2-7. シュレディンガーの明日
「あんなつまんねーとこ、行ってられんですわー」
「行きたくないところに行く必要はないでござるよ」
今朝は幼稚園に行くつもりで家を出ましたが。
園児服のまま逃避行です。メイドニンニンも一緒です。彼女は前世では108年も引き籠もった引き籠り上級なので、登園拒否にも理解があります。
ポリスメンに見つかったら補導間違いなしですが、1万メートルの成層圏にポリスメンは居ません。畳に乗って音速で飛行中の私達は、以前ゲーム機を買った未来都市を目指しています。
滅んで無人となったあの都市で0円超未来道具を仕入れるのです。前回見落としてましたけど、誰も居ないのだから、残ってる物をとり放題ですよね。これは、盗難行為ですかね? いいえ、資源の採掘です! リサイクルなのでSDGsですね。さすてなぼーです。こんな単語も後数年もすれば「ナニソレ?」って通じなくなるのでしょうけどね。
「ただ遊んでるとババアがうっせえからなあ、仕事っぽいことしないと」
「タオル殿に頼まれていた縦ロールコテも必要ですしな。拙者もエフェクターが欲しいでござる。にんにん」
私が幼女になった当初は、園児服を着せたり、髪型を整えてくれたりと、世話をやいてくれたババア、いえ、お姉様ですがー。幼女の血はまずいという事が判明して以降、教育ママゴンになってしまいました。14~17歳の乙女の血が最高なんだそうな。結局あのババアは私の血が目当てだったんですよ!
「教育ママゴンも愛情があればこそですぞ?」
「まあね」
6歳児の脳に反抗期回路があるだけのことで、私を拾って飼育してくれているお姉様には感謝しかないですよ。実際あれは2000歳越えのババアだけどね。
気晴らしをしたら明日からがんばりますよ。明日から。どうあがいても明日はないけどね。明日は永遠に明日なのデス! 観測された瞬間に、それは今日なのだから。シュレディンガーの明日デスよ。
というわけで、滅んだ未来都市にやって来ました。
秋葉原みたいな街が腐り始めてますね。そろそろ立派な芋虫が沸きそう。私は風の谷の、幼女Cです。じじいの役もいいですね。ひめさまー!
炭鉱のカナリヤがわりに放したセミが即死しました。セミファイナル、じゃない完全に沈黙ですよ? やべえ細菌かウイルスが発生中? 大量に放置された死体が原因ですかね? 今日は、ゾンビ編?
換気機能付き防御魔法のQTフィールドで猛毒エアーを無効化しつつ、ゲーム機を買った家電量販店に行きます。お宝が眠ってるに違いありません。
まずは縦ロール製造マシンを探しますよ。タオルくんがヴァンパイヤを辞めて悪役令嬢になるというので。コレだけでも入手せねばなりません。
村にはクルクル縦ロールを巻くようなコテは無いのです。教会に焼印を入れるコテならありましたが。どういう用途なのかは、聞いてません。こわいので。地下牢とかありそうですよ、あの教会。
「お? これでよさそうでござるよ?」
美容家電ではなく、薬品のコーナーで見つけました。「縦ロールにな~る」とかいうクスリを。
「えーと? 服用すると永遠の縦ロール体質になります? ナニコレ?」
すげえな、超未来テクノロジー。DNA情報を改ざんする成分が入っているのかしら?
「用法および用量を守ってお使いください」
守らなかったらどうなるんでしょうね?
ま、どうとでもなるでしょう、飲むの私じゃないし。ははっ。ほいじゃあ、次は楽器のコーナーをー。
ガラン、ゴロン、ガッシャアン
どこかでマヌケが何かに躓いた音が響きましたよ?
「我々以外にも、ぬすっとさんが居るでござろうか?」
「そりゃまあ盗り放題のお宝の山だからねぇ」
「QTフィールドが無ければ即死でござるよね?」
「そうなんだよねぇ」
もしこの空間にライバル業者が居るとするなら、かなりの強者デスよ? 魔法少女か、魔法老婆か? あるいはー。
「ひゃっはー!汚物は消毒だあ!!」
うわ、頭悪そうな盗賊デスよ! お札でおしり拭いてそうです。このセリフは辞書に載せるべきですね。もしかして、もう載ってますか?
どん!ドドドーーん!!がらがらがら!どて!ポキ!ぐしゃ!!
「ちょっ!え!?うひゃあああ!!」
家電量販店の建物全体を丸ごと吹き飛ばされましたよ!
まだ縦ロールにな~るしか収穫が無いのに、なんてことするんですか。お姉様にも冷蔵庫を頼まれていたのに。どうせ村には電気が無いから使えませんけどね。
瓦礫の山の上に、神経質そうなデコ助野郎が居ますよ。脱法ドラッグをキメてそうな、いっちゃった目をしています。
「おいおい、ちびっ子じゃねえかよ?何キュアだあ? しねー!キュアヒンソー!」
ばっちーん! と衝撃波が飛んできました。一瞬ですが無敵のQTフィールドが揺らぎましたよ? こいつあれか、サイコなサイキッカーですか!? キュア貧相だとう? ぐぬぬぬ、その通りですよ。私は所詮、魔法少女Cですとも。
「酸に漬けるでござるよ! デコ助野郎ーー!!」
メイド忍者の見せ場が突然やってきました。びゅんびゅんっと一瞬で間合いを詰めます。
「なんだと! 質量のある残像だというのか!?」
このデコ助野郎も日本出身なんでしょうか? 言わせてみたいセリフのひとつが出てきました。メイド忍者のポニーテールが衝撃波で吹き飛びましたが残像だったようです。メイド忍者が沢山見えます。これ全部残像!? やべぇ、カッコいい。でも、酸に漬けるんじゃなかったの? 日本刀を突き刺してますけど。ぷっすりと。
「…ぁぁぁ」
分かります。おしりのあなに激痛が走ると声が出ないんですよ。
メイド忍者が、デコ助野郎の柔らかい部分を、剣でそっと突きました。突いてグリっと回しました。うわあ…。
「トドメさしてあげたら?」
「えー、しかしー、刃こぼれするでござるー」
「柔らかくて即死する急所もあるでしょ? 目ん玉とか」
「あー、なるほど」
左の眼球から左脳まで刃が到達したようです。デコ助くんは息絶えました。グロいですよ?
「またつまらぬモノを…」
「斬ってはいないのではー?」
「ポニーテールは振り抜かないでござる。にんにん」
にんにんちゃうわ。こいつも私並みに倫理観が粉々な模様。サーバを強制シャットダウンするノリで人ひとり始末しましたよ。修羅の世界に転生経験があるのでしょうか? 帰ったら圧迫面接ごっこで経歴を聞き出してみましょうか。
ごずんっ!
「いったー!」
脳天を何かに貫かれました。超絶技巧治癒魔法が一瞬で反応するので痛みはほぼ無いですけど、脳をヤラれると意識がふわーってして気持ち悪いです。頭がパーになりそう。
無敵のQTフィールドを貫いた今の攻撃はいったい何ですか!?
サイコサイキッカー以外にも敵が居るようですよ!