3-4. 黄身の名は?
「あ!」
そうですよ?思い出しました。収納魔法は無いけど、圧縮魔法があるのでした。あほですねー、私。大量の冷凍チキンは、圧縮してひとつの固まりにして運べば良かったのですよ。
「うーん、戻るかぁ」
積みきれずに残してきたチキンを回収に戻ります。
ニワトリの死体を放置しても環境破壊にはならない? なるかな? ならないよねー? なるかも。
腐敗した死体から危険な細菌が発生して、いずれ人類を襲う…、とか、ありそうなので。戻るくらいなら焼却処理しとけばよかった。手順を組み立てずに、アドリブで、作業するとよくないですね。手戻り発生ですよ。
いえ、ウォーターフォールじゃなくて、アジャイルなので! これでいいのです。手抜きしても、アジャイルって言っときゃいいのです。
「ありゃー?」
チキン屠殺現場に戻ってみるとー。
骨も残ってませんでした。んー、もしかしてこれはやらかしたかも?
あの凶暴さは、この辺りの食物連鎖の頂点にいた可能性がありますよ。本来、捕食されるはずのないニワトリのお肉が、雑魚動物に食されてしまった? ああ、また不明生物が出てくる予感デスよ。
考えてみればー? ニワトリの群れじゃなくて、ドラゴンの幼体の群れだった可能性ないですか?
おぉ、私はドラゴンの幼体のヒヨコをペットにするつもりで拾ってますよぉ?
幼体のヒヨコ? 出世魚みたいなもんですかね。出世鳥。
ドラゴンなのだから偉大そうな名前を求めておったかー。納得ー。ツガイじゃないのが残念ですね。単体生殖しないかしら。繁殖したら、当初の目的通りドラゴン牧場が出来るのにね。
ま、いいか。
過ぎた事を気にしても意味はありません。初期化したディスクからデータをサルベージするよりも、再セットアップした方が早いしね。そうかー? 失われた猫画像コレクションは元に戻らない。ぐぬぬ。
冷凍チキンが溶ける前に、お家に帰ります。
「かえったでー、まんがなー」
私は、福岡に3年間住んでいた事があります。その地で覚えたのは、何故か大阪弁です。事務所の所長と、社員寮で相部屋の先輩が大阪人だったので。まんがなー、は一度も聞きませんでしたけど。
「かあちゃーん? おるー? 冷凍チキンが沢山あるんじゃけどー」
私は、山口弁と大阪弁と北海道弁のマルチリンガルです。職務経歴書の上では、C言語とPythonも喋れる事になってます。ブログの解説記事読みながら書けるので嘘ではありませんよ? それに、AIに頼めば大概のプログラムは代わりに書いてくれます。あれ? エンジニア要らなくない?
英語もドキュメントの読み書きは出来ることにしています。ぐーぐるさん翻訳があるので。
つまり、異世界言語を習得する素養はあった、ということです。
ちなみに、山口県とは世界のシン監督の出身県です。概ね広島弁みたいな言語を話すと思ってもらえば結構。ジンギなきアレな感じが日常会話です。もしくは裸足のゲンさん。ころしあげちゃう。
で、なんでしたっけ。関係ない話をして顧客と親睦を深めるのも、システムエンジニアの仕事ですからね。おまえを客先に連れて行くと後の予定が遅れて困る、と営業に言われました。営業よりも、おしゃべりなのがフロントSEと呼ばれる特殊部族です。コミュ障なので、本題になかなか入れません。
「おかえり。食材なら地下の倉庫に入れておいて頂戴。片付けたらおやつ食べていいわよ」
「ういっす」
私が、6歳児になってから、お姉様は母なのです。
お姉様なのに、かあちゃん。
「うわー、ひやいー、でござるー」
ニンニンに冷凍チキン運びを手伝ってもらいます。タオルくんは真面目に定食屋を手伝っているので、手が空いてませんからね。ドジっ子メイドのお給仕さんは観光客に大人気なのです。ひっくり返した分も全部支払ってもらいますが、未だに苦情が出ていません。ドジっ子メイドつえー。
「あ、ニンニン。ちょっと待って」
あー、ニンニンが倉庫の中に入っちゃいました。この倉庫は食材の鮮度を保つために、時間停止魔法をかけてあるので、中に入ると活動停止するのです。私がうっかり入った場合は、時間停止魔法の効果が切れるまで、誰にも助ける事が出来ません。改良しないといつか永遠に封じ込まれちゃいますね。魔力増加に伴って、時間停止魔法の効果時間が延びていってますので。魔力の増加はドラゴン肉を食べちゃったからでしょうねえ。
倉庫の入り口で停止したニンニンを、時間停止魔法キャンセラーをかけたモリで、突いて引っ張り出して、戻らないよう振り向かせます。モリで突いた穴は治癒魔法でこっそり治しておきます。
「あれ? 倉庫に入ったはずが外に出ているでござるよ?」
本人の感覚では、倉庫に入った瞬間に、外に出ていた、って感じでしょうね。土曜8時のコントにありそう。
非常に危険なので倉庫を改良しましょう。こういうのは、思い立った時にやっておかないと。ずっと先送りにしてしまいます。ささっとやっちゃいましょう。
「おおー、これはいいですぞー」
倉庫の中にターンテーブルを設置。テーブルの上を放射状に90度単位で4つの区画に分けて食材を格納。ターンテーブルを回転させると、出し入れしたい区画だけが、倉庫の外に出てくる、という構造です。
各区画の端っこは、魔法の効果範囲から、はみ出してもいいように、そこは物を置くのは禁止です。安全確保のための余長は重要。
もっと改良すればFIFO、先入れ先出しも楽になりそうですよ。ふっ、技術の勝利。久しぶりに、エンジニアらしい仕事をしましたね。施工したのはニンニンですけど。6歳児の私には無理なので。
「もしオンドリだったら、早朝にコケッコ鳴いた瞬間にシメるわよ?」
冷凍チキンの片付けが終わったので、おやつタイムです。お姉様と、すっとんとんシスターズにもヒヨコのアマテラスを紹介します。ドラゴンかも知れないので、ヒヨコではなく、アマテラスと呼ぶ事にしました。もう情が湧いているので、食べられないですし。
シメる、と言われた瞬間、ヒヨコはビクッとしました。定食屋内での序列が刷り込まれた模様。もしかしたら、ドラゴンかも知れないんだけどなーコレ。おまえがオスだったのなら、がんばってメスになるんだぞ!
「ウマソウ、がいいんじゃない?」
「ヤキトリ、もいいでござる」
「チキン、でいいんじゃないの? 食材でしょ?」
ヒヨコの名付け会議が始まりました。ですがー。みなのコンセンサスはアグリーでコミットしません。
なぜならばー。
この世界の人達は、固有名詞にこだわらないのです。みんな名乗りも呼び方も適当なのです。軍人と世界征服協議会の名簿に載せている名前だってそうです。
人によって呼び名が違う。地域猫みたいなもんですねー。
この村の名前も決まっていません。カワサキ村と呼んでいるのは、私だけです。
なので、ヒヨコの名前はみんなが勝手に呼ぶことになりました。
圧縮魔法のことは、書いてる人が忘れてました。