2-9. 時を旅するシステムエンジニア
お姉様は、10万6歳でした。
悪魔デスか? ヴァンパイアなら悪魔みたいなもんですね。しかし、10万6とか正確に数えられるものですかね? 私は、今年でトータル何歳なのかアヤしいですよ? 異世界を転々としたせいで一貫した暦も無いですからね。あと、私数字に弱いので。システムエンジニアがみな理系とは限らないんですよ。私は、どっちかというと文系? でもない、広く浅い薄っぺらなヲタクです。
たとえ10万6歳であろうと、お姉様は概念としてのお姉様なので、決してババアではありません。
なにしろ明日は我が身なので、ブーメランは回避デス。不老不死の私も10万年くらい生きてしまうかも。もしかした56億7千万年くらい生きてしまうかも。この惑星が、そんな先までは保ちませんねえ。
何も無い宇宙空間を漂いながら生き続けるとか拷問デスよ? 転移魔法でも習得出来ないものかしら? それも1000光年単位で転移可能、もしくは異世界に転位可能な超絶技巧転位魔法を。
でもー、魔法のリポジトリサーバは猫耳世界にしか無いようなんですよねえ。今から追加でダウンロードするのは無理っぽい。死ねば転生する特殊体質の私ですけど、死ねないのでもう転生は出来ませぬ。なので猫耳世界に行くのも無理っぽい。むぅぅ。治癒魔法と転生魔法はセット推奨でしたかね、パッケージになっていたかも。
まあそれはともかくですよ。10万6年間もこの惑星を見守ってきたお姉様によるとですよ。この惑星の人類は1度滅んでいる、と。ほっほう。1万2千年前に女神の気まぐれで人類滅亡。女神なあ。私も異世界で地上に顕現した女神に会ったことあります。私に似た貧相な見た目の6歳幼女でしたね。
これは余談デスが。お姉様は、2000年前にこの辺りを支配していた帝国を滅ぼしたそうです。ろくなことしてないね。私も、猫耳世界で聖国の首都を壊滅させたような気がしますが。
「ニャア少佐が見たのは1万2千年前の幻影なのでは? 魔法で過去に行って来たのではないですかね?」
おいなりさんシスターの見解が辻褄があっている気がしますがー。私、時そばみたいな魔法は習得してないはず? 飛行魔法で畳に乗って飛んでっただけのハズ。マッハ2は出てましたけど、この世界でも特殊相対性理論が通用するなら、その程度では時空を1万2千年前も越えません。魔法なんてものがあるのだから、エナジーはエムシースクエアと同等ではないかも知れませぬが。
推測を重ねても事実は分かりません。事実をは観測せねば。うーん、どうやって?
まあ、いいか。
とりえあず、音速飛行は危険なので封印しましょう。というか魔法を封印するはずだったのでは? ははっ。
翌日。
落語のノリで時空転位するのは情緒に問題があるからだ、ということで今日は強制的に幼稚園デス。生意気な幼児と遊んでも情緒は矯正出来ないと思いますがー。
「ねえ、空がおかしくない?」
ボス幼女が空を見上げて驚いていますよ。ほほーん? これはいつか私が見た光。青い光。まさかチェレンコフ光でしょうか? QTフィールド全開で村全体を覆い、超絶技巧治癒魔法を無差別で広範囲にブロードキャストします。
青く光る雲がグルグルと渦巻いて、渦の中心からピカーっと牛を攫いそうな光が地上に差しました。
ああ、やはり。猫耳世界で聖国の首都を壊滅させた時と同じエフェクトですよ? ということは、光の中を地上に向かって降りてくるのはー。
「やっぱり隊長にゃ。見た目は貧相で全然違うけど、魂の形が煮崩れた小豆にゃ」
「開いたアジを元に戻すにゃ」
猫耳魔法部隊ニャア大佐の部下の2頭ですよ。異世界とゲートが繋がってしまったかー。ゲイトオブバビロンがビローンと繋がりました。ダジャレみたいな表現使うのは、脳が6歳児でも魂が50代だからでしょうね、きっと。ともかく異世界の猫耳娘達がやって来ました。
「なしたの? あんたたち?」
「隊長が、こっちに私たちを飛ばしたにゃ」
「戻して欲しいにゃー」
ふーむ? 向こうの私が何をー?
むむっ。ぴこーん!と来ましたよ!? 猫耳世界のニャア大佐と、こっちの私ニャア少佐の間でゲイトを通じてHAリンクが確立しました! 向こうとこっちで情報が同期されます。おおっ、おっほぅおお!!
ふむふむー? 大規模攻撃魔法を使うから、部下達はそっちに避難させたー? だから、送り返して欲しいとな? でも転位魔法は? 私、そんなの使えないのジャガー? なんと!? 魔法も同期して習得出来るとな!? なんてインチキな。異世界やっぱチョロいな。いや、もうひとりの私が苦労した結果なのです。描写されていないだけで、血の滲む修行の成果なのですよ、きっと。
同期完了!! 今の私なら猫耳部下を異世界に送れますよ!!
事象の地平線を越えろー!! 虹色転位魔法!! オーバー ・ザ・レインボー!!
ぼうーっと7色の光が2頭の猫耳を包みます。
「来たにゃ。さすが隊長にゃ。開いたホッケにゃ」
「時ソバが見えるにゃ…ひとつ、ふたつ、みっつ…今何時?」
「そうね、だいたいね!」
うにゃぁああああああん!!
二頭の猫耳部下は虹の彼方へと渡っていきました。
ニャア大佐からDMです。脳にダイレクトメッセージです。
「2頭は無事受け取ったにゃ.。パケットの欠けも無いにゃー」
「おーけー。SYN-ACKを返しますよ」
「ACKにゃー。ばいばーい、まったにゃー」
異世界通信も3ウェイハンドシェイクでしたか? うーん、パケットが欠けてたらエラー訂正の不正処理で猫耳が熊耳に化けたりしたんでしょうか。こわー。ちょっと自分を送る気にはならないね。
見事、転位魔法を習得出来ましたよ! やっほう!
時を越える魔法も、いつの間にか習得していたようですし。これでインチキ魔法無双が!?
あー、しかしあれですね。園児たちが、私を遠巻きにしてヤベェものを見る目ですよ。完全にアウェイ。これだけ派手にやらかせば、是非もなし。やっぱり、この世界で魔法を使うのは危険ですかね。
何よりも、私が幼稚園に通うのは無理デス!! DEATH!!