5-11. カレーの魔王さま
「カレーなら大きなハズレはないでござろう?」
「そうねー。いっそレトルトなら、オイシイかもね」
「ほうかのー。私は、小6の林間学校でひどいカレーを作ったよ?」
「それは、むしろ才能ね?」
どんな料理でも「失敗したかも?」と思ったら、カレールーを入れて煮てしまえば良い、というくらいにカレーはなんでもアリな食べ物です。失敗して不味くする方が難しい。小6のアレだって、間違ったのは私じゃない。担任の先生だよ。水入れるかわりにサラダ油どばーって入れよった。それでも、みんなが食べてくれたのは、私への忖度だった気がする。みんな、やさしいね。
「よく来たアル。おめえらの席はないアル」
「この国の定番の挨拶だと知っていても、ドキッとするでござる」
翻訳を間違っている気もするけど、無いのか有るのかというと、ちゃんと席はある。
「おりょ?オニーちゃんがおるげ?」
「やあ、鬼と聞こえるんだけど、気のせいかな?」
「魔王なのだから、鬼でも間違っていないでござろう?」
「まあ、そうだね」
魔王の方の私達の兄が、店内でカレーを食べてます。
「え?何か用なん?私は用無いアル」
「僕の妹がこんなにツンデレなわけがない」
「は?私、悪魔じゃゆうとるじゃろ?」
「うーん?女神じゃない?いい加減なところといい」
「えーっと、魔王の妹が女神でもええんじゃろうかー?」
「何も問題無いよ。女神の敵は女神だし、魔女の敵も魔女だ。当代の魔王は女神派閥だよ」
この世界の神々は、派閥を作って争っているのだった。いろいろな異世界の聖書や神話を読んできたから、ごっちゃになってるんよねー。女神も天使も、悪魔も魔女も、同じ箱から出て来た希望だか絶望の一種で同じ様なものなのです。神と魔で対立しているのではなく、魔女と女神をボスとした派閥争いをしているのです。
「またブログで解説しそうなネタでござるな?」
「システムエンジニアだからね、仕様について語っておけば、仕事した気になるんよ」
カレーは普通でした。レトルトではなく、野菜と肉を煮込んで市販のルーを入れた感じかな。もしくは、業務用のカレーに野菜と肉を足したか。小学校の給食に出たカレー風味の汁よりは、ずっとオイシイ。
「用というのはね。国の統治を手伝おうかと思って」
「ほほう?魔界の統治者が手伝ってくれるとは心強いでござる」
「ん?僕は魔王であって、魔界の統治者ではないよ?魔界にはちゃんと市長が居る」
「まあ、ほげなもんには興味がないので、どうでもええんじゃけど。魔王に何をしてもらおうかー?」
「マスコットキャラの中の人が決まってなかったじゃない?」
「ソレだ」
観光PRのくまモンみたいなのに入れるエンジンが未定だったのです。あれって、暑いしくさいし、軽く拷問なんだよね。子供が容赦なく攻撃加えてくるし。ミーナ以外は、アレに入った経験があったので、みんな嫌がったのです。
「いいよ。兄が妹に逆らう権利は国連でも認められていないからね。マスコットキャラは出来ているの?」
「いんや?デザインも任せるんよ。アールくんに言えば、なんか作ってくれるよ」
「ガガぴー!お任せください。アールくん、なんかテキトーにマスコットキャラ作って!と、ご用命下サイ」
兄は妹には逆らえませんが、植民地の村人は国王には逆らえません。どっちの権力が上か争って国際裁判をするわけにもいかないので、もう一人の兄である国王の命令でこんな事になっているのです。
まああれよ。なんでもAIに丸投げしておけばいいのよ。AIが人類の仕事を奪ってくれるわよ。いずれは、人類の存在価値だって奪って、滅ぼしてくれるわよ。惑星レベルで見れば、そんなものは無いのだから。「地球のためにー」とか言ってるエコロジストが居るけれども、地球にとってはお前も邪魔なゴミだからな?人体に例えれば常在細菌みたいなもんよ。人類はビフィズス菌ではありません。
「僕の妹が何だかやさぐれているね?一度魔界に行って、骨休めするのはどうかな?」
「ソレだ」
ねこバスに乗って、びゅーんっとひとっ飛び。魔界と言っても、異世界でもない、魔界村みたいなものだからね。ナビ通りにマッハ2で進めばスグに着きます。
「ほわー。なんじゃあ、この温泉はあ」
「悪魔の湯でござるか?効能は何ナリ?」
「効能ハ。切り傷、刀傷、人体の部分欠損、おしりの病、内蔵疾患、悪性腫瘍による細胞破壊、心停止、脳の損傷による活動停止、不老不死」
「アールくん、それ本当なの?」
「えー、そこの立て看板にそう書いてアリますよ?」
「ねえ、それより核融合炉って水濡れしたらどうなるの?」
「水濡れマークが出たら、保証の対象外デス」
「こいつなりのジョークだから、気にしないでいいよ」
しかし、この悪魔の湯。本当に効能通りなのかも?私の脳がゆんゆんと活動を活発化させています。重要器官である脳の損傷は治癒魔法でも治りづらいのです。魔力袋とは脳の事かも知れません。
「んー。本当に不老不死になったのかしら?」
そういえば、ミーナだけが不老不死になるアレやコレをやってませんね?今のミーナに備わっているのは自前の治癒魔法による不死と、魔力袋のオートスケーリングによる6歳幼女化現象。実質、既に不老不死ではありますね?
「心臓に杭でも打ってみる?それともクビを刎ねてみる?」
「どっちも、やっべー失敗じゃった、で済まないからダメじゃろ」
「もっと簡単な方法があるでござるよ?10万年後の自分を召喚してみては?」
「そ、それもコワイから、やめておくわ」
私達は、丸っとひと月もの間、魔界村の悪魔の湯で湯治をしました。7年間も、この世界で無茶ばかりしてたからね。それくらいは必要だったのです。
その間に、魔王が国王と一緒に各国を回ってPR活動をしてくれました。白塗りのピエロみたいな、非常に怖ろしいマスコットキャラでしたが、それがウケました。
危険な遊園地は、アールくん配下のロボット達が、しっかり安全基準を満たして再建してくれました。
後、必要な事はー?
「遊園地の従業員の教育かしらね?女神教徒は、いい加減なのしか居ないから」
「言い替えれば、国民の再教育かあ、それは難しいなあ」
「ボロンっ!それは、もう終わっていまス」
「へ?何をしたの?」
「脳から社会的な記憶を消す薬を、ぶちゅっと打って、まっさらな脳にディープラーニングを施しまシタ。あの遊園地の従業員は、とても勤勉な昭和の日本人のようにナリましたナリ」
その薬は、きっと座薬型なんだろね。さらっと倫理観ゼロな事やってるわ。さすがAI。
「それを国民全員に施せば、んー、それってコワイわよ?」
「そうね。洗脳は遊園地の従業員だけにして、もう逃げようか?」
「国際裁判にかけられたら負けそう。サイコロで判決を勝ち取れるなら、国王兄ちゃんを弁護士にすれば完全勝利じゃけども」
「問題はアリませんよ?過去にも、脳をゆんゆんとさせる葉っぱで、植民地支配をした国家がありましたが、裁判にはなってイマせん」
ともかく、チュウニ病以外は全快した事だし。逃げるのはいつでも出来るので、あの国へ帰ってみましょうか。




