13-2. 宇宙旅行が遠洋漁業になっちゃいましたね
宇宙での最後の晩餐は、まだお預けでした。
あちこち寄り道したとはいえ、ここまで12万年くらいかかったのです。帰りは最短距離を進むとはいえ、テラワロスまで6万年はかかるようです。ただし、体感時間は2~3週間程度です。寝て起きた回数からカウントすると、そうなります。
宇宙旅行中の時間ってどうなってんの? この宇宙は特殊相対性理論が適用されないのでしょうか?
「原理の説明は難しいなあ。10連休とか、一瞬で終わるやろ? あの感じやで」
メルモンのインチキ関西弁で説明されると、説得力があるようなないような。
「そうかあ?」
「この技術で、わいの製造者はテラワロスを捨てて宇宙移民したのは事実やで」
「何処行ったんじゃろ?」
「さあなあ? 外宇宙まで行ったんかも知れんし。こっそり帰って来てたのかも知れんな。結局、どっかで滅んでんちゃう? ニンゲンってスグ殺し合いするやん?」
もしかして、ピクピク星人達は故郷に帰って来た元テラワロス星人? だとすると、随分と皮膚の色が変わったもんですね? 赤と青と黄色でしたよ。新たな住処が過酷だったのでしょうか。彼らが滅んだ今となっては謎ですけど。ピクピク星人とのスペース・オペラは第9章です。宣伝乙。
「おやびーん。また天使の巣でやんすよ」
「えー。もうタコは要らんのじゃけどー」
「今度はタコじゃないでやんす。エッチな人形タイプでやんすよ」
「まだ残党がおったのか。食材にはならぬが、またテラワロスに来ても困る。潰そう」
「がってんしょうちのすけー」
この銀河を隅から隅まで回ったワケではありませんが。生命体と言えば、天使しか遭遇していません。カラダをネジにしちゃう星も、吸引力に定評のある放射線クリーナーをくれる星もありませんでした。地球も発見できませんでした。
「エッチな人形は塩になるだけで、食材にならないのよね?」
「なったとして食べたい?」
「無理。その辺の草食ってる方がまだマシ」
「ほいじゃあ、ミクルン。天使の巣を殲滅してー」
「あー、これはわいがやってええ?」
「いいよ。任せる」
銀河中心核のタコ型天使は、ミクルンが倒しました。私とタオルくんは特殊能力を持たない素幼女なので、見てただけです。以前は、魔法幼女とサイボーグ戦士でしたけどね。
ミクルンはナノマシンの群体。大量の極小ミクルンに分裂して、天使の巣の中に突撃。相手が小さ過ぎるミクルンを攻めあぐねている間に、ギュボーンっとタコヘッドを極小ミクルンが貫通する事でヘッドショット。
タコの頭に見える部分は、頭じゃなくて胃袋なんですけどね。タコ天使の場合は、魔力袋でした。極小の穴が開いただけで、魔法的な大爆発を起こしました。
タコ天使の魔力袋は、何個か回収してあります。これを私に移植すれば魔法幼女として復活出来るかも? 呪いで死にそうな気もしますけど。
さて。今回はメルモンが天使の巣を駆除するわけですけど。どうやって駆除するのでしょうか。
まず、私のうんこを天使に投げつけてますよ。
「お、スゲエ。天使が苦しんでる」
「なんで!?」
ダモンの近衛騎士達も、死にかけてましたけども。私の、うんこって一体!? それにしても品がない。この物語はハードボイルドSFのハズなのに。やってる事が、鎌倉武士です。ふむ? ハードな戦国記ですね?
天使がグッタリしたところに、タコ天使の巣に居た大天使の成れの果て、大天塩を、ばさーっとぶち撒けました。邪悪な存在を滅するという大天塩は、エッチな人形をボロボロにして消し去ってしまいまいした。
「うわー、あの塩こえー」
メルモンの解析によると、人体にはタダの塩って事で、私もタオルくんも食べても平気だったんですけどね。そりゃ10キロくらい食べたら死ぬと思いますけど。塩とは、そういうものですからね。
あんなにビビって取り扱いに注意していたのは、一体何だったのか? 私もタオルくんも生物としては、ぎりニンゲンのようですね。でも、ニンゲンじゃない存在に対しては、この威力。どういう摂理なの? 宇宙は謎に満ちています。
「ありゃ? タオルくんがおらん」
「ダンボを着て出て行ったでやんすよ?」
「ほげ!?」
ダンボとは、段ボールで作った宇宙服です。おおむね小学生の工作です。防御魔法を使える魔法幼女を前提に作ったものなので、素幼女のタオルくんでは死んでしまうのでは?
「昨夜、暇潰しにサイボーグ戦士になっとったで」
並の情緒ならイレズミを入れるよりも躊躇う行為を、暇潰しで! むぅ、私も天使の魔力袋で、魔法幼女に戻るべきでしょうか?
タオルくんは、大天塩にも耐えたエッチな人形型天使のボス、コケシ型大天使を機関銃でボロクシャに破壊し、傷口に大天塩を塗り込みました。更に、底に開いている穴に、エッチな人形をパンパンに詰め込んで、パーンっと破裂させました。
何で、コケシの底に穴が開いているのん? 答えは聞いてないのでいいです。
「はあ、やっぱサイボーグ戦士は、腰に来るわあ。素幼女に戻ろうかなー」
戦闘から帰還したタオルくんが、おばはんみたいな事言ってます。サイボーグ戦士が腰痛持ちだったとは。
「入れ歯外すみたいには、簡単には戻れんで?」
「え? 前は戻ったじゃないの?」
「アレはなあ、培養した有機素体からパーツ取りしたんや」
「今回もソレでやれないの?」
「6歳児の素体がないねん。14歳から27歳のカラダなら選べるで? 宇宙旅行の間に経過した時間を使って何体か培養しといてん。ちゃんとタオルはんの遺伝子で作ったから、拒絶反応も無いはずや」
「パーツ取りした時のは、他人の遺伝子じゃったん?」
「倉庫にあった出処不明なやつやで」
「なるほど。このカラダ、腰痛はあるし、なんか調子悪いと思ってたら、ツギハギのフランケンの怪物だったのか」
「さらっとコワイこと言っちょる」
「で、どないする?」
「じゃあ、19歳になるわ。ずっきゅんでばっきゅんよ」
なるわ、はいいけど。どうやって19歳のカラダに載せ替えるのん?
「脳だけ移植するとか?」
「それは本人の脳でも危険やねん。カラダ全体の記憶情報を電気信号に置き換えて、コピーするねん」
「脳のデータだけじゃなくて?」
「生き物には魂とかいうものがあるやろ? ワイには見えへんけどな」
「そこは、あっしがフォローするでやんすよ」
そういえば、メルモンは生体認証しか出来ないけど、ミクルンは魂認証も出来るのでした。ミクルンの製造者は魂の解析に成功してたんですね。でも、魂のコピーは出来なかったって言ってなかった?
「なので、魂はカットアンドペーストでやんすね。ムーブしまっす」
失敗したら消え去りそうなんだけどなあ、それ。
「ふーん? ま、いいや。じゃあ、一足先に大人になってくるわねえ」
タオルくんは、慎重な判断が出来ないくらいに腰痛がツライようですね。なにしろ魔女の一撃と言うくらいですからね。タオルくんは、捉えようによっては不穏な意味になってしまう発言を残して、手術室へ入って行きました。
カラダの換装は、16.6パーセントの確率で頭がパーになるとか以前聞いたけど。大丈夫なのん?
「パーになった分は、バックアップからのレストアで治せるでやんすよ。ハードウェア的なパーは外科的に脳をイジくればいいでやんす」
知識や知見の部分はコピーや復元が可能だったね。知能的な部分はハードウェアの問題だから、それも外科的になんとかなるのか。ということは、私のマヌケ回路も修理可能なの?
「マヌケ回路や絶対迷子感は魂の構成要素なんで生涯そのままでやんす」
これは逃れられぬ運命の理でしたか。そんな気はしてた。
「ニャアはんは、そろそろ晩ご飯食べて、風呂入って寝たら? もう18時やで」
「ほうじゃねー」
「起きたら頃には、テラワロスに帰ってるでやんすよ」
はれま。宇宙最後の晩餐は、一人メシですかー。