表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/250

15-8. どこからでもやり直せる

 私達を部屋に案内してくれたホテルのスタッフは、屈強なおばさんだった。


 ベルボーイではなく、ベルマンレディと呼ぶべきだろうか?

 きっと違うわね。

 そんな事を考えているうちに、また迷った。


 どうあがいても、危険なポリスマンレディー劇場版を観られぬ。それが私の運命なのかしら?


「ぷひっ、こんなピンチも生活魔法なら即座に解決するりん。元の位置に戻れる魔法、No Point of No Return で!」

「迷わずに目的地に辿り着ける魔法は無いの?のーたりんなの?」

「むぎゅぅ、シンプルに罵倒されたりん」


 新しいキャラ付けに挑戦している点は、評価に値するわね。


 オラクルマスタープラチナムとCCIE、どちらも持っているシステムエンジニアなど居ない。もし居たとしたら、そいつは資格詐称か暇人である。などと、ミーナが言い出した。

 特定の分野に特化すると、他の分野は苦手になる、と言いたいらしい。つまり、私達の絶対迷子感は、魔法でも矯正出来ぬという事だ。


「宇宙の真理には逆らえんばい」


 そんなに大層な事なのだろうか? 私達の転生能力は、絶対迷子感があるからこそなのだろうか。あるいは、そうかも知れない。


「ニャアが居れば、迷った挙句に、ラスボスの部屋に偶然辿り着くのだけどね」

「あれは、究極のインチキ魔法ばい。おいどんには無理りん」


 ニャアの魔法は、宇宙の真理すら都合良く捻じ曲げる。

 もしかしたら、ニャアは存在そのものが宇宙なのかも知れない。


 さすがに、荒唐無稽が過ぎるわね。


「あんた、他にどんな生活魔法が使えるのよ? 歯磨き粉を最後まで使い切れる魔法でもあんの? パンツの紐が絶対に抜けない魔法とか? 自転車のタイヤから空気が抜けない魔法とかあるの? 鯛焼きが、ツブアンかコシアンか見分けられたり?」

「生活魔法は、ライフハックか!? もっとスゴイのがあるりんよ」


 ミーナは、左眼が近視で、右眼は老眼らしい。左右不同視は、歳をとると珍しいものではない。左右どちらも近視かつ老眼なのもよくある。老眼が近視を相殺する事はない、どちらも進行するのだ。


 でも、こいつ17歳くらいに見えるのよね。年齢詐称魔法使ってるのかしら? それって何眼? 邪老眼? 疼くのはどっちの眼なの。


「疼くのは右眼に決まってるばい。でも、生活魔法で矯正できるんばい」

「眼鏡で十分じゃない? いや、かなり便利かもそれ」


 近視と老眼が併発した場合は、眼鏡での矯正は難しい。遠くが見えないだけでなく、近くも見えない。パソコンの画面が、もっとも見づらい。50歳を過ぎると、そういう世界で暮らす事になるのだ。システムエンジニアにとっては、もはや呪いだ。

 眼鏡なしで矯正出来るなら、救済されるシステムエンジニアは多い事だろう。令和の日本では、システムエンジニアの高齢化が著しい。


「メガネっ娘かぁ。それも、いいかもん?」


 何故、眼鏡の話題になっているかといえば、眼鏡屋に遭遇したからだ。


「タオリンも眼鏡作る?」

「私は、眼からビームが出るから。視力測定中に、店員が死んじゃうわよ」


 実は私の体も、近視と老眼と乱視が混在した、眼だけ老人な状態。

 他は20代に見えるんだけどね。どうなってんのかしら、この体。

 どのみち、映画を観るのは無理だったわね。


「それに、見た目でキャラ付けしても、この小説にイラストは無いから無駄よ」

「なろうに流してる日記を基準に生きているわけじゃ無いばい?」


 ニャアが居なくなってから、私も小説の体裁で日記を付けている。これが、なろうに流せるのかは不明だけども。私達4姉妹の存在と、なろうは癒着している様なので、自動的に流れているのかも知れない。どうであれ、イラストは付いて無いでしょうね。


「これ以上、この駅の中で迷ってると、異世界ゲートを発見しそうよ。部屋に戻りましょう」


 映画は諦めて、部屋に帰った。No Point of No Returnとやらは、期待通りに動作した。


「この部屋、豪華ばってん。特に、する事ないばい」

「そうよね。ここはネットが未発達だから、動画配信なんて無いもんね」


 動画配信があるなら、危険なポリスマンレディーを一気見したのにね。


「テレビはあるばってん、何か観るばい」


 チャンネルの数は多く、画質も良い。デジタル技術は発達しているようで、どうやら4KでHDRらしい。これだけ技術が発展しているのに、何故ネットが無いのか? インターネットって、軍事利用が最初だっけ? この国では、軍の予算が少ないとか、そういう事かしら。


 まあ、どうでもいいわ。


 テレビに老婆になったニャアが出てるとか、そういうイベントも無く。何が起こるわけでもなく、夜は更けていく。しかし、邪老眼ではテレビの視聴が覚束ないから、楽しめない。


「お酒でも飲みましょうか? ルームサービスでベルマンレディが持って来てくれるわよ」

「ルームサービスの担当は、別じゃないかな?」

「呼べば分かるわよ。まあ、どうでもいいんだけど」

「食べ物も頼む? おいどん、鯛焼きがいいばい」


 ルームサービスで、ウイスキーと氷、そして鯛焼きを頼んだ。

 ルームサービスの担当も、屈強なおばさん。部屋に案内してくれたのと同じ人。

 聞けば、私達専属のメイドさんという事だ。贅沢なサービスね。王妃や王子だった世界を思い出す。


「よく見ると、あの人の身のこなし、まるでくのいちばい」


 確かにそうかも。まるで気配を感じさせない動きだった。

 よく訓練されたホテルマンレディは、くのいちと区別がつかないのだ。


 これまでずっと6歳幼児の体だったので、アルコールは久しぶりだ。

 だからだろうか、私とミーナは泥酔してしまった。


 魔女が泥酔するとどうなるのか、知らないはずはなかったのにね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ