6-8. クローニング
「ソレは何?」
「ゲーム機だよ。最新型にも無いVR型だよ」
古代遺跡っぽいなあ、ソレ。古代ロボもあるしね、此処の地下には。今回の事件の元凶を見つけたかも。
「へえ?どんなん?」
「まず、この全身タイツを着て、カメラで撮影すると、自分そっくりのキャラが作られるんだよ」
「妹に何着せようとしてんの?」
「あ、はい。すみません」
でもおもしろそうだったので、バカ兄貴の目を潰してから、全身タイツを着て、私そっくりのキャラを作った。このキャラ、指紋とか瞳の虹彩まで一緒なのでは?それくらいに完全コピーだわー。なに?さっきから、めがーめがーって、うるさいなあ。
「あの、治癒魔法で治せるからって、目を潰すのはどうだろうか?」
「うるさい。何が研究よ。ゲームに嵌まってるだけじゃないの」
「あ、はい。でも、それはニャアちゃんが言えることかなあ?」
「あ、はい」
ぐう。所詮は兄妹って事よ。私も、この世界で最初に入手したゲームで廃人になってたわ。そういえば、あのゲームのキャラに転生しちゃった横浜出身のシスターはどうなったのかな?こっちのヨコハマじゃなくて、日本の横浜の方ね。希少な転生仲間ではあったけど、ハナモチならなくて好きになれなかったアイツ。
「ところでさ?さっき僕を酔わせて何をする気だったの?」
「ここの地下倉庫にあったんでしょコレ?」
「よく分かるね?」
「地下倉庫の鍵が、にーちゃんの生体認証だから。開けさせようかと」
「言ってくれればいくらでも開けたのに」
「確かにそうじゃったわ。でももういいよ」
古代ロボを発見した時は、破壊したニセ魔王の指の欠片で地下倉庫の扉を開けたのだ。ニセ魔王は指紋まで魔王と一緒だった。なんで、あそこまで精巧なコピーだったのかは、ゲームを始めたらスグに分かったよ。
「くうー、何なのこのベタな展開はー」
「ははっ。僕達の方がゲーム世界に取り込まれて。キャラの方が外に出ちゃったね」
「ニセ魔王だけじゃなく、私までニセモノが居たってことかー」
謎はひとつ解けたけど。更に謎は深まりましたよ?あのニセモノ達は、何が目的なの?そして、ニセ魔王は魔界をうろついてたから、ミクルンルンに破壊されたけど。ニセニャアは何処へ行ったのかな?何処で何をしているのだろうか?
「ここから出るには、ゲームをクリアすればいいんよね?きっと。魔王はどこじゃー?魔王が魔王を倒しちゃうのー?ぷーくすー」
「笑い事じゃないかもね。このゲームは、オープンワールドで自由なんだ。エンディングが存在しない」
「なん、じゃとー?え?あああっ、あっーーー!」
なんということ。ゲーム内データになっているから、きっと魔力袋の制限が無いんだろうね、6歳幼女ではなく、70歳過ぎのおばあちゃんになってしまった!私、どうななっちゃうのー?あ、ところでプリティなキュアは一度も見た事無いです。
魔王が絶句している。そりゃそうでしょうね。自分は27歳なのに、妹がおばあちゃんになっちゃったんだから。ここはゲーム内だからか、服がばりーって裂ける事はなく、体にフィットした着物になってるわ。和装の魔法老婆ってなんじゃろな?手には魔法ステッキならぬ、杖を装備ですわー。
「おにいちゃん?」
やばい、心が死んでいる。さすがに哀れね。ちょっと、頑張って若返ってみようか。せめて24歳くらいに。
むーん、むーん、月の神様、私を24歳のダイナマイトバディにして下さい!
「あれ?魔法老婆は魔法が使えないの?」
「このゲームに魔法とか無いよ」
「まじかー!いてー!」
ムカついて、杖を叩きつけたら、腰がー!
なんだよ!魔法能力が消えたから、本来の実年齢の体になっちゃったの?そんなんあり?
どのみち私は、年齢詐称魔法は習得してなかったわ。ミーナちゃんのオリジナル魔法だったよ。
はあ、まあいいや。これなら、兄と二人きりの世界でも、過ちは起きないでしょうよ。もし、この世界で子供作ったりしたら、どうなるんだろう?こわー。
「ほいじゃあ、何が出来るん?このゲーム」
「好きなだけ悪事が働けるよ。魔王の琴線にぶっささってオモシロイ」
「グランドセフトなやつかー!」
確かにエンディングないわー。シナリオモードでも、ゲームに終わりはないのだ。ああ、どうするのじゃああ。
「あ!困った時の女神頼み!神社に行こう」
「え?なにそれ?神社なら、スグそこにあるね」
元女神のお姉さんが「困ったら神社で、おみくじひくといいよ」って言ってた。この世界でも、きっとそれは有効に違いない。それ以外に、回収できそうな伏線を覚えてないもの。
「たーのもー」
「あら、珍しい。この世界で神社に参拝客が来るなんて」
「あ、おまえは、横浜出身のシスターじゃないの。今度はここに転生したのかー」
「えーっと。あなた誰?」
「私が誰なのかは知らない方がいい。それよりも、このゲームの終了条件知ってたら教えて!」
「はあ?魔王を倒せばいいんじゃないの?知らんけど」
役に立たんなあ。そういえば、平然と嘘つくヤツだったわー、こいつ。ここで殺したら、こいつどこに転生するんだろうか?村に戻ったら嫌だから、放置しておこう。
「おみくじあるー?」
「あるわよ、1回10万円ね」
ぼったくりにも程があるでしょ。仕方無いなあ、この世界は悪事を働き放題なんでしょ?ほいじゃあ、その辺の雑魚市民を2~3人ボコして金を奪うかー。
「僕の妹の順応力が高過ぎる件」
うん、まあ。そうよね。だって老婆だもんね。雑魚市民に反撃されて死んだわ。
はあ、心が荒んでいくわー。よくないわー。温泉に浸かりたいわー。
「お前、また来たのか?」
「ぶひぃ」
私が死ねばどうなるか?はい、そうですね。異世界に転生します。運良く、幼女な女神様の居る世界に転生しました。
「よく分かったね?女神様。前回とはボディが違うでしょ?」
「いや、一緒じゃ。なんとも貧相な幼女じゃ。わしみたいな」
「あれー?まあ、そういう事もあるか」
今回も、山奥の秘湯で魂の傷を癒やし、ジャガーのシチューでお腹を満たしました。
「わしの、おしっしょさんなら、もうおらんぞ」
「ありゃ、ほいじゃー、異世界転移は頼めないかー。あ!ここ神社あるでしょ?」
「あるけど。おみくじならやめといた方がいいよ?」
「え?なんでハナちゃん」
「馴れ馴れしいなあ?まあ、いいけど。ひいてみれば分かるよ。ほら120円あげるから、ひいてみれば?」
「あざます」
大凶
もっかい死んでみれば?
「ああ、そうですかー」
あの元女神もなー。私の同位体だもんなあ。こんなもんよねえ。
異世界転生は狙ったところには行けないんよねー。魔法さえ使えればなあ。でも、ここマナもカナもないんでしょ?
「異世界ガチャやっちゃうー?ああ、でもなあ」
全裸で奴隷とか、カサカサに干からびて餓死とか、もういやだなー。
「あ、あー!!待てこらー!」
ニャアちゃんそっくりの貧相な幼女が神社の境内をうろついていますよ?
ドッペルゲンガーに会うと死ぬって言うけど、あれはニャアちゃんであって、今の私ではない。つまり、あれはニセニャア!どうやって此処に来たのか、何しに来たのかは知らんけど、ぶっころす!またんかワレぇ、ころしあげるぞー!
ごっすぅ
は!何も聞き出さずに、やってしもうた。だってコイツ雑魚過ぎる。非力な幼女にホウキの柄で頭を割られて機能停止してしまった。
「お?おおお!?」
みょんみょんみょん
破壊されたニセニャアと、孤児院の貧相な幼女が、一体化した!
「ふっかーっつ!ヤッターまん初号機出撃じゃああ!!」
そうか、この世界にニセニャアが居たせいで、前回ここに転生した時に、魔法が使えなかったんだね!ニセニャアも古代ロボだから、マナカナ吸引装置があるんだ。よっしゃー、謎はひとつ解けたー。異世界転移魔法で帰るぞー!
魔法も気合と根性よ!転移魔法で自分を飛ばすのは始めてだけど、何とかなるでしょ!
いっけー! バグの隙間をついて、その壁を越えろー!