12-25. 小学生はサイコだぜ
「ええい!思い切って1000円ですわ!」
「なにぉう、500円!」
「ははっ、物の価値を考えるのだ!150円やるからその席空けろ!」
「1円!」
「おい!お前ら冷静になれ!労働にはちゃんと対価をだな?」
「黙れ!老害!」
学校行事といえば、オークションですよ。今回は最安値が落札出来る逆オークションですけどね。過去の出品は、ブルマとかパンツとか違法スレスレの脱法でした。でも、今回は違いますよ。完全に違法です。
何を出品しているかといえば、学内のアルバイトをする権利です。今1円まで落ちてしまったのは、カフェのバイトです。もしかして殿下と一緒に働けるとでも勘違いしたのでしょうか? ははっ、偽情報に踊らされちゃって。
「よし。これで定期収入を確保できるよ」
例えばカフェのバイトだと本来の時給は1500円です。でも、今回は1円で落札。差額の1499円の8割が、タオルくんに入って来る仕組みなのです。お店もタオルくんもウィンウィーン、落札した生徒だけガッシャーンです。
さすがスケバン悪魔。これが私の姉妹なんだぜ? この国の戸籍では、なんか違った気もするけど。
「助かるわー、ヨコヤマ戦争の準備でお金は使い切っちゃったからね」
「ははっ。この調子で9年後にちゃんと卒業するぞー」
卒業証書なら入学後4日目に、 暴力でぶんどりましたけどね。私達は、まっとうに卒業するつもりでいます。多少の悪事には手を染めますけどね。でも、9年もここに居るかなあ? 途中で飽きそうなんだけど。
「こらー! 予備校公安部だー!」
なんと? そんな部活が!?
オークション会場に憲兵みたいな連中がやって来ました。もちろん私とタオルくんは、脱出済みです。タオルくんのアホ毛センサーが危険を察知して、ゆんゆんしたので。脱出後の扉を外から強制ロックして逃走です。
「しまったー! 他の金策考えないとー!」
ここまでやると、もはや金策というよりも、錬金術ですけどね。
「仕方ない。チヨとボッスンが来たら搾取するか」
「さすが、前世が外道国家の王妃」
別にカツアゲなんかしなくても、2人とも資産家なので、おこづかいくらいならくれると思いますけどね。スケバン悪魔のタオルくんには、スケバンの矜持があるのでしょう。
聖剣桜刀を鋳潰して作ったスーパーターボ肝臓に換装した大魔女ボッスンは、「試運転ですのよ!」 などと言って王宮で酒盛りを連日連夜繰り広げています。未だに大魔女厄災5号発生のニュースは聞かないので、スーパーターボ肝臓は成功したのでしょう。悪酔いすると魔力ゲロを吐き、周囲500キロメートルを破壊する大怪獣ボッスン。こんなのが、私の家臣なんだぜ?
聖剣チヨちゃんも飲んだくれなので、酒盛りに参加していて、学校に帰って来ません。私とタオルくんが所属する1年ドラゴン組の担任で、教師総代という無駄にエライ立場なのに、絶賛職場放棄中です。こいつも、私の家臣なんだぜ?
「おーい、おまえらー。学内でのオークションは全面禁止になったぞー。実行犯は何故か不明なままなんだと。そういう事にしておいたからなー。実家の権限でな。気を付けろよー。私の連帯責任にしたら、私死んじゃうからなー」
臨時担当は、何故か出戻ってきたユカリン先生です。実家でも何かやらかしたのでしょう。なお、元9年生で、元1年ドラゴン組担任でもある、バーガーちゃんは行方不明のままです。学校にも居ませんでした。実家に帰ったのかな?
「よーし、授業始めるぞー。何の授業にするー?」
「理科ですわ! 課外授業に行きますわよ!」
「お前は、8年生のボスGT-1だっけ?」
「そんな魔獣みたいな名前ではなくってよ?」
魔獣といえば。自動車型魔獣ルーチェにしたスコン兄さんは、十字架になりました。私がネックレスにして首からさげている、ダモン王家のオス型ハンコでもある十字架です。これ、やべえものを開ける鍵らしいのだけど、未だに謎のままです。
「うはあ、ホントにチタマは丸いんですのねえ」
勝手に理科の課外授業を始めてしまったボッスン。ユカリンは「任せたぞー」と言って教師寮に帰って寝てしまいました。
今、私とタオルくんは、ボッスンが魔法操作している空飛ぶ畳に乗って、地上36,000キロの高度から、惑星チタマを眺めています。これって、理科なの?
「地理の授業にもなりますわね?」
「まあねえ。確かに、巨大な大陸が2つあるのが分かるわ」
「右がダモン大陸かしら?」
「右はアノンじゃろ? なんか、キラキラ光っちょるげ」
「ああ、あれって天使の大軍勢なのかしら?」
「まさか、まだおるん?」
「行って見ますわよ! 本当に未知の大陸があったなんて」
まあ、大丈夫でしょう。たとえ天使の大軍勢が居たとしても、ボッスンひとりで殲滅出来そう。
一ヶ月ぶりですかね? ニャア村に帰還。ダモン結界が決壊したのは確かな様ですね。
「ただいもーたる!」
「あら、おかえり。何処行ってたの?」
「ちょっと、遠足」
「あ、そう。ケーキ食べる?」
「食後にね」
何も無かったかの様に、私のこの世界での里親である、お姉様が定食屋を営んでいますよ。またの名を暁の魔女。彼女は、大天使が率いる天使の大軍勢を見事倒したのでしょうか?
「おう、帰ったのか。いつものやつか?」
「もちろんじゃよ、じいちゃん」
暁の魔女の旦那、という恐ろしいポジションの魔王じいちゃんです。魔王ですからね、暁の魔女と渡り合える唯一の存在なので。
「今日のいつものやつは、タコ焼きだ」
「タコ? まさか天使はタコじゃったん?」
「いや。塩の柱見なかったか? あれが天使のなれの果てだ。あの塩でタコを揉むと不思議とうまいんだぜ」
「食べて大丈夫なんじゃろか?」
「お清めの効果があるみたいよ。あんたは邪悪な存在だから、食べると死んじゃうかも」
「あ、そうだな。こいつはうっかりだぜ」
「どういう意味じゃろか」
残念ながら、異論も反論もありますん。
「ほいじゃあ、ケーキだけちょんだい」
「ごめんね。タコのケーキなのよ」
「あ、そう」
なんじゃそりゃ!? ってツッコむところなのか、未だにこの世界の常識が分かりません。
「で? 天使はどんなじゃったん?」
「んー? あんたのとこにエッチな感じのメイド居たでしょ?」
「ああ、あれは古代ロボなんじゃけど」
「アレを。ずっとチープにした感じ。オモッチが南極1号かよ!って言ってたわね」
「ほいじゃあ、大天使は?」
「巨大なコケシ」
「ほいじゃあ苦戦したじゃろ」
「笑いをこらえるのが大変でなあ」
「ほらほうじゃ」
予想外な理由で苦戦してた。魔導大戦じゃくて、マヌケ大戦? 次は、神社に行きましょうか。
「あ、ニャアちゃん。いいところに」
「なしたの?シスターのシリアナさん」
「塩の柱を撤去して、地下倉庫にでも集めてもらえない?」
「あれがあると、作物が育たないと、パンツの騎士達が困ってますので。巫女の私も、きゅうりと茄子が無いと捗りませんので、お願いします」
きゅうりと茄子で何が捗るのかは、乙女の嗜みとして聞きません。いつまで、こんな下ネタが続くんですかね? これは私の日記なので是非もなし。
塩の柱の撤去は、ボッスンが魔法でちょちょいっとやってくれました。
「確かに、ボッスンを戦争に投入するのは危険よね」
「ほじゃーの」
ボッスンによると、剣聖チヨちゃんは、王宮で今度こそ本物の聖剣を下肢されて、ヨコヤマとの戦争に参戦したそうです。職場放棄では無かった。ボッスンは「過剰戦力だから、学校へ戻って」と言われたそうな。
「言われなくても、主君の元にしか居ませんのよ?」
そうかー? 1週間も私から離れて酒盛りしてたけど。スーパーターボ肝臓だと、まったく酔わないから、楽しく無さそうなんだけどな。
「次は、日本に行きますの?マスターニャアちゃん様」
「ほうじゃね」
「ついでだから、行きましょうか」
オモッチお姉さんや、ポチやキナコは元気かしら?