15-3. 異世界修行2日目
目が覚めると、体が冷えきっていた。
露天風呂の脇で、全裸で寝ていたのだ。
修行に来て、体を壊しては本末転倒というものよね。
でも、何かの加護で病気にはならないのだったかしら?
病気にはなるけど死なないんだっけ?
インチキな話があったもんよ。
どうせなら食べるだけで最強になるお肉とか無いの?
私は、回りくどい事は嫌いなのよ。
「あっふんー」
すぐにお風呂に入って、こわばった体のあちこちを伸ばす。
今日はまず、昨日狩ったドラゴンの肉を調理しないとね。
お風呂があるのは結構だけどさ。
なんで調理や宿泊の設備も用意しておかないのよ?
ミーナらしいと言えば、そうなのかしらね。
ニャアなら、ご飯、お風呂、お布団は絶対にセットよ。
「お姉ちゃーん」
寝ぼけヅラで、寝グセビンビンのミーナが、全裸でやって来た。
こんな状態でも見た目だけは可愛いのよね。
私と血が繋がっていそうなのは、そこだけね。
ミーナはアイドル的で、私は女王的な美しさだけど。
「おっふん」
唸りながら、すり寄って来るミーナは、如何にも可愛い妹。
うーん? 案外私もチョロいわね? ニャアの事言えないわ。
「今日は、まずはご飯よね?」
「そうばい」
また河原に行けば火は通せるでしょ。
あぁ、でも塩も何も無いのよね。
「せめて塩くらい欲しいけど」
「あるばい」
聞けば山の頂上付近で岩塩が採れるのだとか。
もっと安全に行ける場所は無いの?
「川に沿って上流に向かえば、比較的安全ばい」
本当かしら?
修行する前に、サバイバルが過ぎると思う。
「こんな過酷な環境でどうやって修行すんのよ? 強くなる前に死んじゃう」
「うーん、大魔女とか剣聖が修行した場所だからねえ」
国一つ滅ぼせる奴が基準じゃないの。
ニャアならなんて言うかしら。
数億円規模のコンペで勝てもしないのに提案書を作るようなもの?
どうせ協力会社に丸投げするくせにね。
なんか違うわね?
ニャアが書いてた小説はもう最終回って事でいいんじゃないの?
ITパスポート的な要素なんて、もうネタも切れたでしょ。
主人公が居ないんだし。
「いつかまた出会うんじゃよ、じゃってワシらは永遠なんじゃから」
とか言って。
勝手に終わらせてやろうかしら?
お風呂から上がって新しいパンツとジャージを出して着る。
洗濯もしないとね。
「洗濯魔法とか無いの?」
「あるけど、そういうのは使えた事ないばい」
そういうのはポチという奴隷王女が得意だった。
奴隷王女ってのも懐かしい響きね。
パンツとジャージの残りはいくつ?
「ミーナは全裸でもいいか。じゃあ、7日分ね」
「ひどい事言ってるばい」
「それまでに地上最強の幼女戦士になろう。あんたは悪魔の力を取り戻すのよ」
「悪魔じゃないばい。魔法幼女ばい」
女神は1日で世界を作り、2日目から遊んで暮らし、7日目に人類を滅ぼした。
7日もあれば、何とかなるわよ。
具体的にはドラゴンの半身揚げを食べるまで。
丸揚げじゃダメよ。ドラゴンを真っ二つにしてミーナと半身づつ食べる。
「よし、ミーナを半身揚げにするまでやるわよ!」
「えぇ!? 悪魔はお前ばい!」
ちょっと間違っただけじゃないの。
「魔法幼女の生レバーとか食べたら、どんな力が?」
「この姉、こわい!」
昨日河原で組んだコンロをもう一度組み直す。
やっぱり、ここにも獣が来るのだ、荒らされていた。
脱衣所前に放置していたイノシシの死体は丸ごと無くなっていたし。
脱衣所から遠くは行けないかしら?
でも、脱衣所が安全って保障も無いのよね?
「さあ、あんたの出番よ。火を付けて」
バーン!
「誰が爆裂させろと?」
用意した食材まで粉々じゃない。
どうせこんな事だろうと思って、ミーナの後ろに居て良かった。
「おーん? あ、ドラゴンの生レバーの加護か!」
「ちょっと、全力でぶち込んで見せてよ」
ちょうどいいことに、巨大な熊が川の上流でバシャバシャやってるわ。
鮭でも獲っているのかしら?
案外近かった。あぶなー。
ずずーん!
「川の流れが変わったわね?」
「うはー、やってもうたばい?」
熊も鮭も粉々、どころか何も残っていない。
川の途中に、大きな池が出来ちゃった。
ドラゴンの生レバーひとつでコレかあ。
案外、チョロいんじゃないの? この修行。
「うーん、魔力切ればーい」
「あ、ちょっと、何してんのよ」
ミーナが、すやぁっと寝てしまった。
魔力切れってこうなったっけ?
あ、そういえば魔女っ子ステッキって魔力のモバイルバッテリーじゃなかった?
なんて重要なアイテムを忘れて来てるのよこいつは。
鍵と兼用なんでしょ? マヌケが過ぎるわ。
またしても、ミーナを背負って脱衣所、いや拠点まで帰る。
脱衣所って響きがマヌケなのよ。
言葉の響きは重要、ニャアは拘ってたわね。
その割に、マヌケな名前ばかりつけてたけど。
そして、私は今日も水だけ。
仕方ない、ミーナを枕にして寝よう。
「ううーん、ニャア姉ちゃん助けてぇ」
だから来ないし、来ても役に立たないって。
でも、私もニャアさえ居ればなあ、って思っちゃうわ。




