12-16. 悪魔の所業ふたたび
「そろそろ本命出すぞー、リンリンのジャージだー」
「1000万円!」
「1200万円!」
「おい!なんでお前ら入札するんだ!?本人に買い戻させてやれよ!」
「いやでーす」
恒例の学内悪魔オークションに出品されているのは、6年生以上の戦うセンパイ8人分のジャージとパンツ。パンツは全員が脱がされていたわけではありませんが、「不公平はよくないな」と、タオルくんがノビてるセンパイ達から剥ぎ取りました。
妖怪ミツバチ痴女がセンパイ達から剥ぎ取ったジャージやパンツが何処にあったのかと言えばですよ。
寮の私達の部屋です。ボッスンが使っている個室の押し入れに入ってました。ボッスンが魔法で妖怪に協力していたのでしょうね。主君のピンチは、家臣の自作自演だったワケです。
ボッスンは自供しないという技を覚えたので、敢えて追求はしていません。この子には「私にウソはつくな。ただし事実を黙っている事は許す」という制限をかけているので、ウソはつけないけど、犯行を自供しない権利はあるのです。
黙っていればお仕置きして貰えると思っているようなので、敢えて放置です。どうやっても、喜んでしまうのですけど。私の家臣なので、大変な変態さんなのは当然ですね。
「あはは!まーた儲かってしまった」
この学校ではジャージは年1回しか支給されません。
ジャージを奪われたセンパイ達は、今年度をブルマかスクール水着ですごなければなりません。そういう校則なので。まだ4月なんですよ? センパイ達はほぼ1年間に渡る屈辱に耐えねばなりません。
なんで、こんなものが高値で売れるのかと言えば、下剋上のためにセンパイ達を弱体化させるためでしょう。この学園は戦国時代の如き、弱肉強食なので。まさか、クンカクンカーしたりしないよね?
センパイ達のジャージを3年生以下に売り飛ばしたタオルくん本人は、校則ガン無視でオリジナルのセーラー服を着ています。機関銃装備で、もうアレでナニです。アダマンタイト製のヨーヨーも懐に忍ばせています。スケバン悪魔です。
「私が校則だからいいのよ。いいえ、私が王立ダモン近衛騎士予備校よ!」
「いっそ、ダモン王国を名乗れば」
「それは、ニャアに譲るわ」
「いらんなぁ」
私達の評価はもう地に落ちました。私達の部屋の入口には「寮長室」と掲げられていたのですが、「スケバン部屋」に勝手に替えられてましたし、食堂でも誰ひとりとして相席しなくなりました。
「さすがに気まずいわね?」
「ほうじゃね」
ほいじゃあ、ちょっと、国の英雄になりますかねー。学園編出戻りは中断です。
はい!というわけでね!今日は、仮想敵国ヨコヤマ連邦の大統領の演説会場に来ていますよ!見事、暗殺に成功したら、イイネ!おにゃしゃす!したの方にあるポイントつけてね!
動画を回しても、アップロードしたら確実にバンですね。歴史的記録として、ミクルちゃんが撮影してますけど。60年くらいは非公開になりそうですね。
「警備ザルね?」
「6歳幼女がアサシンじゃとは、誰も思うまい」
「あーっはっは!そんな事あるかボケェ!」
あ、そうか。この国では6歳児が怪人おまわり幼女を務める国でした!
「わざと泳がせたんだよ!おロープにつきな!」
こいつら、私達を近衛騎士予備校に収監してくれたバディです。こんな再会しとうはなかった。
「おっけーメルモン!安地に転移!」
「はい。すべてのデバイスを安地に転移させます」
「え?」
たまにあるよね。スマートスピーカーに「電気消してー」って雑なお願いをすると、全部の家電の電源オフにされちゃうこと。まあ、そんな感じですかね。
突然ですけど、ルフランのマザーAIのホストネームはメルモンにリネームしました。愛称はメルちゃんです。どうしも「ルフロン」と言い間違えちゃうので。由来は、神話である「不可思議なメルモ様」なんですけど、それについてはいずれ。
転移した先は、旧ミヤコ幕府の領地。今は、何もない荒野です。いずれここは開拓しなければなりませんね。
「すみませんっしたー!」
「くそがー!」
怪人おまわり女の二人組が、荒野のど真ん中で全裸土下座です。こんなんばっかりですね。
メルモンが定義した「全てのデバイス」は、私とタオルくん、剣聖とボッスン、暗殺対象のヨコヤマ連邦大統領、おまけで怪人おまわり女の二人組。
安地として、この荒野が選択されて、7人が転移したのです。メルモンに指示されて転移魔法を実行したボッスンの独自解釈も加味された模様。結果良ければソレでいいやー、です。こんなやり口は、システムエンジニアとしては三流ですけどね。
そういえば、ボッスンの転移魔法はデンジャラスフリーですね。誰も猫耳やおちんちんが生えたりしてません。生きたうさぎのぬいぐるみになったりもしてません。鬼教官ミーナの指導おそるべし。
「そういえば、この辺って、ボンジリ爆心地の中心じゃない?」
「そうでございますわね?」
「あ!ベーコン・レタス・トゥメイトゥの3人も、あの時この辺りに居たんじゃなかったっけ?」
「確かそうね。あいつら蒸発しちゃった?」
「うーん、近衛騎士じゃからして、生き延びてそうじゃけどもー。おんや?」
なんと!地下ダンジョンの入口を発見しました。
全裸土下座の真下に入口が隠れてました。
なるほど。メルモンが転移先に指定した座標は、確かに安地ですね?知ってたんなら教えてよん。
「いや、フェニックスアローを生き延びたヤツがおるなあ、としか認識してへんかった」
「なるほど」
メルモンのリソースは有限ですからね。優先度・重要度の低いタスクは処理しません。「ゴミ情報だな」と判断したものは報告もしませんしログにも残しません。メルモンにとっては、ニンゲンの生死なんてガベージコレクションの対象ですから。メルモンは、Java仮想マシンではないけど。
ベーコン・レタス・トゥメイトゥの3人は、地下ダンジョンの中に避難して迷子になっているのでしょう。3人は最上級生なので、救出して恩を売れば、学校での地位回復ですよ。
全裸マンレディー達を炭鉱のカナリヤ代わりに、地下ダンジョンの入口から突き落とします。
「いってーな!武装は没収していいから、せめて制服返せよ!ちんちんちくりん!」
「威勢がいいわね。こういうの嫌いじゃないぜ?」
制服は返してやることにしました。ズボンだけ返さないでいたら、タオルくんに怒られました。ぶひぃ。下半身丸出しの、婦人警官、むふん。
「こいつの変態回路が暴走し始めた」
「放っておけばオーバーロードして崩壊するでショ」
「なるほど?一理あるわね」
「ワタクシとしては、このままの方が、よろしくってよ」
地下ダンジョンに毒ガスや瘴気が溜まっている、とかは無さそうなので、探索開始です。