達は、村のライブハウスの隣に家を建てて、そこに引っ越してきた。ジョン姉ちゃんも同居しているし、お姉様も同居している。ママゴンお姉様の復活だ。マナとカナの反発作用だかは一切観測出来ない。ジョンがデタラメを語っているか、本人もデタラメを信じ込まされているかするのかも知れないけど。
原理も仕様も不明なれど、マナカナの中心っぽいお姉様の近くが、魔法幼女の安全圏と推定した次第。
「パンツは洗濯しろって言ってるでしょ?私が反発素材に見えたのなら、妹をうっかり弟にしちゃったからよ。こややし製薬の魔薬が消費期限切れで、変な副反応が出ちゃってね」
「え?消費期限?あ、そっかー、謎の年号で書いてあったから分からんかった」
この世界には統一された年号は存在しない。帝国なんてしょっちょう元号をかえてる。直近は国王の退位した時、その前は国王暗殺未遂の時。私がドラゴンを退治した時は、元号がニャアになってた。
魔暦に統一してくんないかなあ?私が惑星全土を支配すれば、それも可能?いやいや、そんなんやらんよ。
今となっては、もうどうでもいいけど、一部の魔薬の効果がオカシイのは、消費期限切れじゃからかー。
「はあ、もういいや。誰に何を聞いても事実とは限らない。個人の主観による観測の結果と推測だけ聞いても正確な仕様にも設計にも辿り着けぬ。私は、名探偵じゃなくて、システムエンジニアじゃけ。私自身が観測して検証した事実がないと、どうもならん」
こういう時は、お姉様のおはぎじゃなくて、じいちゃんの作るハードボイルドでヘビーデューティーなおやつだ。ウインナコーヒーを飲んで、勝者を目指そう。なんで、ウイーン風コーヒーが、この世界にあるのかも謎ね?じじいの喫茶店に行くよ。
ぶっひょー!へいへい!ぶっひょー!へーい!
「ニャアは今日も、ご機嫌だな」
「マスター、いつものやつ」
「お前は、いつも違うもの頼むだろ。いつもので分かるか。まあいいや、これが俺のいつものやつだ」
豚汁はおやつに入りますか?
ただの残りものじゃん。だがしかし、うまい。
「じいちゃんが、お姉様を拾った時の話を知りたい」
「ああ、あれなあ。俺を滅ぼしたヴァンパイアが、戦災孤児のフリして村にやって来たからな。俺が面倒みないと危なくて仕方ないだろ」
「へ?滅ぼした?なにがなにをいつどのようにしてなんのためにどこで?」
「知らんよ。多分、おもしろ半分だろ?魔王が死んだら輪廻転生するって本当?って言って、襲ってきやがった」
「はい?先々代の魔王って、じいちゃん?」
「あ?そうだぞ。当代はお前なんだってな」
おおう。じじいのクセに熊を素手で倒したとか聞いたけど。元魔王かー。そうかー。
「言っとくけど、今の俺はただのニンゲンだぞ。ドラゴンの肉食ったら、ちょっとだけ若返ったけどな」
「ニンゲンも鍛えれば、熊殺しになれるんじゃねー」
「お前も、少しは鍛えろよ?貧弱なまま年寄りになるとツライぞ?」
「ほじゃねー」
ゲーム内の仮想現実とはいえ、魔法老婆のニャアは酷かった。歩くだけで膝と腰に激痛が走ってた。
えんじょうしたらー、ちゃんすだぜー、ひけしをすればー、おてがらだー、しっぱいしたらー、けいやくきってにげればいいー
「何を歌っているでござるか?」
「即興で作詞作曲したオリジナルロックンロール」
「ロックではない、とはいいきれないナリ」
「ロックに制約なんかないのじゃ」
お風呂に来たら、ニートンとタオルくんも居たよ。あ、ミーナちゃんも来た。お風呂は一日何度入ってもいいからね。暇になったら、ここに来るよ。源泉かけ流しの天然温泉に入り放題なんて、まじ貴族なのでは?
かーいかいかいかいーのよー、あしりのあなにー、ぐるぐるどーん!
「ねえ、あそこで歌ってるお姉ちゃんみたいなのって、まさかと思うけど」
「いや、まさか、そんなバハマ」
貧相な幼女姉妹がお湯につかってデュエットで歌っているのだけど。
「ちょっとあんた達見ない顔ね、何処中?」
「ドコチュウ?なんじゃそれ。わしはパンクレディーのミンメイじゃ!」
「わたしは、ケンケン。パンクレディーのセンターよ」
「この、座布団没収を恐れぬノリ、まるでニャア殿ナリ」
「コンビなのにセンターって何よ?この押しの強さはまるでミーナちゃん」
うーん。やっぱり異世界の孤児院シスターズじゃん。私とミーナちゃんの異世界同位体。
「私、あんなのじゃないでしょ?」
「いや、あんなの」
「ぶひぃ」
異世界で血が繋がったせいで、ミーナちゃんもマヌケになってきたからね。
「あら?あんた達まだこの村に居たの?」
「は?さっき、そこの公園に来たばっかじゃけど?」
何があったのか知らんけど。どうやら私とミーナちゃんが転生する前の、孤児院の姉妹が転移して来たらしい。いや、転生した後なの?分からんちん。
そこに幼女を飼育したがりのお姉様までやって来てしまった。
「よーし、お前らちょっと目をつぶれ」
「へ?なにこのババア」
「ちょっと待て。なんで6歳幼女を見てババアなどと?」
「わしは天然の幼女じゃが。お前はニセモノ。さっきの歌で分かった」
なんか知らんが、こいつらを孤児院に返しておかないと、お姉様に血を吸われてしまう。何よりも異世界を跨いたタイムパラドックスの発生は厄介。あと、なんかムカつく。私に似て余計な事だけ鋭い。
ちんからほい!
っとね。
今の事象には何の意味もあって欲しくはないなあ。もう時をかける名探偵はやりたくない。
「どこに送ったの?ちゃんと元居た場所に返した?あと私は、もうヴァンパイアじゃないから血は吸わないわよ」
「なんで、このババアは私の心が読めるの…」
「ぺらぺらと喋ってるでござるよ?魔王の妄想が産み出したという設定が現実に侵食しているナリ?」
「ああ、あいつも本音を垂れ流すヤツじゃったっけ?」
誰がババアなのか?と問い詰められる事は無かった。
「あんたもババアなんでしょ?年齢詐称しているのは一緒じゃないの」
「10万歳越えから比べれば誤差みたいなもんじゃろ」
「私は6歳幼女のフリなんかしてないし」
「これは魔力袋の都合であって、別に好き好んで幼女をしてるわけではないんじゃけ」
「あ?そう?じゃあ年齢相応の魔法老婆にしてやりましょうか?」
「あ、いや。すみません。皿洗いでも何でもするので見逃して下さい」
「あんたが皿を洗うと割る方が多いからいいわよ。なんか仕事すれば?前から言ってるけども」
「ほじゃのー」
お金ならあるんよ。ヨコハマで投資した株とか、マチダの家電量販店の利益とか。もうヤバい額のお金がある。でも、あれは不労所得だしね。カワサキ帝国の流儀で働いて見るのもいいかもね?魔法が無効化される事態だって起きたのだ、いつ不老不死の能力が消えても不思議じゃない。カサカサのボロボロの魔法老婆にはなりたくないし、体を鍛えるついでに何か仕事をしよう。
そうだ、働こう!