4-12. 非機能要件って何だっけ?
「僕は普通に27歳で、弟は24歳だよ」
意外にも魔王も国王も1万歳以上だったり、異世界の記憶を持っていたり、ループや転生を繰り返したりはしてませんでした。姉とは1万歳近く離れているけど、どういう親から産まれたかな? 岩から産まれたとか? 普通、とか言われてもね? 普通って何よ?
まあ、なんでもいいよ。この世界は出自で身分や周りからの扱いが決まらないからね。多様性には寛容だけど、実力主義だし。単純に男女同数にしましょう、なんてのを公平だとはしない。何しろ、いつも戦争をしているような世界だからね。植民地だって、あちこちにあるし。昭和日本の倫理観だと戦争も植民地は邪悪なものに思えるけども、実際には植民地の民は楽しく暮らしてます。何事にもデメリットだけでなく、メリットだってあるものなのだし、異世界の常識は、この世界の非常識なんよ。
「ほいじゃあ、あんたら私の弟じゃん」
「あれ? そうなりますか?」
「私が6歳児なのは見た目だけじゃけ。でも妹って事でもいいんよ」
「僕の妹がこんなに可愛いワケが分からないよ」
私はお姉ちゃんでした。まあ、どうでもいいよ。こいつらは年下のおにーちゃんっ事で。あの姉に何をされたのか知らんけど、妹が出来て浮かれているからね。それに、上にしといた方が便利に使い易い。
こいつらの異能については、魔王はタワシが召喚出来るだけ、国王はサイコロの出目を操作出来るだけ。ほぼ普通のニンゲンだね? 国際首脳会議の決議がサイコロで決まるのなら、この帝国が最強なのにねー。
「そういえば、帝国なのに国王なん? 皇帝じゃのうて」
「エンペラーもキングも、違いが分かんないでしょ?」
「それはペンギンの話じゃろ?」
「兄さんが魔王なので、国王の方がまとまりがいいじゃないですか」
「まあ、ほらほうじゃね」
「というか皇帝は別に居るんだよね」
国王と魔王は、私達のお家のある、すっとんとんビルに引っ越して来ました。すぐに呼べるので、これからはいつでも使いたい放題です。早速、ねこバスの洗車をしてもらっています。
「すっかり忘れてたでござるが。EVは作らなくてもコレがあったナリね?」
「空飛ぶ魔獣扱いじゃったから」
私の脳は6歳児だからなのか、とても容量が小さいようです。物覚えが悪過ぎます。中身は還暦過ぎの老害なので、何の違和感も無いけどね。ドキュメントを残さないアジャイルは向いてませんね?
「マイシスター! 痛車はキレイになったよ。ドライブに行こうじゃないか」
「ほいじゃあ、にーちゃん運転せて」
「はいよー」
兄は妹の奴隷。これは異世界だろうが、どこでも不変の真理だよ?
むいーんむいんーっと、ねこバスを走らせて、ライブハウスまで行くよ。お腹空いたからね。
「舗装されても居ないのに、車が快適に走れるとは」
「この村も、軍事拠点として開拓されたからね。どんな車両だって走れるよ」
戦争があるから経済が活性化される。そういう側面もあるのかな。軍事は必要なものだけを見極めてコストを投下するからね。伊達に帝国を名乗っていないよね。一方で、戦災孤児は多いし、結婚適齢期の若い男女は激減しておったけどもね。
「この村が少子高齢化の過疎の村になっていたのは、地政学的な問題と、なによりも先代の無能ゆえだよ」
「あまり偉そうな事言ってると、ブーメランになるでござるよ?」
「ははっ、僕達の妹はみんな手厳しいね。でも現実に、僕が国王になってニャアちゃんに村を任せたら、こんなに発展したじゃない。僕の手柄でもないか?」
「いや、人を信じて任せるのがトップの役目だからね。お前はよくやってるよ」
ニートンまで妹枠に入れるとは剛の者よ。1万回死んだ女騎士だよコイツ。修羅なんよ? それが妹かー。確かに魔王兄さんの言うように、一国のトップの器なのかもー? 知らんけど。
「だからさー? 女将を呼べって言ってるんだよねえ? 僕は、この店の女将の事は先代の頃から、良く知ってるんだ。君みたいな下っ端の給仕が、そんな生意気な態度でいいのかあ?」
「はあ、そっすっか」
ライブハウスに行くと、お姉様がドアホウさんに絡まれてますよ。お前の目の前に居るのが女将だよ。こういうドアホウさんは、どこの異世界にも居ますねえ。日本にも居ました。
「何があったのじゃ?」
「あ、村長ー。ほっとけばいいよ。観光客の中には、たまにああいうの居るから」
「ほーん。まあ、心配はしてないんじゃけども。いや、あのドアホウさんの命が心配じゃあ」
「いや、女将さんは寛大だから」
確かに身内に害が及ばない限りは、お姉様はとても寛大なのです。お姉様こそトップの器ですねー。実質、この世界のトップだもんね?
「ちょっと君。いい加減にしたまえ。他のお客さんにも迷惑だ」
「んー? なんだい君は? 随分薄っぺらい騎士様のご登場だねえ?」
「僕は、この国の王だ。国民を守る義務がある」
ああ、バカ兄貴が権力で介入しちゃったよー。あーあぁ。まだ24歳じゃもんなぁ、是非も無しだね?
「ははっ。こんな田舎の王様がどうしたことだろうか? 裸でぶひぃと泣き給えよ! はははっ。僕は聖国の皇太子だよ? 相手を見てケンカを売ることだね」
ほらね? 権力や暴力には、より上が居るのですよ。聖国と言いつつ、随分とゲスな皇太子だけど。聖ってどういう意味なのかな? セイントちゃうのん? いざとなったら、女神を騙るこの幼女が成敗してやるわよ? その前に、もっとコワイのが居るけども。
「はあ、その聖国の皇太子とやらが、この村に何の用なんですかねー?」
「ふん。貴様の様なババアに答える義務もないがね? 聖女様が顕現されたと宮廷魔道士が預言したものだからね。しかし、どうだろう肥やしくさいだけで、セイントの欠片もないじゃないか」
お前が言うかー? と、店内に居る全員が思ったことだろうね。
「はっ。まあいい。この蒸し芋は、塩気が足らぬ。もう結構だ、余は帰る」
そう言って、ドアホウさんは店から出て行ったよ。蒸し芋の塩気でここまで騒いでたん? エンミって言ってたらイラっとしてしばくところだったわー。エンミって何やねん。私は心の狭い、地上最強魔法幼女なのよ? おしりのあなだって小さいわ。
「そりゃそうでしょ。あいつに出す塩なんてないのだし」
「おやびん。あいつ食い逃げデス」
「まあいいわよ。塩は撒かなくていいわよ。勿体ないから」
「へーい。がってんしょうち」
お店でメイドのバイトをやているタオルくんが、何なら新しいキャラに転職したようだね。おやびん?
「何かしら? 店の空気が何だか重たいじゃないの?」
「ちょっと、ミーナちゃん何して遊んだの? 返り血で真っ赤じゃないの?」
「あ、うん。ちょっとね。ニャア姉ちゃんお風呂行こ?」
「おーん? 返り値じゃなくて返り血とはー? 幼女の遊びの結果には見えんのじゃけどもー?」
「は? ちょっと意味が分からないんだけど」
「ほいじゃあ、お風呂行こっか」
ご飯は後にして、お風呂に行きましょう。
「なしたの?」
お風呂で、きれいに丸洗いした幼女に血塗れだった理由を確認します。病気を媒介する動物の血だとマズイじゃん? お姉様の血なんて即死級の猛毒だしね。
「魔法の練習してたら、草生えてそうな貴族っぽいのが、攻撃範囲を横切っちゃって」
「やったでござるか? それ多分、聖国の皇太子でござるぞ?」
「そうなの? かなりのあほだったけど? 即死だったから骨も残さず焼き尽くしておいたよ。教わった通りに」
「よくやったナリ」
6歳幼女にそんな物騒な片付け手順を教えたのは誰? 私ですね。証拠は隠滅、とはいかないわね。あのドアホウさんの事は多くの人が目撃した上に、強く印象に残してしまったもんね。
「これはー、国際問題になるんじゃろね?」
「聖国と帝国の戦争が始まるでござるな? 王室近衛騎士である拙者の出番ナリ?」
「あー、うん。戦争やって切り取れるものがあるなら、そうなるんじゃろね」
うーん。私が、IT革命を成し得る日は遠いわねー。あれ? ってゆーか私、王室入りしちゃってたんだっけ? 姫さまー、って呼ぶ側が良かったわよ。ぶひぃ。