1-4. スキルミスマッチでいきなり最前線
「くくっ…今宵の月は美しい…」
教会で読んだラノベは神話でした。
プロが書いたのが神話で、素人が書いたのは聖書、という区分だそうです。書籍化されたら神話で、なろうは聖書、って感じですかね。
教会でラノベに夢中になっていたら、すっかり日が暮れています。
月明かりに照らされた夜道を、ヴァンパイアごっこをしながらお家へ向かって歩きます。ヴァンパイヤが贄として女神を飼育する神話を読んだので。ヴァンパイヤが女神の血を吸うために齧っちゃう寸前で、打ち切りになってました。むう、何故ー。
「今宵の我の贄は、誰かな?…くっくっく…くっ!?まっ!?」
クマが現れました。
なんてこと。贄になるのは私の方だった。煮えー。
あー、早かったなー。3ヶ月で異世界契約打ち切りっすわー。
何度も死んでる、デッド・エキスパートの私だけど。生きたまま喰われたのは、はじめて。いっそ殺せー!って、まさにあの状態。じわじわ死ぬのはツライです。
そして私は、異世界初の上流工程種族に転生しました!
猫耳装備で、ルックスも最高に可愛い。トップニャンだ! しかも、魔法少女!
ただまあ、魔法使えないんですけどねー。意味ねぇわー。
何の手違いか、王立魔法軍のエースとして、最前線に来ています。現場に入ってから、そこで必要な技術を習得するのは、IT派遣あるあるなんですがー。魔法は、どうだろう? 気合とか根性で、どうにかなるんですかねー? 魔導書の貸与とか無いんですか? え? 自前で買え?
多重派遣の如く、右から左へ奴隷として転売されている内に、私のスキルシートの記載は「異世界から召喚された魔法少女」という事になっていた。
PCのキッティングをちょろっとやっただけなのに「サーバ構築経験あり」ってスキルシートに記載されてて、派遣先でWebサーバの設計構築やっちゃってるとかね。まるっきり、あの感じですよ。
あのサーバ、どうなったのかなあ? まじでリリースしちゃったんだけども。「はじめてのApacheガイド」をネットで読みながら作ったアレ。
うわー。爆裂魔法で、隊長の頭が吹き飛んだわー。
ここまで、内臓がドログチャって飛んできた。どんだけ可愛い猫耳少女でも中身はコレです。夢も希望も萌もないわー。
魔法が使える世界の戦争はエグいなあ。
魔法ぶっぱなしたいなどと、もう思いませんから、おうちに帰してもらえませんかね? 前の世界でいいです。
前の派遣先の方がマシだった。ほぼ毎回思う事です。派遣は修羅の道。
「そこの茶色の猫耳! 何ぼけっとしてんだ!」
さっきから指揮官がキャンキャンうるせえな。 ヘルメットくらい支給してくんないかなあ? 猫耳が邪魔で被れない気はするけど。魔法少女は貴重なんだろ? 丁寧に扱って欲しいのだけど。あと、せめて名前呼べよ。名前無いけど。
「魔法少女なら、マジックバリアで防御できるだろ!? 拠点を防衛してくれよ!」
は? そんなもん知らんし。むう、しかし、このままでは死んでしまうわね。
むーん、いっそ死んじゃう? 次の派遣先に転生した方がいいのかも。
いやー。自分から契約打ち切るような真似すると、怖いことになるからなあ。一度だけパワハラ地獄がキツ過ぎて、自分で死んでみたけど。何も無い真っ暗な空間をしばらく漂ってた。3日だったような、1万年だったような。あれはもう嫌です。
仕方ない。こういう時は他の人の真似をするんだよ!
知らないOSでも、他人のコンソールを覗けばコマンドが分かります。そういう感じでいきましょう。
えー、どれどれー?
首から下げたネックレスや、魔女っ子ステッキみたいのやら、振り回しながら、何か唱えてますねー?
私、そんなもの貸与されてないんだけど。
ぐぬうう。現場に入ってしばらくの間、社員カードが無くて、入口の扉を解錠出来ないのは、派遣あるあるだけど、PCすら与えられないのは、さすがに無かったよ? 戦場で武器も無しでどうせいと? 入場手続きの不備を改善していただきたい! もう、おせーわ。
あ、さっき吹き飛んだ隊長のマジックなアイテムを貰ってしまおう。
誰かが残していったスクリプトを使うものあるあるだよね。誰が作ったのかも不明なやつ。コメントもねーから、メンテナンスできないやつ。私も大量に残して来たなー。こっそり、rm -rf/*とか仕込んでおくのもあるあるだよね! ねーよ、絶対やっちゃダメだよ。
よーっし、ぶっ殺すぞー。
Killコマンドでプロセスを停止させるくらいのライトな感覚で行きますよー。いや、プロセスもライトに殺しちゃダメだけどね。
なになにー? 呪文は、なんてゆうの?
「マジックビーム!」
「マジックフレアー!」
「マジックバリアー!」
掛け声だけ? コマンドみたいなもんだね。よーし、隊長の箒に跨って、だ。
「マジックフラーイ!ファイアー・イン・ザ・スカーイ!!」
私は、墜落死で、転生した。今回も3ヶ月だったね。
しつこいですが、星はひとつでもいいし、5つでもいいのですよ。