2-11. 世界滅亡資格上級
世界征服協議会なる組織に目をつけられてしまった私。
心当たりなら、ありますん。
時空を越える移動魔法だけでも、十分な脅威だと思います。猫耳世界の私、ニャア大佐の懲役は26万年を越えてますしね。その魔法に加えて、やっべーのが。先日ソーシャルハッキングした対地攻撃人工衛星ですよ。
こいつ一個で都市一つを一発で破壊可能なワケですよ。ソレがなんと、1,024機も静止衛星軌道上にあるのです。それを全てスマホ型のコントローラーで操作可能なのデス! DEATH!! マジでDEATH。タップ一発で、惑星丸ごと黒焦げに出来るのです。
スマホ型コントローラーはバッテリーが全然減らないし。核融合炉でも内蔵してるんでしょうか? 核融合が何か知らんけど。強大なレーザー兵器を作るには、巨大で純度の高い結晶が必要なはずですし、一体どういうテクノロジーなんでしょうか。町工場で職人が匠の技で手作り? 継承者不足で滅んじゃったの?
「あー、世界とか興味ないんでー。帰ってもらえますー?」
気の合わない他人とつるむのとかダルいでしょ? 協議会とか知らんよ。もう帰って? 帰らないと滅ぼすよ? 私、ニワトリを買いに行きたいのでー。
「名簿に名前を載せていただくだけでも結構ですので」
空軍と同じこと言ってるよ? 魔王が言うとカルト教団の勧誘みたいで嫌デスねえ。そもそも、コイツ本当に魔王なん?
「ヴァンパイヤ様も戻っていただけると助かるのですが」
「えー? 定食屋の女将に何を求めてんのよ?」
「世界の人口の半数を死に至らしめておいて、そんな…」
お姉様の黒歴史が、またひとつ発覚しました。ヴァンパイヤって人型の蚊みたいなもんじゃないんですか? であれば、大量虐殺も可能でしょうね。ヤベえウイルス媒介してやればいいのだから。
「うーん。まだソレを知っている奴が生きてたかあ。血ぃ吸うたろか?」
「吸ってもいいですけど。死にますよ? どっちも」
ほほう、ヴァンパイヤと魔王は相打ちで対消滅するのですか。魔法少女は何と相打ちで、何に圧勝するのでしょうか? ああ、そういうのを集めて相互破壊確証で煮詰まった状態にしたいのですね、協議会とやらは。
「めんどうねぇ。名前だけならいいわよ。あんたも名前だけ貸してあげなさい」
「ういっす」
「ありがとうございます。では、お名前を頂戴しても?」
「しんじデス」
世界を滅ぼすと言えば、しんちゃんでしょ。あちこちで適当に名を名乗って混乱しそうだけどさ。どうせ何もする気がないので。
うーん?
外が騒がしいですよ?
まるで家の裏の空き地に垂直離着陸機が降下したようなー? そんな爆音で定食屋の壁がビリビリと震えています。
「ニャア大佐は居られるか!」
空軍大将が慌てた様子で定食屋に飛び込んで来ました。
「巨大不明生物が現れた! すぐに出撃を!」
「ああ、遅かったか。魔法少女が協議会に加われば抑止力になると思ったのに」
空軍大将がフラグ通りの発言をすると、魔王が頭を抱えました。もしかして、巨大不明生物も協議会の会員なんですかねー? もしくは監視対象でしたかね?
「現場は何処だ? 我も向かおう」
「は? 貴様は何者だ?」
「雑魚に名乗る名はない。早く案内しろニンゲン」
なーんだ。ちょうどいい兵器が偶然ここに居たじゃないですかー。魔王も世界征服協議会なんだから、最終兵器なんでしょ? しかし、空軍大将を雑魚呼ばわりする魔王が、私には低姿勢ってこわくないですか?
「拙者も行くでござる」
「私も、行くわ。こいつら危ない事しそうだから。タオルは、お店お願いね」
「ういっす。お任せアレー」
「私と巫女もお店手伝うわよ。だから生卵無料券ちょうだい」
ドリル縦ロールメイドのタオルくんと神の使徒共を店番にして、すっとんとんシスターズ-1出撃デス! 今日の村民の晩ご飯は全員牛丼ですね。牛丼ならタオルくんだけでもワンオペでイケるので。
よっしゃー! 空飛ぶねこバスに乗ってごー!
空軍の先導について行き、ねこバスで飛ぶこと2時間。
眼下に巨大不明生物が見えてきましたよ。
「ニワトリでござるか?」
変なところでフラグが絡み合ってしまいました。巨大不明生物はニワトリにしか見えません。どんだけ巨大な卵を生むのでしょうか? 芋煮会みたいな鍋で目玉焼きにしてみたい。
「あれよ、あれ。巨大生物は自重で潰れて死ぬ、ってやつよ。だから軽くするために鳥なんよ、きっと」
「ほほう? 鳥類は飛行のためにスカスカで軽い構造してますからね。だから自重で潰れぬと? でもニワトリは飛びませんし、案外重いでござるよ?」
「まあそうだね」
ヲタク知識の自爆デス。科学的な理屈をこねる前に、今お前が飛ばしているねこバスの飛行原理を説明してみろってんですよ、私。
「魔王はアレの事知ってそうだけど?」
「あれは、ワイバーンです」
出ましたよ。ファンタジー動物界のトップエリート。
ワイバーンといえば、ドラゴンの一種です。あれを倒せば私もドラゴンスレイヤーに!? ドラゴンスレイヤーになるのも、異世界モノの定番ですからね。やっておくべきでしょうよ!
ついに合法的に魔法をぶっ放すチャンスが来ました。魔法少女ニャア篇始動です!
「強さはどれくらいでござろうか?」
「世界滅亡資格の中級ですね。中級は五体以上がパーティを組めば、世界を滅ぼせます」
どこが認定してんの、その物騒な資格は?
「しんちゃんさんは上級、いやそれより上ですね。単体で、しかも、5分以内に世界を滅ぼせますよね?」
こいつ見通す悪魔なのかしら? お姉様がバラしたのかな? 散々おもちゃの自慢しちゃったし。
5分どころか5秒もかからないよ。対地攻撃衛星1,024台が最大効率で稼働するスクリプト組んだから。スマホのOSはリナックスだったんですよ。どうなっているのやら。剣と魔法の世界でシステムエンジニアが途方に暮れる物語だったはずなのに、ちょちょっとスクリプト書いただけで世界最強デスよ?
「あのワイバーン食えるの?」
「大変な美味だそうですよ」
「定食屋の看板メニューにして、村の外からも客を呼ぶわよ! 可能な限り無傷で絞めなさい!」
「いえす! まむ!」
出来るなら巨大化して戦いたかった。でも、服が破れて全裸になるのでやめておきます。
アハトライトスラッシュで、さくっとね。
八つ裂きにする光の輪を飛ばしました。ドイツ語が混じっているのは、チュウニの命名だからだよ。生け捕りにして卵産ませるのも夢が広がるのデスが。アレを飼えるニワトリ小屋はないのでー。ヤキトリ、親子丼、水炊きデス!!
ずどん!っとワイバーンのクビが落ちて、大量の血がぶっしゃああ! っと吹き出します。逆さに吊った方が、きっちり血が抜けていい…デス…か、…ね!?
こわいです。なまらこわいですよ!
クビが落ちたのにワイバーンが走り回ってますよ! ニワトリで、こういう奇特な事例が現実にあったそうですけどー。食べるつもりでクビを落としたのにニワトリが死なず、その状態で1年半も生き続けたのだとか。
「あー、これは被害が拡大しているでござるなあ」
ぐぬぬ。これ私の失態になるんでしょうかー? クビ無しニワトリと化したワイバーンが音速で地上を駆け回っています。衝撃波まで発生して、地上は広範囲に渡って粉々。被害は東京ドーム何個分でしょうか?
東京ドームの大きさもよく分からんわ。ギガは10億、くらいにスケール感の掴めない表現よね、アレ。ギガがいくつかではなく、1バイトの情報量がどれだけかを説明しないと。UTF-32だと2億5千文字分デスよ! やっぱりよく分からないね?
ちょこまかと駆け回っているので、狙いが定まりません。範囲攻撃で跡形もなく吹き飛ばすのは可能ですしょうけど、それだと食材が残らぬ。あれを芋煮会みたいな鍋で水炊きにしてみたいー!
そうだ!
地形を変える魔法で山を作ります。最初に広範囲にドラゴンを山で囲み、少しづつ狭めて行き…。
うっしゃあー!ぶっ殺せー!!
システムエンジニアは、殺すだの死んでいるだの日常会話で言います。不正なプロセスを停止するコマンドは、そのまんま「kill」ですし、障害で停止しているデバイスのことは、「死んでいる」と言ったりします。サーバーやネットワーク機器を擬人化して「あの子を殺そう」とか物騒なことを平然と言います。倫理観が砕けやすい素地が出来ていたのかしら? 魔法戦争の時も、かろやかに、ぶっ殺す宣言をしていた記憶がありますよ。
そんなわけで、あんな可愛い鳥さんを殺しちゃうなんて! などという情緒は微塵もなく。仕留めましたよ!これで私はドラゴンスレイヤーです!DEATH!!
あの巨大な食材を、どうやって持って帰ろう?