6-16. 失注
「ふむん。確かに女将にソックリでござるな?双子ナリ?」
「女将よりも年上なんじゃない?見た目だけとはいえ年上の方が妹とか」
「つくづく妙な姉妹よねー、私達」
「ところで、元国王と言うのも呼びづらいでござるな?」
「あー、うん。カナっていうのは元女神のお姉さんが勝手につけたヤツだしなあ?」
「女将の妹か、元国王でいいんじゃないの?」
「いやあ、それだと私もそうじゃん?」
「おお。そう言えば、ニャア殿はヨコハマで暫定国王でござったか?」
「じゃあ、ニセニャアじゃない」
「いや、それはあんまりだよ?これはアンドロイドじゃないし。多分」
「魔王の妹」
「私が当代の魔王じゃからして、時空が歪み過ぎ」
「キャラ付けが足りないナリ。一人称が僕なのは僕と被ってるナリ」
「ナリこそ拙者と被ってるナリ」
「インチキ関西弁でも喋ったら?そしたらオオサカって呼んであげる」
「カンサイ弁って何カナ?」
「わいはおおさかべんしゃべれまんがなやで」
「インチキが過ぎるよ」
「ちょんまげはえーる、でも飲んだらどうでござろう?」
「ええ?やだよ?乙女にちょんまげー!?」
「乙女ってトシじゃろうか?」
「お姉ちゃん、それはブーメランでしょ」
「トシといえば、なんでここには6歳くらいの幼女しか居ないのカナ?」
「わらわはアンドロイドでおじゃる。幼女ではありますん」
「え?この子アンドロイドなの?魔王兄さんみたいな有機素体なの?お風呂入って平気なの?」
「あれは表面だけじゃろ?中身は珪素生物じゃった。私は知ってるんだ。粉々に破壊せたから」
「僕達アールシリーズが架装するボディのストックだよ。中身もニンゲンそっくり」
「異なるハードウェアによく移植できたわね?」
「サターンのゲームがスーファミで動くようなもんじゃろ」
「それは不可能なのではー」
「マシン言語レベルで変換したので。やろうと思えばヒトのゴーストもゼロイチに変換できます」
「まじかー。そう考えると私もアンドロイドなのでは?」
「あー、女神と同じ素体がどうとか言ってたね?」
「でも僕の製造者は、ただのゼロイチのデータにしかなりませんでした。魂は宿らなかった」
「グフの部屋が空っぽだったナリ?コクピットと言うべきでござろうか?」
「どうしようもないダジャレを言うと、ニャアみたいよ」
「僕の年齢だけど、27歳くらいにならないかな?」
「年齢は自己申告制じゃないわよ」
「いや?そうでもござらぬよ」
「僕のDNAスキャナーを使えば年齢など丸わかりナリ。元国王は54歳ナリ」
「え!?うそ!?アラサーですらない!」
「うそナリ」
「このアンドロイド嘘ついたよ!?」
「魔王にいちゃんも嘘は平然とついておったじゃろ」
「あ、そうか?でもあのAIは元々僕から分離した魂だし」
「またなんか妙な設定を持ち出して来たわね」
「設定っていわれても、僕には事実なんだけど」
さすがにのぼせそう。誰が何言ってるのかも、よく分からないし。わらわロボが「おしっこもる」とか言い出したので、お風呂から上がる事にした。「お湯の中でしてもバレないナリ」とか言ったのは誰?ナリって言えば欺けると思わないことよミーナちゃん。アンドロイドの漏らすおしっこはバイオハザードの危険性があるからダメよ。もちろん普通のおしっこもダメよ?
「久しぶりに喫茶店に行こ」
「え?じいちゃん山から降りてきてんの?」
「あれこそ兄さんって感じだけどね。見た目は若者だから」
じいちゃんはドラゴン肉を食べて若返ったからね。見た目と中身が違う。
喫茶店には、以前うじゃうじゃタムロしてたハルキストモドキは、一匹も居なかった。死んだの?幻だったのかも知れない。そもそも、この世界には村上春樹の小説は無いし、ノーベル賞だって無い。あいつら異世界転生者だったのかな?どうでもいいや。異世界転生者はへんてこなのしか居ない。その筆頭が私。
「ムラカミナニガシの小説なら、そこの本棚にあるから、好きに読んでいいぞ。客が置いてった」
「へ?じいちゃん読んだの?」
「いや、俺には意味が分からん。芋畑の娘達が、コレは聖書だ!とか騒いでたけどな」
うーん?この黒と白の装丁がソレっぽいけど、赤と緑じゃなかったけ?ほー、どれどれー。
トドロキの森 ムラカミハルカ
「あ、うーん。そういうこと」
何故にトドロキの森なのかは不明だけど、これはパンイチ教の巫女、メガネおさげの腐女子が書いてたやつだわ。確かにパンツの騎士にとっては聖書でしょうよ。中身は、掛け算がいっぱいだった。これは、じいちゃんには理解不能だろうね。薄い本だったけど、私の好みではなかったので最後までは読めなかったよ。パンイチ教を始めた世界に男は居なかったんだけどなー。なんでBLなのかなあ。
また余計なパンドラの箱が開きそうだったので、私はその薄い本をそっと閉じた。
「まさかじいさんも実は女子だったりするでござる?」
「なんだそりゃ?そんなことあるか?あるんだろうなあ。俺も、まさか若返るとは思わなかったもんな」
「いや、ニンゲンの性転換は無理っぽいよ。他の生物はともかくね」
「あれ?はえーるとかもげーるとかいう魔薬あったでしょ?」
「何故ソレを知っておるの?隠しておいたのに。まあ、それはいいけど。はえないしもげないんよ」
「じゃあ、はげなおーるも?効かないでござる?」
「うん、あれは治癒魔法でも治せない不治の病じゃけ。呪いの一種かも知れないね」
「ひどいんだよ、僕で実験したんだよ。はえーるともげーる。鬼だよこの妹。おにーちゃんだよ」
「おい、そのはげなおーるって、この前俺に渡した座薬か?」
「うん。じいちゃんはスキンヘッドのままでいいよ。まるで新宿の喫茶店のマスターみたいじゃし」
「もさもさの白髪がスキンヘッドになったのは、ニャア殿の仕業でござったかー」
「まさに鬼ね。あんたこそちんこ生やしてオニーちゃんになったら?」
「いや、これはこれで洗うのも乾かすのも楽でいいんだぞ」
「じいちゃんはニャア殿に甘過ぎでござる」
元国王は生えてなかったし、もげてもいなかった。おにーちゃん要素は元から声質くらいだったのだ。すっとんとんだし。魔薬で変わるのは声質くらいだった。もともと元国王は、お姉様と双子の姉妹に見えてたはずなのだ。おにーちゃんに見えてたのは周囲の思い込みだね。
「なんだ、やっぱりそんなことか。私は最初からこいつがメスだと思ってた」
「こいつとかメスとか、姉に対してどうなのカナ?」
「私は、あんたを姉とは認めてないわよ」
「拙者もナリ」
「私は、お姉ちゃんのお姉ちゃんなら、まあお姉ちゃんかなー?」
「ま、まあ、なんでもいいんだけど」
「僕のDNAスキャナーによると、元国王とニャアお嬢様、ミーナお嬢様は血縁ナリ」
「いつの間にスキャンしたの?」
「さっきお風呂で」
「まさか、ミーナちゃんもおもらしてたの?」
「もって何かな?お姉ちゃん」
「湯船の外じゃよ?」
「それもどうかと」
「別に排泄物でなくても、老廃物で十分ナリ」
「へえ、これは本当にスキャンしたようね?じゃあ、私とタオルとニャアは?」
「それも血縁ナリ」
「あれ?タオルくんとニートンと元国王は?」
「血縁では無いナリ」
「どういうこと?」
「生物学的な血縁ではないナリ」
「じゃあDNA関係ないじゃん」
「なんだ、またデタラメか。まあいいわよ。言っている事には妙に納得ができるもの」
「でござるなー」
DNAスキャナーとか言っているけど、今のミクルちゃんは100パーセント生体ボディなので、何処にもそんなもの内蔵してるはずがないんよ。コンタクトレンズも嵌めてないしね。お風呂にアヤシイ機械なんか持ち込んだら出禁になるから手ぶらだったし。全部、出任せって事よ。ただし、タオルくんが言うように妙に納得できる話ではある。別の方法で何かを調べているのかもね。
いろいろと謎はあるけどね。追求はしない。もうどうでもいい。事実を知ればいいとは限らない。
じいちゃんがアルプスの氷で作ったかき氷はすごく高かったけど美味しかった。世はなべて事もなし。




