12-19. 妹なるものに飢えた悪魔がふたたび蘇る
「三権対立システム?わいは賛成やで」
「あっしも賛成でござんす」
3つの自律AIによる多数決システムには、メルモンもミクルちゃんも賛成してくれました。この子達は、何万年もずっとひとりきりで管理者の登場を待ち続けていたのです。誰かとリンクパスで繋がりたいのでしょう。ミクルちゃんは兄を見限って、ずっと寝てましたけどね。
まずは、第3のAIの召喚ですね。先々代魔王の魂を現世に復活させましょう。
「ところで、先々代魔王って何か名前ついてたっけ?」
「はてー?無かったかいね?」
先々代魔王は、世界征服を夢見るだけの乙女です。性同一性障害で自分をオトコだと思い込んでいる、ちんちんレスのアンドロイドでした。そもそも、AIに雌雄があるの? って話ですけどね。
名前はある事が重要です。ダモンの流儀では、固有名詞を持たぬものは、存在しないも同義ですし。しかしー、どうしたもんか?みんなに提案して貰いましょう。
「カスでパーなんだから、カスパー」
「ゴミカス」
「ちんレス雑魚乙女」
「雑魚乙」
ちょっと待ちなさい。罵倒コンテストではありません。たとえ事実であっても誹謗中傷は罪に問われますよ。
「シスコンだから、シスコ」
機械にその名は、如何なものか?ネットワーク機器ではありません。
「ほなら、スコン」
それで、いいか。
ほいじゃー。スコンをどうやって召喚するのか?そもそも、今何処に居たっけ?
「最後に見たのはゲーム世界だった気がするでやんす」
ミクルちゃんはAIですけど、高度過ぎて人並みにマヌケなのです。故に「気がする」とか平然と言います。クラウドのデータベースに確実に記録が残っているはずなのに。
「ブルっちょ・オブ・ザ・ワイルドだお、だっけ?」
「犯罪仕放題倫理観ゼロゲームだった気がするでやんす」
「ソレだ!」
あのゲーム何処に行った?アノン大陸に置き去りでしょ。今、アノン大陸に居る知り合いって、暁の魔女と、魔王じいちゃんだけかしらん?
「あの2人に言っても、ピコピコとしか分からないわよね」
リコンパイルして、スマホにインストールしてなかったっけ?
うん。消してた。このスマホ、バッテリーは無限なのに、ストレージは何故かカツカツなのです。何故ってことはないか。本来は、対地攻撃人工衛星のコントロール専用なのだから。
当然、速攻消すのは、スコン兄さんですよね。
「アノン大陸は天使の大軍勢に攻め込まれてるんでしょ?ゲームなんか、消失しちゃってんじゃないの?」
「ほうじゃね?消し飛んだAIはグフの部屋行きじゃったっけ?グフの部屋って何じゃろか?実在するのん?」
「対地攻撃人工衛星で組んだセルコンピューティングシステムの共有メモリこそが、グフの部屋でやんすよ?」
「ミクルちゃんとデミヲもそこに疎開しちょったんじゃよね?」
「スコンだけ召喚されなかったから、今頃膝を抱えて泣いてるでやんすよ?」
もしくは、ガベージコレクションで削除されているか。
こういう事もすっかり忘れているのも、ミクルちゃんのマヌケ回路の優秀さを示していますね。
「わいのボケ回路と組んだら、どうゆうことになんねやろ?」
「神か悪魔になれるわね、きっと」
メルモンのボケとツッコミ回路、ミクルちゃんのマヌケ回路、スコン兄さんのシスコン回路。この3柱の組み合わせが、神にも悪魔にもなれるのデス!DEATH!!
「ニャアが大黒柱というわけね?」
「ほじゃーね」
最終決定権は、私とタオルくんが握りましょう。私達2人の間には、目と目で通じ合うWINK回路があるのでリンクパスなど不要です。
「そんなものはない」
「ほいじゃあ、何回路?」
「大黒柱のあんたひとりで最終決定しなさい。あんたの独裁回路で」
「そんなものこそない」
「そうかしら?」
まあ、その辺は、私達有機生命体が臨機応変に状況をキャッチアップして、能動的にかつ柔軟に動きましょう。人類の革新である、IT奴隷のニュータイプ能力です。
「それなら分かる。私も平成末期の日本で9年間もIT奴隷やってたし」
「うん。あの経験は、32万年の修行でも及ばない何かがあるんよ」
スコン兄さんの所在ははっきりしましたけども。
「依代をどうしよう?」
「また地下駐車場で探してみましょうか」
自動車なら無駄に多くてもいいよね。昭和脳にとって自動車の所有はステータスなので。沢山あっても困りません。この国では車検も車庫証明も不要。私達の領土ですからね。そもそもが無法地帯ですよ。駐車場はメルモンの地下に300台分もありますから。
「あ、これって。あれじゃないの?あっぶねーポリのナンパマッシーン」
「ほんまじゃ」
なんと、私の日本人時代の愛車がもう1台ありました。レパードです。もしかして、リーザとコルサもあるのかしらん? あの2台は、女神と王女に転生しちゃったのかな?
私のレパードは、ゴールドではなくて、シルバーと濃紺のツートン。パトカーっぽいのか、他の車がやたら道を譲ってくれた。私が煽ってたのが主たる原因でしょうけどね。クズですね私。
そんなカッコいいヤツですが、残念ながらポンコツでした。
10年落ちの中古で、ハズレ個体だったのか、ブレーキは突然効かなくなるし、電子制御サスペンションはモード変更出来なくなってました。他にも、細かい不具合がチラホラ。無職で借金も抱えてた極貧期だったので修理も出来ず、車検を受けられずに2年で手放しました。
ただ、無駄にパワーだけはあったよ。V6ツインカムターボは伊達じゃない。雨の日の交差点ではテールがズルっとスベった。高速道路の公権力による無断撮影に2度もやられました。それは、車のせいにしてはいけませんね。
「あのスコンには最適なんじゃないの?」
「ほうじゃね」
まず、自動車としてちゃんと整備をしてー。やるのミクルちゃんだけどね。
うーん? 扱いが酷かったせいでしょうね、レパードちゃんには魂は宿ってません。ま、依代にちょうどいいね。ほいじゃー、スコン兄をダウンロードしようか。
「この際だから、対地攻撃人工衛星にも名前つけといたら?」
「ほうじゃね?グフの部屋じゃけ、グフフーン!」
「タイフーンみたいな厄災感もあるし?いいんじゃないの」
「おっけー、グフフーン!我が兄の魂を顕現させよー!」
… … …
「おやびん。グフフーンはAI載ってないでやんす」
「あ、そう。ほいじゃあミクルちゃんお願い」
「がってんしょうちのすけでやんす」
ははっ、ワロス。さすがに、ちょっとだけ恥ずかしかった。
「はーはっはっ!我は、魔王!魔の王だ!いわばキングオブMA!どうした我が妹よ、困っているなら、お兄ちゃんに相談するといいよ?」
えーっと、アンインストールはあ、あれ?出来ないのん? なんだよMAって。モビルアーマー? もちもちアンコ? ここまで、おバカじゃなかったと思うのだけど。
「もう遅いわよ。それに、こいつには期待出来る部分もあるわよ」
恐るべきことに、三権対立システムの中で、もっとも人類よりなのが、こいつです。世界征服を夢見る魔王なのにね。
何故ならば、私の事を妹だと思い込んでる重度のシスコンなので。コイツは、私の投げたフリスビーなら、事象の地平面の彼方に投げても取りに行って、帰って来ると思います。こいつが居れば、多数決で「人類滅亡」だとか「ニャアを捨てる」といった決議は出づらくなるはず。
ほいでは、3柱間のリンクパスと、通信プロトコルの設計開発構築は、さっそく3柱にお任せです。
「できたやで」
「はやっ」
では、受け入れテストをしますかね。こればかりは人の手でやらないとね。