13-15. 夏休みの自由研究
一学期最後の今日。急遽、私達一年ドラゴン組のホームルームを開催しました。
4枚あった学生証のうち、新規発行は1枚のみで、ミーナのです。私とタオルくんのは元からあります。では、ニートンのはというと、学生証ではなくー。
「このクラスの担任の、スズメ・ニートン・チヨ・コレィト・スットントンでござるよ。剣聖にして、教師総代でもござるからな。夜の校舎で窓ガラス割るようなスケバンは即斬るナリ!」
そうです。彼女は、教師ですよ。そして、このクラスの担任です。だって剣聖として甦ったので。666代先まで転生を封印されたはずですけど、きっとミーナが何かしたんでしょ。掘り下げるとコワイこと白状しそうなので、そっとしておきます。
「なんで拙者だけ教師ナリ? ま、いいかー、軽音部かフォークソング同好会やるなら、顧問になるでござるよー、自己紹介やっとくナリ?」
クラス全員身内なので不要だと思いますが。
「タオル・スットントンだー。特技は、毎秒100発で撃ち出されるガトリング砲。野球をやればどんなタマでもランニングホームランだぜー、よろぴくー」
「ミーナ・スットントンです。特技は、120万年前の昔話かな? 昨日見て来たように語るよー」
「興味ねえけど」
「うるさいぞ? ポンコツ機械獣」
「ほらほらー、そこ。ケンカなら伝説の樹の下でやるナリ」
「ニャア・スットントン。スットントン家の当主じゃよー。爵位はドラゴンでー、終身名誉王女なんよー、自他共に認める女神で、大天使の妹なのじゃー。本業はシステムエンジニア」
「属性盛り過ぎよね?」
「ヒドイよ?」
「ワシ自身もそう思うんよ」
「明日から夏休みだけど、世界滅ぼしたりするなよー」
しねえよ! とは言えないメンツしか居ませんね。
「あとなー、美容室には気をつけるナリ。バンギャみたいにされちゃうから」
ニートンは剣聖チヨちゃんとして認識されているので、美容室に行ったら、勝手に金髪のロングソバージュにされちゃいました。本人は、ポニーテールにしたかったのに。
素体として眠っていて、成長を止められていても、何故か髪だけは少しづつ伸びちゃうのです。起きた時のニートンの髪は、ポニーテールにするには長過ぎでした。自分で切れば良かったのにね。立派な刃物が腰にぶら下がってるんだから。
コミュ障のクセに美容院なんか行くから、こんな事に。でもカッコいいと思いますよ。金というより、プラチナって感じの、キラキラした白髪が。アレだ、これデビル先生だ! 先生、俺ロックバンドやりたいです。
「美容院で勝手されちゃうのは、あんただけだと思うわよ?」
「そうかな? タオル姉ちゃんもアホ毛にされちゃうよ?」
「この縦ロールはDNAに刻まれてるから、神でもなきゃアホ毛にするのは無理よ」
この学校でのタオルくんはアホ毛のイメージでしたけどね。さっき食堂でみんなのイメージを上書きできたでしょう。神が実はカリスマ美容師で、ここの美容室に居たりはしないだろうし。この世界にもし神が居るとしたら、システムエンジニアだと思います。
「ほいじゃー、寮の部屋にー、ってワシらの部屋なくない?」
「そういえば、最後は馬小屋だったわね?」
「何をやらかしたの? いや、知ってたわ」
ミーナは、相部屋のボッスンという大魔女が前世なので、この学校で私とタオルくんがやらかした事を知っています。それは、剣聖チヨちゃんだったニートンも同じですね。
「ニートンじゃなくて、スズメかチヨがイイなり。もうニートではないナリ。教師ナリ」
「じゃあ剣聖かチヨって呼ぶけど。あんた教師なんか出来るの?」
「ミーナ脳が移植されているナリよ?」
「それはそのカラダじゃないでしょ?」
「そうでござったな。教科は他の教師にやらせるナリ。教師総代なので人事も自由ナリー」
「校長を倒しておけば? 邪魔されるかもよ」
「あー、それは不要。校長は私が潜り込ませた子分だからね、言いなりだよ」
「すげえな、痛ポエム貼るためだけに潜入させたはずが、登り詰めたもんだな」
「ついに校長まで支配下にしてしもうた」
ほいではー、まずは寮の部屋の確保だね?
「1年は最上階で4人部屋なんだっけ?」
「全部空いてるから自由に使えるのでは?」
「なるほど。そういえば今年の1年生は、私ら以外全滅だったわね」
「拙者が斬ったでござるよ」
「ひでえ学校だなあ」
弱肉強食の掟だからね。油断してると狩られちゃうよ? 妖怪パンツ剥ぎとか出るし。
「じゃあ、部屋はどうでもいいわね?」
「では早速、探しに行くでござるな?」
「999か666だね?」
「どっちも押さえておけば、どっちなのか気にしなくて済む」
探しに行くのは、女神シリーズの素体です。私のカラダのバックアップですね。今の私が999か666のどっちか分からないので、両方押さえます。
「バックアップさえ確保できれば、ナンバーはなんでもええんじゃけどね」
「問題は場所よね? 原則として学校内で探すけども」
「外出禁止の校則があるからね」
学校内で、人体がありあそうな場所といえば。
「理科室に生の人体あったらこええだろ」
理科室なので骨格標本なんかもありますね。多分コレ本物だわ。日本でも昔は本物置いてたらしいですよ? 知らんけど。
「ここで標本のフリをしているのは、ボンジリとアマテラス。何やってんの?あんたら」
オウムと猫のフリをしてますね。猫は寝てるだけかな。
「自由にさせておこう」
「ほうじゃね」
「コロしの術とは、人体を知る事が肝要ナリ。生の人体標本のひとつやふたつあるデショ」
「確かに、あるわね」
「タオル姉ちゃんの回りくどい事を回避するルートかあ」
ありました。理科室に大型の冷凍庫があって、その中に女神シリーズの素体が。
「しかも、666か999のどっちかじゃよ」
天地が不明なのでどっちなのか分からないのです。これで、どっちも私のものですね。
「しかし、どうする? ここで取り出すと溶けて腐っちゃうんじゃ?」
「剣聖が寝てた部屋に転送して自然解凍しておくよ、ほいっと」
もう送っちゃった。やっぱり、魔法ではもうミーナには敵いません。
「あの部屋の電源系統を調べて、必要なら2重化3重化しておく?」
「それは難しいとこじゃね。シンプルなシングル構成の方が、むしろ耐障害性は高いんよね」
念入りに冗長化したシステム程、いざって時に動かずに事態を悪化させるような。気のせいですかね? そうそう系統が切り替わる障害ってないし、事故ばかり印象に残っているだけですかね。
「あの部屋は既に科学と魔法のハイブリッドだよ。ミクルンが知っているはずだけど。科学部分を作ってもらったし」
「あー、あいつも知っている事を黙っている権利があるからね。嘘はつけないはずだけど」
「そういえば、ミクルンの素体のバックアップも探さなきゃね」
「ソレだ」




