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魔法少女と夢見る電気魔王 ~女神の異世界ITパスポート?~  作者: へるきち
4.非機能要件定義書 ~この世界に必要なものとは?~
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4-1. ITインフラが無いなら作ればいいじゃないの

 カワサキニャングランプリは大失敗でした。


 芸人の祭典、カワサキニャングランプリ。

 村中から芸自慢を集め競い合う夢の祭典。優勝者には定食屋のビール1年分という豪華景品を掲げて、村のライブハウスのイベントして開催したのですのジャガー。


 いや? 盛り上がりはしたのですよ? ただ、芸人やアイドルを発掘するという目的は達成されなかったのです。

 この村は第一次産業と第二次産業で成り立っています。ヤギを飼い、ミルクからチーズを作る、毛皮からコートを作る。あるいはトウモコロシを育て、家畜の飼料やお酒を造る。それが、この村の人々の暮らしです。第三次産業である漫才やロックバンドは、まだまだその概念すら無いのです。

 定食屋で酔っ払ったおっさん達が、踊ったり騒いだりしているから、そのノリでイケるかと思ったんですけどねー?

 ステージで漫才をやったり、大喜利をやったりする参加者は集まったのだけど。観客に審査員を任せたのがうまくいきませんでした。私達が独断と偏見で採点をすると反感を書いそうだったので、観客の投票で採点をする仕組みにしたのですのじゃが。村人達には、芸事を採点する、という文化が無かったのです。

 優勝したのは、幼稚園のお遊戯でした。満場一致の満点でトップでしたよ。そりゃそうですよ、幼児のやる事に異を唱えるような心の狭い老害は、この村には居ませんからね。働かなくても食べていけるのですから、みんな心に余裕がありますよ。この村ではニホンタヒね! なんて暴言を履くおバカさんなんか居ませんよ。

 

 幼稚園児にビール1年分を与えるわけにはいかないので。以前召喚した芋畑を贈呈しました。園芸に飽きたので丸投げしたという側面もあります。危険なフライングポテトですが、ちゃんとシメてから調理すれば大丈夫。まあ、少しくらい園児がポテトに食われて減っても、この村の統治者としてはむしろ好都合ですよ、ははっ。ドラゴン肉を食べて若返った連中が大繁殖中で、村の子供殖え過ぎですから。恨むならこの村に生まれた不幸を恨むがいい。ぶひぃ。


「拙者達のやっていたライブも、所詮は子供のやることとして生暖かい目で見守られていただけ、という事でござるかなー」

「そだねー。ブルースも誕生していない世界で、ネオクラシカルメタル演奏して、ギター破壊して燃やしてもねー」

「ふむーん。ブルースからやり直すでござるか? 十字路で悪魔と取引するでござる」

「この世界だとホンモノの悪魔が出てきそうだよね。それよりも、猫耳のニャアが動画配信サーバに置いて行ってくれたガールズにゃんこクライをイッキ見しようよ」

「そだねー」


 トゲトゲした心は、トゲトゲロックストーリーで癒やすのです。すっとんとんシスターズは全員カワサキに住んでいたので、カワサキが聖地のアニメを一緒に見れば、きっと癒やされるのです。猫耳のもう一人の私が召喚して動画配信サーバに入れてくれた、「ガールズにゃんこクライ」を観ましょう。ガールズロックバンドが川崎市でもがきあがくアニメです。全13話をイッキ見するのです。


「あー、私もシンカワサキとカワサキは区別ついてなかったなー」

「このお風呂には拙者姉さんと一緒によく通っていたでござる」

「このライブハウス知らんわー」


 6話の冒頭までは、そんな感じでワイワイ言いながら観ていたのジャガー?


「世紀末メタルバンドに魔界転生したでござるよ?」


 6話で合流したバンドメンバーが、キーボードとベースではなく、二人目のギターとベースです。しかも、ギターは禍々しい装飾をされた悪魔っぽいやつ。あれー?


「そういうヤツをどうすればいいー?コロすナリー!!」

「お前も、アクリルスタンドにしてやろうか!」


 こんなコールアンドレスポンスや決めセリフのあるライブでしたっけ? 黒ミサとか言ってますよ?

 最終話のタイトルが「ニンゲン、ミーナごろし」で、人類が滅んでしまいました。以前、私が猫耳異世界のもう一人の私にこいた嘘のエンディングが採用されてしまっているよ?


「名作? でござるな?」

「私の知っているのと違うけんじゃけどね」

「猫耳のニャアが改竄しちゃったの?」


 猫耳のもう一人の私が改竄した? そういうことかなー? 召喚魔法にそんな機能がー? じゃあ、私の観たいイカれたチュウニアニメも召喚可能なのかしら?


「うーん、猫耳のニャアが観たのはコレなのかも知れないね? 別の世界線の令和日本に行ったのかもよ」

「ああ、そういうことでござるなー。別の世界線に関しては1万回生きた女騎士である拙者にも馴染みがあるでござる」

「へー、その話はいずれkwsk(カワサキ)。ニャアの観たガールズにゃんこクライも観たいんだけど」

「ほじゃーのー。DVD全巻なら召喚したんじゃけどー。100インチの大画面にSD画質じゃなー」

「配信版を召喚出来ないでござるか?」

「ソレだ」


 むむーん、むーん!尻手(シッテ)は実はヨコハマですよー!


 ぽろんっ


「お? シン・ガールズにゃんこクライが新着に出てきたでござる」

「全666話ってナニ?」

「あれー?」


 ガチチュウニアニメでした。電波がゆんゆん、私の妄想の塊の垂れ流しデス。


「傑作でござるが。イッキ見は無理ナリ」

「自分の頭の中を他人の視点で覗いているみたい」

「タオルくんの頭の中にもこんな妄想が詰まってるんだね」


 これはー、とんでないものを産み出してしまったね? 横で一緒に観ているヒヨコのアマテラスの情操教育に良くないかもね。んー? どうあがいても私が親なんだから、無駄な心配かしらね?

 しかし、これは新発見デスよ? 私は妄想を2次元に具現化出来る新魔法を習得していたようです。何の役に立つのかは不明ですが。


「ぴよっぴよー」

「外に出たいの? アマちゃん」

「ぴよー」

「拙者達も外に出るでござるか? 今何時なのかも不明ナリー」

「そだねー」


 外に出ると、夕焼けがとてもキレイ。

 真っ赤に染まる空と、真っ黒な影となったアルプスの峰を遠くに見つめていると、これから新しい世界が始まるのだ、そんな気持ちになります。この村にも、いずれ夜明けが訪れるのです。

 赤と黒の境界線を翔るフェニックスのボンジリが、私達に気づいてビル6階のテラスデッキに降りて来ました。


「くえー」

「お腹空いたでござるな? そういえばボンジリは何を食べるでござるか?」

「さあ? ボンジリは勝手に狩りをしているみたいよ? 村人が謎の失踪をしている話は聞かないから、ニンゲンじゃあないと思うけど」

「アマちゃんは、私と同じものを食べているよ」

「ふむん? 雑食なんでござるな?」

「ドラゴンはニンゲンが主食だって魔王は言ってたけど。何でもいいみたい」


 アマちゃんがドラゴンのヒヨコである確証もまだ無いんだけどね。ちっとも成長している気配が無いのだけど。にょろっと生えたトサカは、いつの間にか落ちて無くなっているし。生態が謎過ぎる。少なくともニワトリにはなりそうもないね。


「さて。今日はどこで食べようかー? 私は今日も、ご飯を作る気がないよ」

「そうなると、ライブハウスしか無いでござろう?」

「いや、すっかり忘れてるみたいだけど、じいちゃんの喫茶店があるでしょ?」

「あ! そういえばそんなのもあったのじゃ!」


 すっかり忘れてました。定食屋の先代主人にして、私達の里親であるじいちゃんの経営する喫茶店がありましたよ。


「ちわーっす。じいちゃん、ナポリタンひとつ!」

「お? 久しぶりだなおまえら」


 喫茶店といえばナポリタンでしょ。私はナポリタンを注文しました。


「拙者はカツ丼を所望するでござる」

「私はー、ブリ大根ー」

「はいよー」


 メニューが定食屋と一緒じゃん。店の外観と内装は完全に昭和の純喫茶なんだけど。うまければ何でもよし。ヒヨコのアマちゃんにはソーセージの切れ端をあげましょう。ニートンのトンカツも一切れ、タオルくんの大根も貰いましょう。


「しかし、客層が偏っているでござるな?」

「そうね。ちょっと友達にはなれそうもないかなぁ」


 スマイル0円のタオルくんですら敬遠する客とはー?

 オープンテラスで赤ワイン飲みながら、キャビアを乗せたフランスパンなんか食べてますね? え? フランスパンじゃなくてバゲットだって? あ、そうですかー。

 今年こそノーベル文学賞はハルキでしょ、とか、いや平和賞こそふさわしいね、とか言っている。誰よ、こいつらにハルキストを仕込んだヤツ。


「まあ、動物園だと思えば、ね?」


 この世界は多様性に寛容なのです。彼ら彼女らを否定するなど野暮の極み。私達すっとんとんシスターズこそ、この世界では特異点ですからね。ほんと、こんなの受け入れてくれる異世界なんて、他に無いわよ?


「食べ終わったら、ライブハウスで食後のおやつをいただくでござる」

「いいねー! その後は、お風呂だねー」

「やはり、ここはヴァルハラなのじゃー」

 

 この世界で、私達は永遠にすっとんとんのまま、惑星の寿命すら越えて生きていくのです。


「そういえばー。ニンゲン50億年の長期目標を立てるつもりで、ずっと忘れちょったわ」

「へえ? ニャアも将来の事考えるんだ?」

「さすが我が主君でござる。にんにん」


 その主君って何なの? まあ、どうでもいいけどさ。


「前世の縁でござるな。覚えてないので?」

「んー? 帯刀したメイドにはー覚えがー? あるようなないよなー?」

「ふむん。拙者は1万回生きた女騎士でござる。細かい事には拘らぬナリ」

「そんなことよりも、目標って何なのー?」


 それなー。


「この世界にIT革命を起こそうかと思うのじゃけども」

「それ、いいじゃない! ITって好きな時に好きなアニメを好きなだけ見れる魔法なんでしょ?」

「主君が魔導で世を治めるのであれば、拙者は騎士としてお手伝いするでござる」


 そうかー。魔暦元年前に日本を離れた二人にしてみれば、ITは魔法かー。


「すべては夢幻の如くなれど、ニンゲン50億年。世はなべて事もなしじゃ。是非もなし」


 明日からがんばる。どうあがいても明日は来ないけどね?

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