2-6. お前は幼稚園からやり直せ
「おねえちゃん、何してるの?」
さあ、何してんだろうねえ。
この公園で、この幼女とやり取りするのは、異世界転生直後の儀式なのですがー。
今回は違います。不死を得た私が転生することは、おそらくもうないでしょうね。
「なんで幼稚園児になってるの?」
さあ、なんでだろうねえ。
「幼稚園からやり直すの?」
魔法を封印した私は、元システムエンジニアのポンコツでしかない。この村で人の役に立つスキルなど持っていませんからね。この村にはITインフラどころかテレビもラジオもないのだから。幼稚園からやり直せるなら、それも悪くないでしょうよ。
「無駄じゃないかな?何度人生をやり直したところで人の本質は変わらないわよ?」
この幼女の言うことも分からんではないですがー。しかし、6歳児の発言とは思えないわね?。こいつも、転生者なの? 私自身が見た目は6歳児、中身は老害だからね。こいつはロリばばあかも知れないね。コンプラ的には、ひよこ老婆って言うんだっけ?
教会のおいなりさんシスターによるとですよー。6歳児というのは、ある意味においては最強生物なのだとか?
「魔力袋が最も大きいのは、6歳幼女だという統計があります」
この世界の人体には、そんな謎器官が…?
「胃袋や肝臓のような臓器ではありませんよ。魔力袋は仮想器官なのです」
その話のソースは、やはり月刊シスター?
「原典は、ブラックブックと呼ばれる閲覧禁止の聖書です。月刊シスターには、ブラックブックからの引用を読めるコラムが連載されているのです」
閲覧禁止の聖書、めっちゃ読みたいんですけどー?
「私も読んでみたいですが無理です。読めるのは当代の教皇だけですので」
秘伝のレシピみたいな聖書デスね。
「ともかく。ニャア少佐の膨大な魔力に14歳のボディが耐えられなくなったのでしょう。14歳児の魔力袋も6歳児並の大きさはありますが、邪気眼と干渉しますので」
なので、私は6歳児になってしまった?
ある朝起きたら、私は6歳児になっていました。14歳児だったハズなのに。
魔力袋の容量不足に応じて、オートスケーリングで6歳幼女になったって事? そもそも、魔法少女なんてファンタジー動物の存在が理解の範疇外なのだから、理屈や合理で考えるだけ無駄なのかもね。
原理は理解不能ですが、14歳児だった私は、ある朝目覚めると6歳幼女になっていたのです。
「せっかくなので幼稚園からやり直したらどうですか? ニャア少佐は情緒の形成からやり直すべきだと思いますよ」
おりなりさんシスター言い草はともかく。幼稚園に通うなら皿洗いは免除してあげる、とお姉様が言うので今日から私は幼稚園児です。私が定食屋の娘であること、6歳児からやり直しである事は、他の園児や保育士さんにも、お姉様から説明済み。もっとも、理解したのは、この口の悪い幼女だけのようですけど。私自身が理解していないのだから、是非もなし。
「ボス何してんの?」
「新入りに挨拶してたところよ」
このガキは、園児集団のボスらしいね。集団の序列めんどくせえ。私の騎士はどこ? メイド服を着た忍者のアレは。あれ? あいつ主君を放って何処行った? 私の騎士じゃないのん?
「保護者のお姉さんなら帰ってもらったわよ。参観日に来てもらいましょうね」
むう。そりゃそうか。保護者が常時付きまとっているワケにはいかぬか。まあ、相手は園児なのだ。日本刀ぶら下げた忍者の力を借りるワケにもいかぬ。
午前中は、ボス幼女と少し話しただけで、公園のベンチでぼうっとして過ごしました。私も砂場で砂遊びとかしたかったけど。それは私の砂よ、とか言い出されたらめんどうじゃない? これが仕事なら、どんな手段を取ってでも強制的に介入していくけども。悲しいけど、これ遊びなのよね。
お昼の時間になりました。
配膳係が、みんなにご飯を配っています。隣の小学校に厨房があるんだね。この村で、定食屋以外に存在する唯一の厨房らしいよ。配膳係になったら小学校からご飯を運ばないといけないのかー。うわー、だりぃ。
私にだけ何も配膳されません。
分かりやすいイジメですねえ。ははっ、元システムエンジニアが昼食抜いた程度で怯むと思っているのですかー? 正午開始の会議なんて日常でしたよ。ランチ? 何それオイシイの? オイシイでしょうね。
ぐうぅ。ぐごおおぉ。
むう。代謝の落ちた50歳児はお昼抜いても平気でしたが、成長期の6歳児にはツライですね。胃袋と魔力袋が盛大に鳴っています。どうしたものか?
(お姉様、私にランチパックを届けて下さい。聞こえますか、お姉様。私は今あなたのあなに直接話しかけています…)
通じませんね。遠距離通信魔法は異世界留学で習得出来ていませんでした。
リモートメンテナンスが無理な時は、直接現場に行くしかありません。リモート接続でメンテナンス中に、自分で自分の入ってきたネットワークを間違って遮断してしまうなんて、たまにあることですよ。深夜に自腹でタクシーを飛ばしたのは痛い思い出。
私は、おうちに帰りました。
幼稚園に戻るのはダルいので、お姉様の作ったご飯を食べた後は、メイド忍者とニンニンごっこをして遊びました。