6-15. 事実だけが設計書に残されているとは限らない
「やっぱり、おかしい」
私は、これまでの日記を読み返して、矛盾してる部分を見つけた。
全体を通して少し不思議なSFもどきなので、何もかもがオカシイのだけどね?未来と過去と古代と異世界まで行き来して、いろいろ辻褄合わせをやったのに、それでも破綻しているポイントがある。
お姉様だ。
あれが究極の特異点である気がする。特にシナリオに関与してこないから見誤った。彼女の周りだけいつも何かがオカシイ。例えば、ヨコハマで体調を崩したボンジリとアマテラスをお姉様に預けたら「以前通り元気だ」と答えた。でも、そんなはずはない。あの時はまだニセニャアが村に居て、マナカナを吸引していたのだ。私が、アレを破壊するタイミングを間違えたから。
次にオカシイのは魔王だけど。アレはアホじゃからして。まあ、いいよ。
国王もオカシイんよねー?なんで突然引退せたの?
「ただまー」
「おかえり。ふかし芋食べる?」
私は、村のライブハウスに居るお姉様を訪ねた。実感で確認してみようと思って。
「かーちゃーん」
「なぁに?どうしたの急に甘えて」
お姉様は概念としての姉であって、私の里親なので、かーちゃんだ。こういう甘え方は、最近はあまりしなかったけども。腰の辺りにぎゅっと抱きついて、額を猫のように擦り付ける。
やっぱり落ち着くな。本当に、私の母なのでは?
そして、お腹の仮想風車をギュインギュイン回すと、マナが大量に体内に入って来るのが実感できる。
マナとカナは観測不能なのだとアールくんは断言した。
マナカナ吸引回路やマナカナストレージは、古代ロボのリバースエンジニアリングによって簡単に複製が出来たのだけど。アールくんにも構造の意味は一切理解出来ないのだという。触媒を多元的に組み合わせただけで、現代人類でも製造が可能な程度の代物なんだそうだ。触媒の事すら私には分からないけどね?私はシステムエンジニアだけど理系ではないので、化学もさっぱりなのだ。
そんな不思議なマナとカナなのだけど。
私は、確信した。お姉様がマナそのものなのだ、と。
「お姉様は、本当は何歳なの?」
「ふふっ。一体何を勘づいたの?世の中には知らない方がいいこともあるのよ?」
「お、おう…」
思ってた以上に、コワイ反応だったわ。
「リーザちゃんにも会ったんでしょ?何も言ってなかった?」
そもそも何故その話を知っているのか?異世界の二代目女神の事は、お姉様には何も話していない。私のブログだって「ライブハウスの女将は得体の知れない事件には関わらないの」と言って、読む権限を拒否されている。
「ミラちゃんは、いつも本当の事を言うとは限らないからね。私に対してはともかく」
元女神のお姉さんの事も、思えば何も説明していないのに「あんたは元女神なのよね」なんて言ってた。いろいろと脇が甘くない?このババア。
「国王ちゃん、いや元国王があんたに話があるって、さっきから待ってるわよ」
「ういっす。お芋さんよりも、おはぎおにゃしゃす」
「いいよ」
ほいでー?元国王の姉ちゃんはどこかなー?お、おった。ここに来た時の、私のいつもの席だ。
「お姉ちゃん。元気じゃった?」
「な、なんで姉ちゃんと呼ぶのかなー?うひぃ?」
挙動不審が過ぎる。よくこんなので政治家やってたな。国王として外交もやってたんでしょ?
「うーん?そじゃーねえ。けつだせよ」
「え?ええー?」
私は、元国王を押さえつけると、パンツをずるっと下ろして、おしりのあなに座薬をにゅるんっとインストールした。午後2時くらいの、この時間帯はシスターと巫女ちゃんくらいしか他の客は居ないし、店員はみんなパンツの騎士だし、これくらいは倫理的にも問題ないでしょ。
「あっーー!」
やっぱりなあ。元国王は、ちゃんとお姉ちゃんにトランスフォームした。というか、本来の姿に戻った。だって、私が入れた座薬は、こややし製薬の魔薬「元にもどーるー」だから。
「姉ちゃんがカナかー」
「よく分かったね」
カマをかけるまでも無く正直に自供しておる。やっぱ、これは元国王そのままじゃないね?
「はあ。僕もニャアちゃんには聞きたいことがあったんだ。魔王兄さんが壊れてた事に、いつ気付いたのさ?いや、どうやって?アレを処刑したのはだからなんでしょ?」
「じゃって、壊したの私だし。アレは、姉ちゃんの暗殺をしようとしてたから処刑した」
「え?あぁ、そういう?魔王兄さんに分け与えた自我が戻ってきたタイミングが、不自然だったのはそういうこと?」
「ふーん?そういう事かあ?魔王の自我が戻ったせいで、腹芸が出来なくなって、国王を引退したんだね。魔王にいちゃんは腹芸が下手じゃったからね」
「そういう事。よく分かったね。僕がカナで、マナは姉さんだよ。どういう存在なのかは僕自身にも分からないけど」
マチダの家電量販店で押収した魔薬には、アールくんの作った一体化ナノマシンと同じような「あたいとあんたは一心同体になーる」もあったし「魂をふたつにわけーるー」もあった。しかし、このネーミングセンスよ。商品企画会議の様子が見てみたいわ。
そして、やっべーのが「ちんこはえーる」だよ。姉ちゃんには生えてなかったけど。もげたのかな?
これらを並べて、お姉様の特異点ぶりを重ね合わせたら、なんとなく未来探偵コンナア的に、あれれーって閃いた。
「不思議じゃったのが。あれだけオスを寄せ付けないお姉様に弟が居たことと、それを私から遠ざけようともしなかったこと」
「ははっ。僕はほんとはお姉ちゃんだし、魔王兄さんはアンドロイドだったからね」
完全に見誤っていた。魔界でミクルンルンが撲殺した方が、魔王兄ちゃんだったのだ。
ヨミランドで処刑した方が、ニセ魔王。そりゃそうだ、小賢しい悪事を働いたり、無銭飲食したり、国王を暗殺しようとしたり、ニセ魔王だからやった事。本物の方は既に破壊されて、カナの中に還っていたのだ。
元々は、国王と魔王はカナとして一体だったけど、「魂をふたつにわけーるー」を服用して、ダメな部分だけを魔王ロイドのAIにしたのだろうね。それだと兄の魔王の方が後に出来た気もするけどね?
カナは、お姉様が「魂をふたつにわけーるー」を服用して産んだのだろうね。違う手順なのかも知れないし、動機も不明なのだけど。
「ほいじゃあ、あのゲームの中の魔王はどっちなんじゃろか?」
「まあ、兄さんはただのデータだからね?ゲームのキャラになってるそうだけども、元々そんなようなもんだから」
つまり、私は兄を手にかけたけども元の形に戻しただけで、滅ぼしてはいないし、ゲームの中にいるのも、ただのデータなのだ。
「さ、これで納得した?言っておくけど、事実だけが真実ではないんだよ」
「また、そげな哲学的なことを言うー」
「あ、ごめん。実のところ僕にも分からないんだよ。31年前に産まれた事だけが事実。あれ?数字合ってるかな?え?僕もうアラサーなの!?いつの間にか永遠の27歳の姉さんと兄さんを追い越している!?」
設計書に書いてある事が実装通りとは限らない的なー?違うか?あれはマジで勘弁して欲しい。リプレース案件の失敗原因のあるあるだよ。
まあいいや。今日もおはぎはオイシイので、世はなべて事もなしよ。
姉ちゃんの年齢については、私にも分からないよ。数字が苦手なので。システムエンジニアなのにね。
「食べ終わったら、お風呂行こ?」
「そうだね。妹と初めての混浴だね。ふひっ」
「ほんまに、お姉ちゃんなんじゃろね?」