15-21. ついにワシは見たんよ
「ほげー、致死量を超えた生クリームなのじゃー」
「これは犯罪だよ、お姉ちゃん。そきゅしゃしゃちゅだよ」
ニャアとミーナも、致死量越えプリンを頼んで、もしゃもしゃ食べている。
やはり、ふたつ括りの方は、ミーナだ。ニャアのクローンやエイリアス、反物質ニャア、あるいは同時多重存在ニャア、残像のニャアなどではない。
仮想でもない、現実に存在するニャアとミーナだ。私の主観では、1日ぶりくらいだけど、ふたりにとってはきっと違うのでしょうね。
「ニャアは相変わらずね。ミーナは、どうしちゃったの?それって女神シリーズの素体? よく見つけたわね」
私も、白骨化したそれっぽいのは見つけたけどね。あれも、いつか使う日が来るのかしら? もしくは、邪悪な魂の依り代になったり?
「作ったんばい」
「秋葉原でパーツ集めて組んだみたいな事言ってるわね?」
「素材から作ったんばい」
「こだわりシェフのサラダみたいな事を」
どうやって作ったのかは、どうでもいいや。
「双子みたいにそっくりなのね。ケツの穴の刻印は何番なの?」
女神シリーズの素体は、0番から9番が存在し、体のある場所に、数字が刻印されているそうだ。別に、何番でもいいけどね?
「品が無いんよ。おしりのあなと言いんさい」
「変態にも品格があるのね」
そういえば。近衛騎士の素体にも、刻印があるのだった。もしかして、今の私の体にもあるのかしら? ニャアにバレたら、触診されちゃうから黙っていよう。
「ミーナは近衛騎士の体に入ってたでしょ? あれは壊れちゃったの? それとも、どこかに落としちゃった? 側溝の蓋の隙間とか」
「あー、うん。あれなー?」
ミーナは、ニャアそっくりのポケっとしたツラで思案している。
どうやら、忘れてしまったらしい。
私も、「米が無ければその辺の草でも食ってろ」と発言して大炎上した姫だった人生の最後を思い出せない。火あぶりやギロチンは確か戦国時代の日本には無かったわよね? そもそも、あれは戦国時代だったかしら?
ヒトの記憶容量にも、SSDやHDDと同じ様に上限があるのだ。バッドクラスターや、ファイルテーブルの不整合だって起こる。ジャーナルは常に腐っているから検索もままならない。
「まあ、何でもいいわよ。今のあんた達は、この時間軸のあんた達なの?」
実のところ、私自身がどうなのか分からない。過去から未来に来た私なのか、過去から連続した私なのか。これから過去へ戻る義務があるのか、未来へ行く使命があるのか。いい加減面倒くさいわね? もう、どうでもいいかしらね。
「うーん? 分からんちん」
「それは風に聞いてくればい」
「まあ、いいや。4人再会したって事は何かやる事でもあるのかしらね?」
博多という街に集められたのだとしたら、神とでも云うべき存在は、私達に何を望んでいるのか。もし、そんなものが居るのであれば、何かクリアしないとならぬイベントがあるはず。まるで、シナリオの決まってるゲームのようね。ミーナの魔法があればセーブからのやり直しだって出来てしまう。
このゲーム、リセットしたらどうなるのかしら? あるいは電源を落としちゃったら?
何が、その行為に該当するのか分からないけれども。
「4人揃ったって事は、ガールズバンドを結成するべきだろ?」
「あんた、諦めないわね」
ミカンは、ずっとそれを言っている。
「ワシ、楽器できんし」
「いい加減何か習得したらどうなんだ? 何万年生きてんだよ」
何万年生きようとも、どうやっても身に着かない事はある。あらゆる言語を理解するニャアだけど、英語だけは何故か習得出来ない。システムエンジニアのくせにね。英語のマニュアルや資料を読み書きする機会が多いのに。あるいは、システムエンジニアだからこそ、苦手意識が払拭出来ないのかしら? もはや呪いね。
「私も、ベースはきっともう無理よ。正確無比なリズムを刻めたのは、機械の体だったからよ」
「うーん。今は、陰陽師とダモン神獣ツノのハイブリッドなんだっけ? 確かに、音楽とは無縁そうだなあ」
多分、それに近衛騎士の血も混じっているけどね。あいつら連携プレイが壊滅的に下手だから、バンドには絶対向いてない。ギターかボーカルならいけるかしらね? 周りのメンバー全員が合わせてくれる前提だけど。
「ワシだけ、何も出来んままじゃのう」
「まだ、魔法を失ったままなの?」
「うん。ちょっと異世界に100万年程居たりもしたけど。そこでは医者じゃったんよ」
「どうせ、おしりのあな専門なんでしょ」
「いんや。王族の専属じゃったんよ」
「無謀な王族が居る世界があるのねえ」
ついにそこでワシは、実在するちんちんを見たんよ、などとニャアが話し出したので、みんな、おとぎ話としてそれを聞いた。もちろん、そんな妄想ファンタジーから得るモノなど何も無かった。
博多の夜は、そうやってガールズトークで更けて行った。




