5-1. HALなのに
そんなようけんきいてねえー、いまさらいってもしるもんかー、さいばんやるならせんめつせーん
デスメタルを即興で作詞作曲しつつ歌いながら、庭をのっしのしと散歩です。
この世界に来て、3度目、いや4度目の春が来たのです。聖国の魔女との一件から、もう一年も経ちました。あれから、いろいろあったのですのジャガー。私は、6歳幼女のままです。ぶひぃ。
「あらー? ご機嫌ねぇ? 頭の中は常春なのかなー?」
「おん? そじゃーの。お姉さん、なしたの?」
元女神のお姉さんは、時々こうやって遊びに来ます。暇なんかな?暇なんだろうね。私も暇だよ。
「はいこれ、おみやげ。温泉まんじゅうよ」
「あざます」
「ここに来るのはこれで最後よ」
「何処行くん?」
「異世界に行くよ。諸国漫遊の旅も、これが最終章ね。異世界転生をする力は、後一回分しか残っていないから。記憶の中にある日本に行ってみようかな」
この元女神のお姉さん、ニートンが以前居た異世界の創造主だそうです。女神を引退して、諸国漫遊の旅に出るとは、ニートンも聞いていたそうだけども。まさかの異世界旅行とはー。女神はスケールが違いますね。
「ほーん?オススメはせんのじゃがー」
「あら?そうなの?」
元女神のお姉さんは産まれた時から異世界の記憶があったそうで、それは日本に住むシステムエンジニアの記憶のコピーなのだとかー。どうやらソレは、私の日本時代の記憶なんだけどー?
このお姉さんも、ある意味もう一人の私みたいなものでしたわー。クローンからデプロイした仮想マシーンのようなね。
もう一人の私といえば、猫耳のニャア大佐も居ますね。
「じゃって、もう滅んだし」
「へ?」
「もう一人の私である、猫耳ニャア大佐が地球をパカッと割ってしもうた」
「なんでまた、そんな事を?」
「満員電車にイラついたんじゃって」
仕方ないよね?
私だって、今の力を持ったまま日本に転生しちゃったら、同じ事やると思うよ。
「ありゃー。じゃあ、どうしたもんかしら? 私、この世界ではレッド・ノーティスだしー。逃げ回るのも疲れたのよね?」
「この村に居ればー? ここは治外法権じゃからして」
「そうねー、そうしようかなー。私の中の残留思念のオリジナルと同居というのも、オモシロイわね」
「部屋は、このビルの中に空き部屋が沢山あるから。好きにしていいよ」
「ありがとう。今日から、お姉ちゃんと呼んでもいいわよ?」
「いや、これ以上姉とか妹とか居ても幼女の小さい脳がコンフリクトを起こしてしまうので。なんか名前無いの?」
「うーん? 異世界ではミラとかリーザとか名乗っていたけどね? この世界って固有名詞に拘らないでしょ?」
「ほうじゃけどー。初代女神とか、聖国の魔女ってワケにもー」
「ま、そのうちテキトーにね? さてさてー、ふむふむーよー。私の巣を作らないとー、じゃあまた後でねー」
「ういっす」
そのテキトーなところ、まさに私のクローンって感じ。
私も、IT革命を目指しながら、この一年間なんもしてないからね。そろそろ、要求仕様書でも作ろうかしら?
もちろん要求するのは私の方よ。この世界が要求するものはシステムエンジニア的な合理に反するのばかりなので。
この一年間、何もしていないからといって、何も無かったワケではありません。
まず私は、王室をクビになり、この村の村長もクビになりました。幼稚園も3日でクビになったし、この世界の私は、立派な正統派のニートなのです。
この国は宗教国家なのですじゃがー、国神は魔女なのです。対立しているはずの女神を襲名してしまった私が、国の要職に就いていてはね? さすがに国王が兄とはいえ、むしろ兄が国王だからこそですね、女神である私は要職を解かれたのです。やったね。
もっとも、私が女神であることは、国家の最重要機密なので、家族しか知りませんし、家族すら信じてはいませんけどね。私だって、何の実感も無いもの。
今でこそ、この村は国王の家がある最重要拠点の一つですのじゃがー。
本来ここは帝国の植民地なのです。ヴァルハラかと思ったら植民地だったとはー。昭和日本の感覚では思いもよらぬ事でしたわー。帝国がバンバン戦争を起こしているお陰で、私達は、フリーご飯を食べて、フリーお風呂につかり、フリー家賃のお家でオフトンの中でスヤァ出来るのです。未だに、この世界の倫理観や道徳観念が理解出来ませんからね、IT革命を起こすなんて夢のまた夢ですよ。
つまりこの村は、地政学的には雑魚なので、女神や元女神がこっそり棲んでいても平気なのです。悪魔が降臨したりして注目は浴びてますし、観光客は絶えないですけどね。それ故にアンタッチャブルなのです。手を出すおバカさんは、もう居ません。一年前に聖国がひどい目にあったので、尚更です。といっても、今では聖国もフリーご飯、フリーお風呂、ぬくぬくオフトンのヴァルハラですけどね。
「ニャア姉ちゃん、パンツ丸出しで何やってんの?」
「ミツバチさんごっこじゃけど」
「そんな事してるから成長しないんじゃないの?」
ミーナちゃんは7歳になりました。私に匹敵するか、それ以上の魔力があるのに何故?
膨大な魔力に耐えられる魔力袋は6歳児にしか無いのでは? 妹の方が傍目には姉に見えるこの現状、おもしろ過ぎるのですけど。
「魔力袋は物理デバイスじゃないのよ? 仮想器官なの。フィジカルの大きさは関係ないじゃないの」
「あ、はい。まあ、理屈ではそうじゃけどね?」
「理屈で理解出来ることが実行出来ないのって、システムエンジニアとしてどうなの?」
「あ、はい。異論も反論もありませんね」
ミーナちゃんは私の魔法とITの弟子だったのですのジャガー。
もう完全に追い越されました。今の私を養っているのはミーナちゃんです。ご飯はフリーだけど、チョコとかの嗜好品にはお金が必要だからね。お金を稼ぐミーナちゃんが居ないと、私の生活は彩りというものが無くなってしまいます。
「お腹空いたでござるー」
「ご飯食べに行こうよ」
ニートンに加え、タオルくんもヒキニートです。ライブハウスのお給仕は、パンツの騎士達がやってますからね。人手が充足しているのです。私達は、毎日アニメを見たり、ゲームをしたりして暮らしています。完全にキリギリス。夢の様な生活です。
「ほいじゃー、アールくん車出してー」
「ピロンッ! ねこバス号とリンクしまシた。ご乗車クダさい」
今日のアールくんは、アール2D2型です。
アンドイロイドである、こいつの機体のバリエーションがどれだけあるのかは、管理者である私にも不明です。とりあえず、今のところシンギュラリティが発生する予兆はありません。
ROMに焼き込まれている大原則とやらは、ニャア大佐と私が解析しても謎のままでした。プログラム言語が古代文字らしくて、辞書もありませんからね。ミーナちゃんが古代語の研究をしていますけど、謎は謎のままの方がおもしろくない?
「おちゃどぞー」
「あざます」
パンツの騎士のお給仕で、ライブハウス定食屋のご飯をいただきます。パンツの騎士と言っても、この村に来てからは、ちゃんと服を着ています。今もメイド服を着てますよ。
「そういえば、こいつらのツガイの相手を探す話、忘れたままだったね」
「そじゃあのー。このままじゃとお芋畑が、百合畑になってしまうのでは?」
「それはそれでオモシロイけどね? 村の人口が増えないと、困るわよ? 寄生しているニート的には」
「少しは自分達も働けばいいのに」
「働くべきか、働かざるべきか。それが問題でござる」
「なんで、ソレが問題なの?」
働かざるもの食うべからず、と言いますからねえ。この国を救った英雄としての成果があるので、別に非難される言われもないのですジャガー。そろそろ、何かしますかねー?