13-22. 大怪獣大対決
「ほい、コレ当面の活動資金ね」
「ダモンのお金じゃねえか。ここじゃ使えないぞ」
あ、しまった。ダモンのフリマの売上を冒険者ギルドの活動資金にしようと思ったのに。
「金貨ではあるが。ここじゃダモン王国なんて知られてないからなあ」
ダモンと交流が出来れば価値を保証されるのでしょうけど。お金を鋳潰すのもなあ。ああ、そもそも金の価値だって全然違うのです。ダモンとアノンは交流させない方がいいかなあ? どっちにも戦争大好きっ子が居て危険だしなあ。
「ここは大丈夫だぞ。手弁当で何とかやってくよ。ぼうず達の世話になり過ぎるのは良くねえ」
「ほいじゃあ、またね。もう来ないかも知れんけど」
「ああ、タクシー再開したら、乗せてやりに行ってやるよ」
タクシー要らんけどね。転移魔法が完成されつつあるから。魔女やサイボーグなら、自己修復機能で多少の事故があっても何とでもなる。
「カラダのバックアップがあるからいいけどさ。剣聖のカラダのバックアップは? 女神シリーズってワケにいかないでしょ? ミーナはいいみたいだけど」
「ほじゃあねえ。剣聖は最後の近衛騎士シリーズじゃからして」
もう在庫が無いからね。作るかな? これこそ夏休みの工作。
「ここで作っちゃダメよ」
「おう、そうじゃった」
人体の有機素体はナマモノですからね。保管庫でやらないと腐っちゃいます。
「じゃあ、メルモンのモルグへ行く?」
「ちょっと意味が違うよ?」
似たようなもんですけどね。というわけで、メルモンの地下倉庫に転移です。今ここには、女神シリーズの素体が一体だけ安置してあります。私とミーナのカラダのバックアップですね。
「まずベッドが必要かな」
「死体の同衾は見た目がキツイからね」
まるっきりアレですよ、知らない人には伝わりませんが、川崎ウェアハウスの入口入ってスグのアレ。ベッドの上にエッチな人形が寝てたよね? あれも一人寝でしたね。
近衛騎士シリーズのレプリカ素体を、ちゃちゃっと作っちゃいましょう。召喚魔法でさらっとね。
「どうやって作ったの?」
「天使のどんぐりを代償にした」
「それは大丈夫ナリ?」
まあ、緊急用なので。いや? ここでモンスター化して暴走する懸念が残りますね。やっぱり、どんぐりに戻しましょう。このどんぐり、1014個もあるんですけど。
「アマテラスのオヤツにしたら?」
「ほじゃーねぇ。まあ要検討だわ。保管場所も考えないとなあ」
「そういう事なら、僕が預かろう。なんたって大天使なんだから」
「ああ、そういやこんなのもおったわ」
存在を忘れかけてましたが、静止衛星軌道上で人工衛星に擬態している、スコン兄さんです。この人工衛星は、誰が作ったのか謎ですけど、実態は人類に裁きを下す大天使です。
「ほいじゃあ、頼むわ。ヤバい時は自爆してね」
「いいよ。それが元魔王の宿命。派手な打ち上げ花火を見せてやろう」
AIに雌雄があるのか不明ですけど、性同一性障害で自分を男だと思ってますからね。妙なところにロマンを感じちゃうようです。その心を利用する私はヒドイですね。女神ですからね。
さてとー。何して遊ぶ?
「他にも国土調査で行くのでは無いナリ?」
「もう飽きたわ」
「あ、そう」
タオルくんは学校にもスグ飽きそうですねー。まだ、まともに通ってもいないのに。
「ドラゴン退治行かないの? 姉ちゃんドラゴン好きでしょ?」
「ワシら全員、既にドラゴンスレイヤーじゃろ? もういいよ」
「あ、そっか。そんな事もあったね?」
近衛騎士が命がけで探すドラゴンを「あ、そっか」扱い。如何に我々が規格外の大怪獣であるかという事。
「だったらー、大怪獣大対決やっちゃう?」
「お? いいですぞ。ミーナ殿とは模擬戦しかしておらぬでござる」
いいけど、惑星割ったりするなよー。
はい! とゆーわけでね、今日は、剣聖 vs 大魔女ミーナの大怪獣大対決をお送りしますよー。 おもしろかったら、評価お願いしますネ!
場所は、近衛騎士予備校の中庭。伝説の樹の下で倒しちゃうと、敗者は勝者に絶対服従という罰ゲーム付き。戦い大好きな生徒や教師、職員達で観客も満員です。カフェのテラス席で優雅にお茶しながら観戦しているのは上級生達ですね。その中でも特等席に陣取っているのは、いつも通り私とタオルくん。最下級生ですけどね。
「あほねえ。ミーナが勝ったら教師と生徒で立場を入れ替えになるんでしょ?」
「弱肉強食、下剋上がこの学校の鉄の掟じゃからして。ほうじゃね? 解説のリンリン先輩」
「ええ、そうですわ。さすがに、生徒と教師の対決は年に一度あるかないかですわ」
結構な頻度でやってない? これからは減ると思うけどね、輪廻転生が無くなった近衛騎士達は、生徒も教師も人生一度きりなのだから。立場を賭けた大勝負は、ほいほい出来ないでしょ。
早速、いつものアレが出ました。質量を伴った残像。ニートン時代からある剣聖の必殺技です。
「ねえ? ミーナは魔法で時間を停止出来るんでしょ? まとめてパンツ脱がせるでしょ?」
「いや、それが剣聖のアレはどうもアンチ魔法効果を持っちょるらしいんよ」
「あんたは、剣聖のパンツあっさり抜いたじゃないの」
「魔法の発動時間の差みたい。ワシのは遅延時間が少ないんよ。ミーナは魔導書で魔法を覚えたから純粋な無詠唱じゃないんよ」
「へえ? ちゃんと凝った設定があるのね」
私のはスクリプトの構成次第で、ほぼゼロ時間で発動出来ますからね。相手のモーションに応じた条件分岐も自動処理だし。戦闘中でも時間を止めて、スクリプトの書き直しとテストまで出来ちゃいます。戦闘なんかする気ないけどね。システムエンジニアが本業なので。
「これは何をやっていますの? 近衛騎士の動体視力でも、変顔の応酬にしか見えないのですけど」
「見えてるままよ。笑った方の負けって勝負してんじゃない?」
どちらも美少女なので、変顔の破壊力が高いです。観客は腹筋崩壊です。
「ぐふっ。ひ、ひきょうですわ。立合い中にあれされたら負けてしまいますわ」
「ふん、精神の鍛錬が足らんな、精進せよ」
「はっ!」
はっ! じゃねーわ。タオルくんはサイボーグだから、表情筋をオフに出来るだけですよ。私も魔法でどうとでもなりますけどね。ソレ以前に見飽きているので。あいつら昔から、あんな事ばっかりしてるもん。なお、変顔最強はタオルくんです。私はキュア貧相なので、どうにも太刀打ち出来ません。
「さすがに美少女の変顔も延々やってると、飽きますわね」
「しかし、暴力のぶつけ合いすると観客が巻き込まれて死ぬよ」
「全員、近衛騎士ですのよ? 大丈夫ですわ」
だといいんですけどー。
「ははっ! 残像が何体あろうが範囲攻撃の前では同じこと! すべて等しく塵となれ!」
見た目にはサッパリ分かりませんが。周辺の酸素を一瞬で奪ったようです。正確には他の気体と入れ替えてますね。中庭で見てた生徒達がバタバタと倒れます。火炎とか使っちゃうと国宝の桜を焼いちゃいますからね。
詠唱の一瞬の隙をついて、剣聖がミーナの背後に回り込みました。
「パンツ剥ぎですわ!」
いや、なんでそこで大興奮なんですか、リンリン先輩。だが、気持ちは分かる。
「やらせるかー!」
転移魔法で逃れようとするミーナでしたが、それで更に隙が生じてしまいました。
「ははっ。お前も美容室で変な髪型にされてしまえばいいナリ!」
「うぎゃー!」
「これはヒドイですわ。剣聖の剣技はバリカンにもなりますの!?」
あーあ、ミーナの頭が丸坊主ですよ。美容室行ってもどうもならんわ。えーっと、グッドボタンチャンスですよ?
昭和のバラエティでもこんな罰ゲームは見たこと無い。コンプラ厳しい令和なら、これだけで芸能界退場かも。全女のデスマッチの頃とは違うのです。映画の役作りで女優がやれば評価されますけどね。
「ちっきしょー!」
「ふっ、戦士としての経験の差でござろう。恥じることは無いナリ」
うわー! うおおおお! きゃー!わー!
勝負あり。観客から黄色い声の大声援です。剣聖が教師としての矜持を示しました。
悪魔を討ち払った事もある、歴戦の戦士ですからね。普段の素行からは伺えませんけど。敵にしたらダメなヤツになっちゃいましたね。ニートン期は雑魚騎士だったのに。
「剣聖って、魔法使ってない?」
「じゃろうね。残像作ったり多重攻撃したり。時間を止めるか転移でもしてないと無理じゃわ」
「高速で移動しているのであれば、衝撃波や電磁波が発生しますものね。うぅん、私には無理ですわ」
「そうねえ。草ひとつ舞ってないわよ。草しか生えない。ワロス」
無理ですわって言ってるリンリン先輩も残像回避や多重攻撃が出来ますけどね。ただし、剣で斬りつける前に、衝撃波で相手が死んでます。近衛騎士なら衝撃波すら避けるけどね。剣聖に限らず、近衛騎士達は魔法も使ってるんじゃないですかね? さっき酸素抜かれた時も、上級生は逃げてました。
ミーナの髪の毛は、その辺の草を代償に生やしてやりましたよ。アホ毛付きで。
「ははっ、草生えた」
「うるせえ、ポンコツ機械獣」
以前のタオルくんと髪型もお揃いになったし、ますます仲良しですね、タオルくんとミーナのふたりは。
「ぐっ、試合に勝って、勝負に負けたナリ」
「なんでだよ!? どんな勝負したんだよ!?」
四姉妹は、みんな仲良しデス。殺し合う程にね。




