13-3. IT業界は案外狭い
「テラワロスか、何もかもが懐かしい」
ついに、私達の実家である惑星テラワロスに帰って来ました。10万年くらい宇宙を旅していた計算なんですけど、テラワロスでは何年経過しているのでしょうね。特殊相対性理論的には数億年経過している事もあり得ます。
「懐かしいかしら? これ違う惑星なんじゃないの?」
「いや、そこにグフフーンがあるやろ。なんや数減っとるけども」
対地攻撃人工衛星の、666番機、もしくは999番機が、見えてます。確かに、ここはテラワロスです。
「他に、あれもないな。静止衛星軌道に係留してあった宇宙空母ヤマトナデシコ」
「地上に落ちたのかしね。私達が、テラワロスを出てから何億年後なのかしら?」
ウラシマ効果ってヤツですね。光速に迫る速度で移動し続けたので、テラワロスとの時差が生じたのです。
「前に、小惑星帯に行って帰って来たら、前の日だったよね?」
「あの時は、魔法で光の速度を越えたけえ」
「今回は、過去じゃなくて未来なのかしら?」
「どうじゃろうか?」
惑星上の大陸が、ひとつしかありません。
旅に出る前は、アノン大陸とダモン大陸の2つがあったのですが、くっついてますね? もしくは別れる前なのかしら?
このレベルの大陸移動は2億年はかかるはずですね。
「過去であれ未来であれ、数億年レベルの乖離があるんじゃろか?」
「だとしたら、もう知り合いは残ってないわね?」
もっとも。私達コミュ障なので、知り合いと言っても数人しか居ませんけどね。惑星全体を東奔西走の大冒険をしたというのにね。
「最大の問題は、ニンゲンが快適に住める環境かどうかなんじゃないの?」
「降りてみよか」
もし人類が滅んでいたら? 私とタオルくんは、どちらも幼女なので、アダムとイブにはなれませんね。何故か、ひとり娘が居ますけども。何処に行ったかも知れないのが。
「探査ロボ下ろしやんすが」
「じゃあ、ニャア村があった辺りに」
「どことも知れやせんが。同じ緯度経度に下ろすでやんすよ」
メルモンAIは館のマザーコンピュータですけど、ミクルンAIはメイド型アンドロイドです。彼女を構成しているのはナノマシンの群体。メイド型以外にも、いろんなのに変化出来ます。そのナノマシンは大量のストックがあるで、それで探査ロボを作って、上空10万メートルから、地上に下ろします。ナノマシンの素材は、オリハルコン、アダマンタイト、ミスリルといった魔導素材ですが、テラワロスには莫大な埋蔵量を誇る鉱山があったので、同じ重さの小豆よりも安く手に入ります。
「大気成分は酸素21パーセント、他も旅行前と大きな変化なしでやんす。気温は27度、相対湿度は70パーセント。夏でやんすかね」
「ほな地上に降りる?」
「私達だけ地上に転移とか出来ないんじゃろか?」
「それはさすがに、完全に魔法やで」
「ほいじゃあ、神社の横の空き地っぽい辺りに降りて」
「ほな、降りるでー」
移動型ショッピングセンターが降下します!
移動型ショッピングセンターが降下します!
ピピー! ピピー!
付近の方は、ぺしゃんこになるでー、どいてんかー
お買い物は、座薬から核弾頭まで何でも揃うメルモンで
「核弾頭なんかあるのん?」
「冗談やで。そないな原始爆弾あるかいな」
原子じゃなくて、原始なんだ。オペレーション室のモニターに字幕で表示されてる。
「あかん。なんや巨大な飛行生物が接近中やで、マッハ越えとるがな」
くえー!くえー!にゃああーーん!
はて? あのスクリーミングシャウトは?
「ボンジリだ」
「ほいじゃあ、あの如何にもドラゴンげなドラゴンは、アマテラス?」
ボンジリは、ミヤコでフェニックスアロー特攻を決めた時みたいな、巨大な怪鳥です。炎も纏ってますね。マジフェニックス。
アマテラスは、めっちゃドラゴン。にょろーんとロングテールな、どこからが尻尾なのか分からんタイプです。漆黒のチュウニドラゴンです。
猫型ドラゴンじゃったアマテラスが、ほんまもんのドラゴンになっちょるげー。こいつ、ほんとにドラゴンじゃったんかー。ほげー。
「かーちゃーん。おかえりー」
アマテラスが喋った。数億年経ってれば、これくらいの成長はするか。いや、この程度の成長に数億年もかかると言うべき?
「ただいまー、アマテラスー、ボンジリもー、元気じゃったあ?」
「ククッ、アホ毛のあるじ、よくぞ帰ってきたな」
ボンジリも流暢に喋ってる。前は、オウムレベルのカタコトだったのに。実際、見た目もオウムだったしね。
「お? ボンジリ野郎、成長して生意気になったな? 食うぞコラ」
「はあ、どうぞ? そのためのフェニックスなので」
フェニックスって食用じゃったん!? 何度食べても蘇る万能かつ完璧食。しかも携帯するまでもなく自動追尾してくれる。ああ、宇宙に連れて行けば良かった。宇宙空間での食料の確保は大変じゃったんよ。
移動型ショッピングセンターが着陸します!
もう逃げても遅いでー
何か言ってますけど、ちゃんと誰も居ない事は確認済みです。ニンゲン以外の昆虫とか鳩までは知らんけど。少なくとも、ぬっこ様は居ない。
衝撃波も電磁波も発生させずに、推定9万トンのメルモンが着陸しました。
「周囲への影響、震度2弱。ええ感じやでー」
どんな技術なのでしょうか? これは十分に魔法レベルなのでは。
「ただいまりもん!」
「あら、お帰り。今度は、何処行ってたの?」
「ほげっ! かーちゃん! まだ生きちょる!」
「なに言ってんの?
この世界での私の里親。暁の魔女です。
「あ、じーちゃんまで。いつもの」
「ここは喫茶店でもバーでもねえんだ。この時間はランチしかねえよ」
「ほいじゃ、それ。あ、金ならない」
「子供が、メシ食うのに金の事気にすんな」
なんか見覚えのある定食屋があるなーって思って入ったら、今でも中身が経営者込みで一緒でした。宇宙旅行中に、何年経過したのん? 旅立つ前に見た、黒板の落書きなんてそのままじゃない?
冷やし中華はじめません
はじめないんかい! じいちゃんがラーメン嫌いだからね。冷やし中華に限らず、ここにはラーメン系のメニューは一切ありません。ラーメンで釣られてネジにされたトラウマでもあるのかしらん?
「ちょっと銀河一周旅行をしてきた」
「おみやげは?」
「大天塩なら、沢山ある」
「なんだ? 天使の巣でも見つけたのか?」
「ばっさり狩って来た」
「天使の子は?」
「そんな蜂の子みたいなもんはー」
「あったわよ? 天使共が先に食べちゃってたけど」
ほげー、そんなものが。
ああ、久しぶりに、じゃがいもとレタス以外の野菜がぶちうまい。
「なあに?そんなにご飯に困ってたの?」
そうなのだ。
メルモンもそうだけど、古代遺跡はみんな「生命の生成をしてはいけません」というプロテクトがかかっていたのだ。よって、ぽちーしたら合成メシが出てくるみたいな機械は無し。メルモンに設置した食料プラントは、ふっつーに畑と牧場。水と酸素は生成出来たし、それくらいは途中立ち寄った惑星や衛星にもあった。野菜と肉は何処にも無かった。
メルモンで生産出来たのは、ジャガイモとレタスと大豆、ニワトリ。そんだけ。後は、現地採取した天使タコと大天塩。調味料は大量に積んで行ったけどね。味噌や醤油は自家醸造でした。米と麦、小豆は断念した。主食だし、味噌と醤油作りにもあった方がいいんですけどね。あいつら強過ぎるから。大豆も危険だけど、これは大人しい品種を、古代遺跡のひとつで発見できたので。じゃからしてー、ずっと、おはぎを食べてない。
「だったら、おはぎ食べるでしょ?」
「あざます!」
おおおおお、脳が溶けるぅううう。




