1-5. 出戻り転生
「おねえちゃん、何してるの?」
さあ、何してんだろうねえ。私が知りたいよ。あれっ、この幼女見た事あるな?
「おふろどこか分かるかな?」
「はあ? 前にも教えたよね? ばかなの?」
「ぶひぃ」
まあ、3ヶ月も暮らした村なんで風呂の場所くらい分かりますよ。煙突が目の前に見えてるし。
「ちーっす」
「あんた、昨夜どこ行ってたの?クマが出て大変だったんだよ!」
「あ、そのクマから逃げて、このザマっす」
ほっほー。こっちでは一晩しか経ってませんか。
今回は、出戻りです。前に来たことある世界に再転生です。
お風呂フリーな世界に、元のロリボディのまま、帰ってきました。体まで前回と同じなのは初ですね。服だって、元々着てた体操服ですよ。
IT奴隷にも出戻りがあります。
商流の間にある会社を飛ばして、1次請けに近い会社へ潜り込んで、入り直した事があります。
給料が3倍になって狂喜と共に愕然としました。最初の会社では、自分で自分の営業担当になる、というミラクル技まで使ったんですけどね。8割抜かれてましたからね。自分の注文書と注文請け書を書くIT奴隷。不思議な気分でした。
ちょっと関係ないですけど、仕事を請ける側から、発注をする側に派遣先を移した事もあります。納期2週間とか言ってますけどー、ほんとは3日で出来ますよねー? 私、やっていたから知っているんですよー? 1日でやってもらえますぅ? ってなもんですよ。ひどいですね私。
懐かしのすっとんとんボディで、3ヶ月ぶりの湯に入ります。
「くっはぁ」
やっぱお風呂はいいですねえ。猫耳マジックソルジャーとなった前回は3ヶ月もお風呂に入れませんでした。くっさくさですよ。魔獣もうろついているし。飛び散った内臓は頭から被るし、世界全体がくっさくさでした。もう戻りたくはないですね。魔法が使えたのは貴重な体験ですけどね。
「もう、帰って来ないから、心配したのよー」
風呂上がりに、定食屋に帰ってきました。お姉様のやさしさが染みます。ご飯もおいしいです。
「じいちゃんは?」
「クマ退治に行ってるわよ」
すげえな、じいちゃん。じいちゃんと言うのは、この定食屋の主人です。この世界での私の里親ですね。じいちゃんは元傭兵なのです。強いのです。アルプスのチュウニ少女ですね。お姉様がクララでしょうね。私は、ヤギです。ペーターが飼っている。ぶひぃ。
お腹が満ちたので、ちょっと公園に行きましょう。じいちゃんが居ないのでお店は休業です。お姉様でも料理を作れますが、今日は仕入れをしてません。村の人達は飢えて大変ですね。
幼女に罵倒されたくなって、いつのも公園にやって来ましたが。
彼女はもう居ませんでした。
かわりに居たのが奴隷商人です。前ここで見た安スーツの男は、やはり奴隷商人でした。
「仕事探してます? いい仕事ありますよー」
じゃねーよ。
どこに行っても、私を欺き騙し、壊れるまで利用する奴らが居ます。日本に居た時から、ずっとそう。
私は、失敗から学び、力をつけて、そんな世界を這い上がって生きてきました。
この世界でも、私は実力で這い上がってみせる。魔法を身に着けた私を安く買い叩こうとするな!
しねー!
不要なプロセスは停止がサーバー運用の基本ですよ!!
カッコつけて指パッチンしたら、ぽっすん、と失敗したんですけど。
奴隷商人が、藁人形に着火したみたいに燃え上がりました!?
え!? 向こうの世界だと、マッチ程度の火力しか無かったのに。こっちの世界は、魔力のカロリーが高いんですかね? 都市ガスとプロパンガス以上の圧倒的な火力差です。ドラゴンブレスみたいな炎が、ゴワーっと吹き出ました。
ああ、大変です。死刑囚は死刑が確定しなければ、まだただの変質者です。書類送検もまだなので、容疑者Aです。容疑者メンバーです。これは過剰防衛を通り越して、通り魔殺人ですねー。そもそも、襲われたワケでもない。声がけされただけです。犯人は私です。ぶひぃ。
やるからには徹底しましょう。幸い、今なら幼児達は公園に居ません。じじいが一人居ますがー、幻覚だと思わせればいいのです。信じがたい光景は、ああ幻覚か?ってなるでしょ?それです。
燃料追加投入! 焼き尽くせ!
ふっ、灰にしてやったぜ?
我の才能が怖い。右目が疼くんだぜ? 視力3.0位ありそうな健康な14歳の眼球は、実際には疼きませんが。私、中身は50過ぎ? 確かそれ位だし。20代の体でも、腰も膝も痛くないし楽だわーって感動してましたけど。もっと、すごいですよ14歳。脳もぴっちぴちなので、妄想がほとばしって止まりません。さすがリアルチュウニです。
今やらかした事も、妄想だったら良かったんですけどね。紛れもない現実でした。
お姉様に一部始終見られていたのです。
でも大丈夫です。うちのじいちゃんは村の権力者なので。そこは、偏屈なアルプスのじじいとは違います。権力を使って、目撃者にも口止めです。この村に定食屋はうちしかありませんので、餓死したくないなら従って下さい。この村の一般家屋には、防火のためなんでしょうね、キッチンがありませんから。あったかいものが食べたければ、定食屋に来るしかありません。うちのじいちゃん、まじ権力者。
「迷えるコボルトが戻って来ました、ブヒィ」
また教会の懺悔室に来ました。シスターにお布施を貢いでおかないと、ここにあるラノベを読めなくなりますからね。ついでに、異世界QA対応してもらいましょう。
「この世界に魔法はありますか?」
「さすがに哀れなので、たまには本当の事を答えましょうか」
はい? 今まで全部ウソだったん?
だって春だって来たしね。公園の桜の木の根元に奴隷商人の灰を巻いた時、花びらが舞ってきれいだったもんね。
「定食屋の娘に聞きなさい」
どういう事? ちゃんと教えて欲しいのだけど。お姉様に聞け?
ああ、そういえば「魔法が使える事は絶対に外で言っちゃダメよ」って、お姉様が言ってた。…言ってたよ。……。言ってしまった、俗物シスターに。
「安心して下さい。シスターが懺悔室で聞いた事は決して漏らしません。1円の得にもなりませんし」
俗物はむしろ信頼できますね。
「特に魔法少女が村に居るなんて。村が滅んでしまいますので」
まじか。やっと21周目の世界で、異世界魔法ファンタジー始まったわ、などと喜んでいい状況では無いみたい。
くくっ、我の右腕が疼く…まじで…。