16-18. 猛暑はもうしょうがない
ラゾーナ宮殿の周辺は、まるで戦後の闇市だ。
実際、戦後なのだけどね。
ラゾーナ宮殿に引き籠った謎の魔女テロリストである私達を巡って、世界各国から軍や諜報部がやって来て、この地で戦火を交えた。
魔法で創造したラゾーナ宮殿はニンゲンの兵器でも多少削れた程度で、今はもう修復済みなのだけど、周辺の建物は爆撃や砲弾に耐えられるはずもなく。すっかり、瓦礫の山と化してしまった。
戦争が終わると、ラゾーナ宮殿の周辺は、反社会的な集団に不法占拠されてしまった。
廃材やブルーシートなどで作られた粗末な建物が密集している。
兵士達の死体から剥ぎ取った自動小銃やロケットランチャーなどが流通する闇市でもある。
治安も悪化するし、固定資産税も住民税も入って来ないし、神聖カワサキ帝国にとっては邪魔でしかない。
しかし、武装しているので強制退去させる事もままならない。
マッキー王女から対処策の相談を受けていたものの「不審火を装って焼いちゃえば?」くらいの案しか浮かばず。
ミーナを放てば勝手に焼いてくれるんじゃないかしら? などと思っていたところ、策を講じるまでもなく、昨夜遅くに出火した。
住民同士で抗争していたようだし、失火ではなく放火だったのかも知れない。
原因はどうであれ、粗末な建材の建物は良く燃えた。
闇市を全焼させた炎は、夜明け前に降り出した豪雨によって鎮火した。
私達は、更地となった土地を占拠するため出動した。マッキー王女の依頼だ。
「じゃがしかしー、占拠とゆうても、どうすればええのんじゃろーか?」
ニャアの言う通りだ。
魔法を使ってしまえば造作もない事だけども。
多恵子一派によって駆逐されたはずの魔女テロリストが、実は健在だった事がバレてしまう。
いや、実際はバレバレなのだろうけど、国際社会においても建前というものは重要だ。
「お姉ちゃん助けてー! ブヒー!」
なんという事か、ミーナが銃を持った不審者に捕まってしまった。
「こいつの命が惜しいなら、銃を捨てろっす!」
不審者は3人。一人がミーナを羽交い絞めにし、もう一人がミーナに銃口を向け、残る一人が、こちらに銃を向けている。
なんて不幸な連中なのかしら。
捕まえるなら最も無力なニャアにしておけばいいものを。
一番厄介なのを選んでしまった。
「こいつら、スージーとデイビーじゃねえか?」
ミカンが驚くのも当然だ。
3人組の不審者は、ラーメン屋で働く魔族達にそっくりなのだ。
「そっくりだけど違うわね。3人も居るし」
「魔族は全部で5体居るはずデース! こいつらが残りの3体デスネー!」
元合衆国大統領のアオイが言うのだから、そうなのだろう。
少なくとも合衆国の軍や情報局で捕捉している限りでは。
ラーメン屋のスージーとデイビーと合わせれば、これで全てというわけだ。
「こいつらは、ファニーとポッキーとヒロノブってわけか」
「ヒロノブじゃのうてミッシェルじゃろ?」
スージーとデイビーは、出会った当初から私の事を姐御などと呼んでいるけど、こいつらは私の事を知っていもいないようだ。
「あ、こいつら三つ子だったのか!?」
武装したチンピラ達もやって来てしまった。
魔族を見て、何やら騒いでいる。
「いつ行っても同じ店員が居るコンビニの謎が解けたぜー」
コンビニの店員がいつ行っても同じなのは、この世界でも変わらないみたいね。
もっとも、今気にするのはそこじゃないと思う。
「アオイちゃん、そろそろ仕込みを始めるから、お店に来るっす」
ラーメン屋の魔族がアオイを迎えに来た。スージーなのかデイビーなのかは分からないけど。
「あ! 隊長!」
「お前は、ポッキー! ファニーにヒロノブも!」
「は? え? ポッキー?」
だから、なんでヒロノブなのか。
なんでもいいけどさ。
「ちょうどいいっす。お前らも仕込みを手伝うっす」
「うっす!」
ポッキー達はミーナを解放し、ラーメンの仕込みに向かった。
魔族は再結成を遂げ、ラーメン屋の人手不足も解消された。
チンピラ達は、反撃の矛先を失ってしまったミーナにボロクシャにされた。
こうして、ラゾーナ周辺は不法占拠から解放されたのであった。
「この世界の夏も暑いわね」
一面の焼け跡の何処に居るのか、セミがやかましく鳴き始めた。
そんな夏のある日の出来事だった。